第191話

 ゲルテス男爵は右利きなので左からの攻撃を想定して魔盾を3枚置いた。


 !?


 男爵はステップして体を半回転させて右からの攻撃に変化させてきた!!


 なんという事だ!? 攻撃前に魔盾を置いたらそこ以外を狙って攻撃してくるのは当たり前じゃないか!!

 タイミングとしては男爵が攻撃モーションに入る刹那の瞬間に魔盾を置かなければならない。

 プロボクサーは対戦相手の筋肉の動きで攻撃を予測して回避すると聞くが…………


 はっきり言って無理ゲー……


 攻撃を喰らうのは確定として、なんとか意識を保って回復魔法の使用に一縷の望みを賭けつつ木刀を出していく。


 カンッ!


 !?

 まさか防御が成功するとは思わずビックリした。

 続く攻撃を魔盾も使いつつ木刀との併用で防御していく。


 これは…………手加減されているのは明らかだった…………

 本来ではあれば初太刀で俺は沈んでいたはずだ。

 こちらが視認できない程の剣速を繰り出す男爵が今はランテスよりも遅いぐらいの攻撃しかしていない。


 とは言え…………

 男爵は今まで戦ったどの相手よりも剣術の技量が高いのと……

 無駄に終わった最初に魔盾を置いた行動が後々まで響いてしまい……

 反撃することもできないまま首筋に木刀を突き付けられて負けてしまった。


「参りました」


「君の実力はこんなものではないはずだ。

 戦闘中にも言ったが、手数は熟練の魔術士並みではあるが戦術面で…………そう言えば君の得意魔法は土系統だったな」


 そうか。

 男爵には最初の緊急招集の時のイメージが未だに強いのかもしれない。


「現在は敵が集団の場合は土系統、強い個体相手には風系統で戦っています」


 土系統は土槍(回転)・土刺し・土甲弾だ。

 もっとも土甲弾は集団相手にまだ使ったことはない…………普通の敵は土槍(回転)で十分なんだよなぁ。魔力効率も良いし……土甲弾は相手が『進〇の巨人』に出て来るような巨人相手なら丁度良さそうなんだけどな…………実際あんなのが出て来られたらたまったもんじゃないが…………

 最初の頃はショットガンという土弾による範囲攻撃をゴブリン相手に行っていたのだが、初期以降では全く使用していない。

 舐めてる訳ではないがゴブリンはもはや俺の相手ではないし、大抵オークやオーガ相手に土槍(回転)を放って一掃するとついでに倒してる感じだ。

 ただこのショットガン、強い個体相手への目つぶしか目くらましに使えるんじゃないだろうか? 今度試してみよう。強者相手に試せるだけの心と状況の余裕があればだけど…………

 それにしても何故にショットガン? 魔法名は和風にすることが俺の数少ないアイデンティティの一つだったはずだ!

 そんな訳でショットガンは以降土散弾で。


 そして風系統は模擬戦用の風槌に風刃・風槍(回転)・風槍零式に一回ぐらいしか使ってない風嵐だ。


「やはり本気には程遠い能力しか見せてはくれんか……

 もっとも私にケガさせる訳にはいかないから、という理由だろうからやむを得ないとは思うが……」


「魔法の強弱こそ違いますが戦い方としては今のが全てです。

 ゲルテス様にこれだけ手加減されての結果ですので…………」


「様付けは勘弁してくれ。私は現場主義でな、戦場でゲルテス様なんて呼ばれると背中がムズ痒くなって仕方がない」


 んなこと言われたって……、だったらどう呼べばいいんだ?

 おっちゃんと呼んでも許されるだろうか? たとえ男爵が許したとしても周りからは敵視されるだろうな……

 ゲルテスさん? 一般人相手ならこれでいいけど貴族様相手には馴れ馴れし過ぎる感があるし……

 ゲルテス殿? も違うだろうな。


 俺が呼び方に悩んでいると、


「団長と呼んでくれて構わないぞ。ウチの連中も大抵そう呼ぶからな」


 そりゃあ騎士団に所属しているのならそう呼んでも問題ないのだろうけど……

 まぁ期間限定とはいえ自分は今男爵の指揮下にいるのだから別にいいか。


「わかりました。以降団長と呼ばさせて頂きます」


「うむ。

 それで話を戻すが、私は手加減などしてないぞ。始めに様子見はしたがな」


 え?


