第174話

「これで妹さんを食事にでも連れて行ってあげるといい」


 ロザリナに10万ルクを渡す。


「ありがとうございます。

 その…………、いつもこんなにも良くして頂いて……」


「ルルカにも家族に使うように渡してあるから気にするな」


 ロザリナが抱き付いて来る。


「お待ちしておりますので……」


「留守の間は頼むな」


「はい、御武運を」


 ゆったりと時間を掛けて別れを惜しんで飛び立った。




 バルーカ城内の南門に割と近い大通りから路地に入ったところで降りる。

 まだ朝の6時過ぎなんだが大通りにはぼちぼち人が集まり始めており、見送りや見物人を見込んで臨時に店を開けたり屋台で飲み物や食べ物を売る準備をしているのをあちこちで見ることができる。


 とりあえず路地の適当なところに椅子を作って座って待つことにする。

 もっと遅い時間に家を出て直接行進を終えて城を出た本隊と合流することも考えたのだが、軍隊が出陣する様子は見ておいたほうが良いと思い見学することにした。俺が知っているのは古い記録映像か映画やドラマの中だけだし……

 身を隠すように路地に入ったのは、行進の先頭にいるだろう伯爵やロイター子爵、ゲルテス男爵に見つからないようにする為である。

 別に悪い事をしている訳ではないのだが、『おまえはどうして見送る側にいるんだ?』などと思われると面倒だし、合流した時に双方気まずい感じになるのを回避する為だ。


 今頃は内城で出陣式をしているのだろう。

 攻城兵器や荷駄隊を伴った先発隊は早朝にバルーカを出発している。規模的には先発隊のほうが主戦力と言える。

 行進の様子を見物できるまでまだもう少し時間が掛かるだろうか?

 ちょうどいい機会なのとこれから軍隊の任務に就くということもあって自分のステータスを確認することにする。

 現在のステータスは、



川端努 男性

人種 15歳

LV40


HP 696/696

MP 6948/6975


力  139

早さ 165

器用 174

魔力 645


LP 56P


スキル

異世界言語・魔法の才能・収納魔法Lv8・浄化魔法Lv7・火魔法Lv4・水魔法Lv4・風魔法Lv9・土魔法Lv8・氷結魔法Lv4・回復魔法Lv8・魔力操作Lv6・MP回復強化Lv8・MP消費軽減Lv8・マジックシールドLvMAX・身体強化Lv4・剣術Lv2・槍術Lv2・投擲Lv1・敵感知Lv8・地図(強化型)・時刻・滞空魔法・飛行魔法



 この前練習した水魔法のレベルが上がってること以外は変化はない。

 アルタナ王国に行って以来実戦はほとんどしてないのだから変化がないのは当然だ。


 一番の問題はLP(レベルポイント)を使うべきなのかどうかなのだが、結論から言うとLPを消費して風魔法のレベルを最大まで上げようと思う。

 なぜ風魔法なのかというと、風槍・零式や風槌ファ〇ネル・風槍(回転)など大事な局面で使うことが多く、風刃の使用頻度も高いからである。最も使用するのは土魔法ではあるがここは強者と対峙する時に備えるべきだろう。


 1LPを使い風魔法のレベルをMAXにした。


 残りのLPは55P。

 自分の中からもっと派手にLP使うべきという誘惑する声が聞こえて来るがここは断固として我慢する。

 なぜLPを使うのを我慢するのかというと、この世界に来た割と初期の段階から習得を目指している死霊魔術に使う考えなのと先々必要な局面でLPが枯渇して詰んでしまうことを避ける為である。


 死霊魔術は現在ステータスにあるスキルツリーには表示されていない。

 魔法関連は錬金術以外は全て習得済みだしその錬金術もそこから派生するスキルのない独立した状態なので、死霊魔術は特別な方法で習得しないといけない魔法スキルと思われる。いくらなんでも武術系統のスキルから派生するなんてことはないだろうし。

 このような特別なスキルが今まで通り1Pで習得・レベル上げできるとは考え辛く、2P・3P……と多くのポイントが必要になるであろうことは事前に想定しておくべきだろう。


 それと何事もなければ俺はこの先半世紀以上は生きる訳で……回復魔法を使えることも考慮すればその先の60年……70年以上と長く生きることができても何ら不思議な事ではない。

 この世界に来てたった2ヶ月のまだ15歳の段階でポイントを浪費することは愚かな行為と言わざるを得ない。


 最後に自分のステータスの仕様が良くわからないことも大きい。

 ゲームとかだとキリの良いLv100とかLv75とかまでレベルアップできるのだろうけど、現実だとレベルアップやLPの付与がこの先続いていくのかどうかなんて全くの不明だ。最悪今のLV40で頭打ちなんてことも十分あり得るし、レベルは上がるもののLPが増えなくなるなんてことも考えられるのだ。


 またLPを使ってスキルレベルを上げたところでそれが強さに直結する訳ではないことは結論として出ているので、地道に取り組んでいくしか方法はない。




 ステータスに関する考えをまとめている間に大通りのほうから歓声が聞こえて来た。

 先ほどよりもかなりの人が集まって来ているようで肉眼だと通りの向こうの建物が人壁で見えない状態になっている。

 よくもこんな朝早くから大勢の人が集まるものだと感じるのは、俺がまだこの世界に馴染んでないからだろう。

 行進の先頭集団が過ぎた辺りで大通りの人混みの中に入っていく。

 両脇の建物の2階と3階から紙吹雪も飛ばしているようで中々華やかな演出だ。

 兵士達は手を振りながらゆっくりとしたペースで行進している。


「頑張れよー!!」

「頼むぞー!!」

「無事に帰って来い!!」

「あなたぁ!!」

「お父さぁぁん!!」

「△〇の仇を取ってくれぇぇ!!」

「行かないでぇぇ」

「魔物なんか蹴散らしちまえっ!!」


 見送る人々が力の限り兵達に向けて声を出している。

 砦の奪還が確実視されている情報が出回っているのか、あるいは魔物に対して攻め込む状況だからか、行進している兵士達もそれを見送る人々にもあまり悲壮感みたいなものは感じられない。

 バルーカの住人の多くが軍関係者ということも影響しているのかもしれない。


 あっ! ナナイさんだ。

 行進する列が中盤を過ぎて後列に差し掛かった辺りでナナイさんを発見した。てっきり先頭集団にいるものとばかり思っていたが……

 ナナイさんは普段会う時のスカート姿ではなく他の兵士と同じ格好をしているので、魅惑のおみ足を拝めないのは非常に残念だ。

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