第175話

 行進する集団の最後列には30騎ほどの騎馬隊が殿を務めていた。

 その内の1騎に目が留まる……レイシス姫だ。

 レイシス姫はレグの街で見たような白の目立つ鎧ではなく地味な感じの鎧を着ている。高級品ではあるのだろうが。

 今回出征軍に帯同するのはアルタナ王国の姫としてではなく、あくまでも観戦武官としてということなのだろう。供をする者も連れてないみたいだ。



 最後列の騎馬隊を見送ったところで再び路地に入って飛行魔法で空に上がる。

 大通りを行進していた本隊は南門を出ると速度を上げて……

 どうやら先頭集団にいたであろう伯爵以下ロイター子爵、ゲルテス男爵など騎乗している主要人物達と最後列の騎馬隊が先行するみたいだ。

 それと南門の外に2台の馬車が待機していて本隊から2人……3人……と人が離れて乗り込んでいく。この馬車も先行するのだろう。


 なるほど。既に砦に向かっている先発隊に主要人物を合流させて今度はそちらを本隊とする段取りなのか。いや、初めから先発隊が本隊でこちらはあくまでも出陣パレード用の即席集団ということなのだろう。


 ふむ……、砦へと向かう道筋は先発隊が通った後で特に危険があるとも思えないが…………一応でも依頼を受けている立場だ。万が一に備えて上空から護衛することにする。

 馬車に乗っている人達には悪いが、護衛対象は重要人物の多い騎馬隊のほうだ。

 凄腕のゲルテス男爵がいるので俺が護衛する意味があるのかは甚だ疑問ではあるのだが……


 上空からの護衛を開始したが、これが中々に難しい。

 両者の速度が開き過ぎている為だ。

 馬は全速で時速70~80km出すことができる。ただしこの速度で走れるのは競走馬のみでしかも5分がせいぜいだ。

 これが軍馬だともっと遅くなるし行軍だと速歩はやあしがせいぜいだ。


 ※速歩……時速15kmほどで1時間ぐらいの騎行が可能。


 最初に王都に行った時の帰りに乗合馬車を利用した限りではこの世界の馬はスタミナに優れているようで、休憩の少なさなどから地球の馬よりもよく走るように感じられた。

 それはともかくとして、この速度差を何とかしないといけない。

 こちらは飛行機ではないので極限まで飛行速度を落とすことは可能ではあるが、これをしてしまうと魔力消費がとんでもないことになってしまう。普段ならともかくこれから軍務が控えている身でやっていいことではない。

 ならばと昔の戦闘機が輸送機や爆撃機を護衛した時のようにジグザグに飛ぶことを思い付く。が! この案はすぐに没にした。

 昔の航空機の速度差はせいぜい倍ぐらいでしかないが、今の飛行している俺と騎馬集団との差は10倍を軽く超えているのだ。この速度差で同行する為にジグザグに飛ぶと虫か何かが飛び回っているような動きにしかならず、『あの魔術士ウゼェェェェ』と思われるだけだろう。


 結局騎馬集団からさらに先行して安全を確認しつつ先行した場所で待機する。騎馬集団が無事にやって来るのを目視で確認しつつ自分のとこに到達したらまた先行するのを繰り返すのだ。

 正直なところ面倒臭い方法ではある。

 世の飛行魔術士達はどのようなやり方で護衛しているのだろうか?

 …………あっ!?

 そうだよ! この世界には上空支援なんて概念そのものがないのだ。飛行魔法を使える魔術士に護衛させるなんて思い付かないのだろう。




 護衛を開始して1時間ほど経過してようやく先発隊に追い付いた。

 少し遅れてやって来る馬車に関しては、ここまでの安全確認は済んでいるのだし護衛する必要はないだろう。


 先発隊はかなりの大集団だ。

 前方にいる兵達に続いて荷駄隊が追従している。荷駄の数は100台を軽く超えているだろう。

 そして、兵と荷駄隊の間には攻城兵器がある。

 攻城兵器は言ってみれば移動式の木製城壁だろうか?

 前方を馬4頭で曳いており、左右と後ろを人力で押している。


 とりあえず攻城兵器の少し前、先発隊の後方集団の脇に降りて歩くことにした。

 ナナイさんは恐らく馬車に乗っているだろうからまだ先発隊とは合流していない。

 ひょっとしてナナイさんが馬車に乗ってないなんてこともあるだろうか? パレードに参加した集団は徒歩なので合流にはかなりの時間が掛かる。

 そうなると俺はしばらくボッチ確定な訳なんだが……

 俺の軍における知り合いは何故かお偉いさんが多いので、『あの娘可愛いなぁ』『いや、あっちの娘のほうが美人だぞ』みたいな男子トークができる相手がいないのだ。


 ……………………!? もしやこの機会にそういった相手を見つけろということなのだろうか?

 あるいは俺の性癖をも暴露してしまえるトモダチを作って見せろということなのかもしれない。

 俺の性癖とはもちろん"年上好き"のことだ。

 ただし! 俺はこの世界に来る際に若返りを希望した影響で第三者からは"熟女好き"に見られてしまうという難問を抱えている。

 最初の頃は自分の精神年齢である30歳以下の女性は全く眼中になかったのだが、ここ最近ではアラサー辺りは許容範囲内になってきているのを自分でも自覚している。若返った肉体に精神のほうが引っ張られているのか、あるいは15歳で過ごす内に段々と慣れて来たのか……

 しかしながら多少好みの年齢層が下がったところで知人に話し難い性癖であることに変わりはない。

 この高いハードルを越えることの可能なトモダチ作り…………無理だろ……

 そもそも性癖とかそれ以前に同年齢である15歳がいないのだ。

 歳の差があっても友情が成立する場合もあるだろうが、同い年の方が断然トモダチにはなり易いだろう。


 軍にも成人を迎えたばかりの15歳の新人がいるはずなんだが……

 ロイター子爵率いるバルーカ領軍の出征組にはいないみたいなんだよな。

 まぁバルーカの守りにも人員を配置しないといけないのにわざわざ新兵を連れて行くことはしないか。

 そう言えばティリアさんの息子であるトッド君が15歳で従騎士として騎士団の宿舎に入っているのだったか。

 ならばゲルテス男爵率いる第2騎士団にも当然従騎士はいるはずで…………、紹介してもらえないだろうか? い、いや、止めた方がいいか?

 『トモダチ作りたいので15歳の男の子を紹介して欲しい』

 ……変な奴に思われないだろうか? しかも中身30歳のおじさんが、となると…………ダメだこれ、アカンやつだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る