第155話

 ロイドは攻勢を強めて来た。

 おそらくは俺の回復魔法を上回る強い攻撃を繰り出さなければ倒せないと考えたのだろう。より攻撃重視にシフトしてきた。

 ロイドのその状態こそが俺の狙いでもあった。


 木刀を叩き付け蹴りを放って自ら大きな隙を作る。

 俺の作った隙を見逃さずに斬撃を浴びせようとするロイドのアゴに風槌アッパーを放った!


「ぐっ」


 ロイドは一瞬動きを止めたものの、尚こちらに攻撃して来る気配だ。

 的確にアゴを捉えたはずなんだが……


 追加の魔法攻撃を加えようとした時、ロイドは二歩三歩前に出たところで膝をついてしまった。

 ロイドの首筋に木刀を添える。


「それまで! 勝者ツトム!!」


 回復魔法を掛けて手を差し出す。


「……負けたよ」


 そう素直に認められると返答に困るぞ。



『勝ったのはツトム! 5等級のツトムです!!

 ラックさん最後のは……?』


『ツトムがフィニッシュブローに使う下から素早く放つウインドハンマーです。

 通常であれば避けれたかもしれませんが、強引に攻めようとしたところを狙われましたね』



「よくやったぞ! ツトム!」

「早くも1勝とは幸先いいな!」

「大したものねぇ」

「おめでとうございます」


「ありがとうございます!

 指名して頂いた責任が果たせてホッとしています」


 これでノルマは果たせた訳だから後は試合を見物するだけだ。


「あと2勝すれば俺達の勝ちと3等級への昇格が確定する。

 俺に遠慮する必要はないからな! 早々に勝って決めてくれ!」


 勝てる時に勝っておくというのは正しいのだろうな。

 実際俺が勝てたのも対戦相手が動揺したのが大きかった。

 ラック氏の言う通り、風槌アッパーを普通に放っていたら避けられていただろう。



『波乱の幕開けとなりましたが、これより2回戦を行います!

 バルーカパーティーの2番手はシビック!!』


「よっしゃああああ!!」


「ツトムに続けよ!」

「負けんじゃないわよ!」


 シビックさんが軽やかに中央に出ていく。


『武烈の次鋒は~~~~、重戦士グラハム!!』


 あっ……


「うっ」

「あら……」

「むぅ……」


 相手側から中央に出てきたのは大きな盾(無論鉄製)を持った巨漢の重戦士だった。


 シビックさんにはご愁傷様ですとしか言いようがない。









ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


-バルーカギルド1階にて-


 ギルドの建物の中は普段だったら依頼先へ多くの冒険者が出向いた後で閑散としている時間帯なのだけど、今日は人が大勢残っていた。

 皆かけ札が販売されるのを今か今かと待っているようだ。

 今日はバルーカギルドトップパーティーの昇格試験ということで、隣街のメルクで試験が行われるにも関わらず賭けが行われメルクから速報も随時入って来るという。


 その話を聞いた時、私はちょっともったいなかったかなと思った。

 恐らく昨日の内に飛行魔法を扱える魔術士の募集があったはずで、報酬も高額だったはずである。

 もっとも私達のパーティーが今日休みなのは昨晩一連の情報を仕入れて来たリーダーが常宿で伝えて来たからで、依頼を受けるには時間的に無理なのだが。


 それにパーティーメンバーへの配慮も必要だ。

 いくら休日に個人で依頼をこなすのがパーティーで認められているとはいえ、一人で儲け過ぎるのは良くない。

 今組んでいるメンバーはそんなことで不満に感じることはないとは思うが、人の心の内はわからないものだ。敢えて危ない橋を渡ることもない。



 おそらく席は空いてないだろうと思いつつも併設されている食堂を覗くと、そこに久しぶりに先輩冒険者の姿を見かけた。

 5等級冒険者のロザリナさん。

 年齢は一回り違うものの冒険者活動をする上で女性として注意すべきことなどを色々と教えてくれたり気に掛けてくれた恩人である。

 確か重傷を負った妹のサリアさんの治療費を支払う為に自ら奴隷落ちしたって聞いたけど……


 正面に座っている綺麗な婦人に買われたのだろうか?

 それにしても……ロザリナさんも女性が羨むスタイルをしているけど、このご婦人はその上をいくモノをお持ちに……

 あれ? 見ていたら婦人の服の質が気になった。

 奴隷であるロザリナさんや私が着ている服に質が近い、有体に言えば古着みたいなのである。

 奴隷を買う程の資産家が古着なんかを着るのだろうか? と不思議に思いつつもどうしようかと悩む。

 他人が所有している奴隷に無許可で話し掛けるのはマナー違反である。ただしそれは奴隷が奴隷紋を周りから見えるところに施しているか、それに代用する物を身に着けている場合に限られる。

 見たところロザリナさんにそのような物は見当たらないし…………よしっ!


 先ほどから男性冒険者達がチラチラと目線を送っている。女性の私でさえ目が行くのだから男性なら堪らないだろう。

 そんな視線が集まる中をテクテクとロザリナさん達が座っている席に近付いていく。


「ロザリナさん、お久しぶりです」


「ネル! 久しぶりね」


 !?

 以前よりも少し口調が柔らかくなったみたい。


「ロザリナ、どなた?」


「冒険者の時の知り合いです。若いですが真面目な子ですよ」


「そう……

 初めまして、ルルカと申します。よろしくね」


「5等級冒険者のネルです。よろしくお願いします」


 婦人は気さくに挨拶してくれた。

 間近で見るとその存在感に圧倒されてしまいそう。

 それにロザリナさんも以前会った時と比べて色っぽさが増しているような……


「ロザリナ、とりあえず座って頂いたら?」


「そうですね、ネル。時間があるなら私達と話さない?」


「はい! し、失礼します」


 席に着いて飲み物を注文する。


「あの、ロザリナさんはサリアさんの為に奴隷になったと聞いたのですが本当でしょうか?」


 思い切って聞いてみた。


「その通りよ。今は奴隷の身分ね」


 ということはやはりこちらのルルカさんに買われたということなのだろうか?


「ちなみに私も奴隷だから誤解しないようにね」


「ええ?!」


 服装的にはロザリナさんの主ではないかもとは思っていたけど、まさか奴隷とは……




……


…………



「ほ、本当にお2人の主は5等級冒険者の魔術士であるツトムさんなのですか?

 先日行われた昇格試験で5人抜きをして、ギルドマスターに呼び出された際にこの建物に穴を開けたあの?」


「ツトム様で間違いないわ」


「建物の件が気になるけどその通りね」


 2人から話を聞くと驚愕の事実が判明した。

 私が飛行魔法を教えた少年魔術士が2人の主人だという。

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