「ゲルテスさ…………団長の本気はオークキングを討ち取られた際に見ております。

 いえ、正確に申し上げるならキングと対峙していた自分が視認すらできなかったあの一振り、あれこそが団長の本気でありましょう?」


「ああ、あれは違う。

 あの時のはこいつのおかげだ」


 男爵は腰に吊るしている剣をポンポンと叩いた。


「魔剣ファルヴァール。我がゲルテス家に代々伝わる魔道具だ。

 扱うにはそれなりの訓練が必要とはいえ魔剣込みでは実力とは言えんよ」


 魔剣!?

 は、初めて見るぞ……そんなのがあるのか!?

 魔剣ファルヴァール!! いいなぁ…………かっこいいなぁ…………


「!? それでか!

 私が攻撃を仕掛けた際に不自然なタイミングでマジックシールドを展開したのは??」


「は、はい。

 団長の見えない一撃を防ぐには予めマジックシールドを置いておくしかないと思いまして……

 置くタイミングが早過ぎた為に御覧の通りの有様でしたが」


 魔剣抜きだと獣人であるランテスのほうがパワーもスピードも上になるのか。

 剣の技量は団長のほうが数段上だが……


「ファルヴァールの一撃を想定して戦っていたとは……

 これはもう一度戦ったら負けてしまうな」


「いえ、実戦では装備の差が勝敗を分かつことがあります。魔剣の性能込みで団長の実力だと思います。

 それに魔剣のことを知った上でもう一度戦ったとしても、自分には団長の剣技を防ぐ手立てがありませんので多少粘ることができるかもしれませんが同じ結果になるかと」


 実際のところあの不可視の一撃がないのであればそこそこ勝負になると思う。

 団長にケガさせてはいけないという縛りがあるなら勝てる可能性は限りなく低いだろうが、ケガさせても構わない通常の模擬戦仕様ならば十分勝てそうではある。

 非常に面倒なことになりそうなのでこんなこと絶対に言わないけど。


「そうか……

 まぁそういうことにしておこうか。

 これ以上遊んでいたら参謀連中に怒られてしまうからな!!」


 お遊びだったのかよ!!

 そりゃあ書類仕事するよりは体動かしていたいタイプなんだろうけどさ。


「冒険者ツトムよ。

 司令官である私はこの砦からは動けない。

 砦の外で何かあったら君に任せることになる。頼むぞ」


「お任せ下さい。自分はその為にここにいるのですから」


 互いに頷き合う二人。

 この世界では親子以上の年齢差のある二人だが、世代や身分差を超えての友情がここに…………


「ツムリーソ!! 何ですか、今の不甲斐ない戦いぶりは!!」


 げげっ!? レイシス姫が激おこ状態で行く手を遮っていた。

 

「そなたにはアルタナ王国の未来が懸かっているのです!!

 どこの誰相手であろうとも負けることは許されないのよ!!」


 どこの誰ってここの司令官であるゲルテス男爵なんですけど…………

 つか勝手に国の未来を人に押し付けないで貰いたい!!


 は!?


 丁度いいや!! この際団長にレイシス姫を押し付けてしまえば……


「団長、こちらアルタナ王国から観戦武官として……」


「冒険者ツトムよ。任せたぞ!!」


 団長は足早に砦に帰ってしまった……

 先ほど団長との間に感じた友情とは一体何だったのか……

 それにレイシス姫に関しては本来なら司令官マター担当の案件なんじゃないでしょうか……


「ツムリーソ!! 聞いているのですか!!」


 腰に手を当て俺に説教するレイシス姫は意外にも可愛らしさ満点だった…………

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