第156話
ちょ、チョット待って!
男の子が女性の奴隷を買う目的って……ア、アレの為よね?
お2人とも凄く綺麗だし男の人から見たらたまらないスタイルをしているけど、魔術士の少年とはあまりにも年齢差が開き過ぎている。
これだけの年齢差でそういうことってあるものなの?
どうしよう? こんな事聞く訳にもいかないし……
「ネル、ちょっとお願いしたいことがあるのだけど」
「ひゃっ、ひゃい!」
イケナイことを考えていたから声が裏返ってしまった。
気を静めないと……
「?? かけ札を買うのに付き合ってもらいたいの。
私は今ギルドにカードを預けてる状態だからこの為だけに復帰の手続きをするのが何だか申し訳なくて……
知り合いがいたら頼もうと思っていたのよ」
なんだ、そんな事か。
そもそも今日ギルドに来たのはかけ札を買う為なのだ。
「わかりました。
私も買いますので問題ないです」
賭けを度外視して応援目的の為にバルーカパーティーのかけ札を買うのだ。
リーダーのグリードさんとはロクに話したことは無いし、かけ札を買ったところでその売り上げがパーティーに行く訳ではないけれど、それでもこういう形で応援するという流れになっている。
「ありがとう」
笑顔で私に礼を言うロザリナさんを見て、ひょっとしたら少年を入れた3人は健全な関係なのではないかと思い始めた。
何か理由があってのことかもしれない…………例えば元々知り合いだったとか?
一見すると少年と2人の間に接点は無さそうだけど少年の親ならばどうだろう? 2人とは同世代だし十分あり得るだろう。
どのような事情があるにせよ変な妄想はしないようにしよう。
※かけ札の購入には冒険者カードが必要だが昇格試験は突発的に実施されることが多い為にカードを持ち合わせていない者への救済策として、カードを所持している者の保証があればかけ札を購入できるよう制度化された。後に保証の対象を一般人にまで拡大している。
ロザリナさんが(というよりお2人が)かけ札を買うのは主である少年がこの昇格試験に臨時に参加してるからのようだ。
先ほどは少年が2人の主人ということが衝撃的過ぎて聞き流してしまったけど、4等級を差し置いて5等級が3等級の昇格試験に参加するなんてとんでもないことである。
これでは今いる4等級が少年より格下だと公式に認めているようなものだ。
もし、私に同様の依頼が来たら絶対に断っていただろう。勝ち筋が全く見えないからだ。
世間的には4等級でそこそこの成功者とされており、『4等級の壁』という言葉が広く認知されているので4等級の昇格試験が最難関のように思われているが、上に行くほどさらに難しくなるのは当然である。
なぜ世間がそのように誤認しているのかというと4等級の昇格試験が最も昇格率が低いからで、その原因は実力がないのに試験を受けるパーティーが多い事や、引退前の思い出として受けたりするからだ。
一方3等級以上の昇格試験には実力不相応な無茶なチャレンジはなく、熟練冒険者として経験も相まって必然的に昇格率は高くなる。
2週間ほど前にここで行われた5等級の昇格試験を思い出す。
少年の助言に従ったおかげで随分と稼がせてもらった。何ならもっと掛け金を上乗せしておけばと後悔したほどだ。
魔術士がいきなり近接戦闘を仕掛けたのには驚かされたけど、要所要所で見せる魔法の冴えには唸らされるものがあった。
私でもウインドハンマーを下から放つことなら出来る。
だけどそれを相手に当てられるかというとまるで自信がない。
通常の魔法は線で飛んで行くため相手が射線上にいればほぼ当たる。しかしながら下から放つウインドハンマーは点で相手に当てなければならない。
動かない的ならともかく実戦でも模擬戦でも相手は動いているのだ。まして近接格闘を行いながらなど至難の業と言っていい。
その日、3ヵ月分ぐらいの稼ぎを1刻ほどで得て友人に夕食を奢り大いにはしゃいだのかと聞かれるのならノーだ。
宿に帰ってルンルン気分でグッスリと眠れたのかと問われてもノーと答えるだろう。
私は少年の魔術の才能というかセンスに嫉妬したのだ。
これまでも年下の子が私を追い抜くなんて幾度もあった。
優秀な冒険者が集まる帝国やコートダールならば年下でも私より腕が上な魔術士はいくらでもいるだろう。
だけど私が少年に感じたのはそれらとはもっと異質な…………別次元の理論で魔法を使っているような気がして空恐ろしさすら感じていたのだ。
…
……
…………
ロザリナさんと一緒にかけ札を買った後、今度は私が2人からの質問攻めにあった。
少年とはどこでどのように出会ったのか(魔法指導の依頼を受けただけなのだけど)、
ロザリナさんには5等級昇格試験の試合経過を聞かれ(これは一部始終観戦したので詳細を語ることが出来た)、
ルルカさんには少年がこの建物に穴を空けた時のことを妙な威圧感を感じながら聞かれた(自分はその場に居らずあくまでも伝え聞いただけということを前提に詳しく話した)。
話が一段落着いた頃、
カラン♪ カラン♪ カラン♪ カラン♪ カラン♪ カラン♪
ギルド中に鐘の音色が響き渡った。
「たった今、メルクからの速報が届きました!! メルクからの速報が届きました!!」
「オ、オイ!」「しぃ! 静かにしろ」「グリード、勝ってくれよぉぉ」
急速に建物内が静寂さに支配されていく。
「対戦相手は3等級パーティー武烈!! 対戦方法は5回戦勝負!!
対戦相手は3等級パーティーの武烈!! 対戦方法は5回戦勝負!!」
「ヘンダークのとこのパーティーか!」「知っているのか?」「以前護衛依頼で一緒になったことがある。手練れが揃っている印象だ」「ヤバイぞぉぉ」
3等級パーティーならどこも手練れしかいないと思うけど……
「第一試合、ツトム対ロイド!! 第一試合はツトム対ロイド!!」
「オ、オイ、ツトムって……」「あいつまだ5等級だろ?」「昨日指名依頼受けてたぞ」「ツトムくぅ~ん! 頑張ってぇぇ!!」「3等級相手に勝てるのかよ!」「バカ! この建物を破壊したやべぇぇ奴だぞ! 相手が3等級でも負けるもんか」
「「!?」」
少年に黄色い声援が飛んだ際に2人の目元がピクッと反応したのを私は見逃さなかった。
ロザリナさんは心配そうに続きを待っている。
ルルカさんは興味無さそうに果汁水を飲んでいるが……チラチラと視線を受付のほうに送っている感じからして内心気になって仕方ないようだ。
「勝者はツトム!! 勝ったのはツトムです!! バルーカパーティーまずは1勝です!!」
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今週は木曜日も投稿予定です。
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