第157話

「勝者はツトム!! 勝ったのはツトムです!!」


「うおおおお!!」「勝ちやがった!」「すげええぇぇ」「マジかよぉ」「5等級が3等級に勝つなんてあり得ないだろ!?」「ツトムくぅんよくやったわ!!」


 ギルド内に歓声が沸き起こる中、ロザリナさんは安堵の表情を浮かべている。

 ルルカさんも一瞬安心した顔つきをしたもののすぐに無表情に戻ってしまった。いや、目元をピクッとして周囲を見渡している。


 そんな中2人の様子を見ていたら不意にわかってしまった。

 少年と2人は深い関係なのだと。

 どうしてそう思ったのかはわからない。ひょっとしたらこれが母親や先輩の女性冒険者の言う"女のカン"なのかもしれない。


「続きまして第二試合、シビック対グラハム!! 第二試合はシビック対グラハム!!」


「シビック頼むぞぉ!」「負けるなよ!」「2連勝いけぇぇ」「グラハムはメルク随一の盾職だ。難しいだろうな」「シビック! お前なら勝てる!!」


「昨日の特訓の効果が出たんじゃないの?」


「そうですね。今後も継続して行うべきなのかもしれません」


「第二試合の勝者グラハム!! 勝者はグラハム!! 今回の速報は以上です」


「くそぉぉ」「負けたかぁ」「これで1勝1敗」「今のところ互角か……」「やはりグラハムの勝ちか」「シビックなんでだよぉぉぉぉ」


「ツトムさんはすぐこちらに戻ってくるのかしら?」


「恐らく昇格試験が終わるまではあちらにいるかと」


「そう。しばらく待つことになるのね」


 続く試合の結果が伝えられる中で、少年のこと以外は眼中にないらしく雑談を始める2人。

 私は若干居心地の悪さを感じつつも2人の会話に耳を傾けた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






『中央で激しい斬撃の応酬!! リーダー同士お互いに一歩たりとも引くつもりはありません!!』


 ワァー! ワァー! ワァー! ワァー!


 現在試合場ではグリードさんと武烈リーダーのヘンダークとの大将同士の決戦が行われている。


 これまでの経過は先鋒である俺が勝ち、次鋒のシビックさんが負け、中堅のナタリアさんが勝って副将のモイヤーさんが負けての2勝2敗だ。

 この大将戦で勝敗が決まるという事もあり白熱した戦いが繰り広げられている。


 両者とも大剣を模した大きな木刀で一見すると乱暴に打ち合っているかのように見えるが、その実細かい技術の応酬のようだ。

 もちろん剣術の素人である俺にそのようなことを見分ける目などあるはずもなく、隣にいるシビックさんとナタリアさんの解説によるものだ。(ちなみに打撲武器がメインのモイヤーさんも解説を聞く側だ)


「剣技の面ではほぼ互角だね。僅かに押されているのは経験の差だろうねぇ」


 まったくの五分の戦いに見えるがプロの目ではグリードさんが少しだけ不利のようだ。

 グリードさんは20代前半、対するヘンダークは見た目20代後半に見えるので技術面で差がない以上数年の経験の差が響いてくるのだろう。


「リーチの差もあるかもしれねぇ。パワーはグリードに分があるが……」


 ヘンダークはグリードさんよりやや身長が高いが、体格面ではグリードさんのほうが勝っている。


「するとこの勝負は長引きそうですか?」


「いや、決着はもうすぐだ。目を離すなよ」


「そうだね。長引くと互いの武器が持たない。所詮は木刀だからねぇ。

 偶々武器が壊れたほうの負けなんて決着をあの2人は望んではいない。

 すぐにも仕掛けるはずさ」


 シビックさんとナタリアさんの解説通り打ち合いを止めて距離を取る2人。

 一言二言言葉を交わしているようだがこの距離では聞き取れない。

 やがて両雄はゆっくりと力を貯めるように腰を落としていき……


 ゴ、ゴクリ。

 会場全体も決着の時が近いのを察知してか静寂さが支配していく中で2人が動き出す。


 最初はスローモーションのようなゆっくりとした動きだったのも束の間、一気に互いの中間地点で激突して止まった。


「どうなった?!」


 グリードさんの大剣がヘンダークの首筋を捉えている!!


「グリードの勝…………」


「惜しかったねぇ」


『おおっとぉぉ!! 互いの剣が相手の首筋を捉えている!!

 審判はどういったジャッジを下すのか?

 っと、ここで審判はギルド職員の下へ……、職員を交えて協議するようです』


 ヘンダークの剣もグリードさんの首に添えられていたか。


『これは珍しいですね。大事な一戦だけに慎重に判断するべきと考えたのでしょう』


『多くの昇格試験の解説を務めて来られたラックさんでも今回のようなケースは?』


『もちろん初めてです。2勝2敗で5試合目を迎えることはそこそこあるのですが、最終戦がここまで僅差になった戦いは記憶にありません』


「どうなるのです?」


「私達もこんなことは初めてだからねぇ。

 ヘンダークが優勢だったけどそんな僅かな差で勝敗を決めるとも思えない。

 なんせパーティーの勝敗まで決まってしまう一戦だからね」


「となると引き分けか?

 それが一番無難だろうし、観客含めて納得し易いかもしれねぇ。

 ただそうなるとこの対戦自体も引き分けになるのか?」


「それはあり得ないでしょう。

 昇格試験だけなら引き分けでも問題ありませんが、賭け試合であることも忘れないでください!

 はっきり白黒付けないと観客が暴動起こしますよ!!」


 これまで聞き役だったモイヤーさんが急に主張してきた。

 そういえばこの人ギャンブル好きなんだっけ。


『さぁ、ギルド側との協議が終わったようです。

 審判が元の位置に…………あ、あれ? 審判がこちらの席に……

 (ヒソヒソ……ゴソゴソ……わかりました)

 これから審判から直接説明があります』


『エー、ただいまの試合は引き分けとします。

 そしてギルド側との協議の結果、勝者2名同士による延長決定戦を行います!』


「うおぉぉぉぉ」「すげえぇぇぇぇ」「こんなことってあるのかよぉ!」


『実況が引き継いでお伝えします。

 この後各パーティーの勝者2名による2回戦勝負を行って勝敗を決定します。

 ただし! 1勝1敗の場合のみ勝者同士で決定戦を行います!!』


 勝者2名って内1人は俺じゃないか!?

 さっきまでお気楽観戦モードだったのに一気にとんでもないことに……


『……ラックさんはこの裁定をどう思いますか?』


『素晴らしい判断だと思いますね。

 グリードとヘンダークの一戦は引き分けに相応しい両者拮抗した素晴らしい戦いを見せてくれましたし、延長戦で勝敗を決めるのはこの場の誰もが願っていることでしょう』


 俺は違うと声を大にして叫べたなら……

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