第154話
ロイドという対戦相手の獣人は木刀一本持って中央に出てきた。盾は持ってない。
恐らくはランテスの下位互換的な感じだと思うが……
『1回戦目は剣士対魔術士の対戦となりました。
ラックさんの予想を聞かせてもらえませんか?』
『武烈のことは手元にある資料以上のことはわかりませんので、予想は勘弁してください。
ポイントとしては、ツトムは魔術士でありながら近接戦闘も可能ですので至近距離から放たれる魔法にロイド側がどう対処するかになるかと思います』
俺の戦い方がバラされてしまった……
黙っていてくれれば不意を突けて楽に勝てたかもしれないのになぁ。
『つまりツトムは魔法による中長距離攻撃と近接戦闘が可能なオールラウンダーであると?』
『少し違います。ツトムの近接戦闘術は初心者レベルですので本来であれば本職には太刀打ちできないのですが、それを可能とするのが…………』
『? ラックさんどうかなさいましたか?』
『い、いえ、この先は実際に見て頂いたほうが良いかと思いまして。
それに一方の情報のみを明かすのも中立性に欠けるかな……と』
『わかりました!
では第一試合始めてください!』
「はじめ!!」
ようやく審判が開始の合図をした。
ちなみにこの審判に前回のケルトファー(現役1等級冒険者)みたいな強者感はない。
さてどうしようかと悩んでいると、対戦相手であるロイドにも何も動きがない。
傍から見たら両者睨み合っている構図に見えるだろうが、その実2人してただぼーっとしているという間抜けな状況だ。
「あ、あの~?」
「どうした? とっとと掛かって来い」
「ロイドさんのほうからお先にどうぞ」
自分よりも2等級も上ということでとりあえずは先輩を立ててみる。
「5等級のガキ相手にこちらから仕掛ける訳にもいくまい」
ロイドは見た目20代中盤ぐらいで10才ぐらいしか違わないと思うが、獣人は歳を取りにくいとかあるのかもしれない。
先輩がそう言うのであればこちらから行くか……
「わかりました。いきますよ!」
「よし! 来い!」
バックステップして距離を取り、
ドン! ドン! ドン! ドン! ドン!
風槌を連続して発射する。
魔法攻撃にしたのはラック氏の予想通りに近接戦をやるのが嫌だったというだけだ。
ロイドは最初ランテスのように剣を振って剣圧で風槌を相殺していたが、魔法の発動間隔を短くしていくと対応できなくなったのか防御と回避に専念するようになった。
剣の振りが大きいのだ。王都で対戦した時のランテスはもっと小さく素早い振りで剣圧を生み出して風槌を相殺していた。
現在行っている防御と回避もあまり安定しているとは言い難い。
現役2等級であり実質的には1等級クラスと豪語したランテスと比べるとどうしても粗が目立つ。
つかこの感じなら案外風槌だけでいけるんじゃないか?
単発で連射していたのを3連に切り替えた。
「クッ」
ロイドはもはや防御するしかない。
ドドドン!!! ドドドン!!! ドドドン!!! ドドドン!!! ドドドン!!! …………
3連風槌の連射に耐えきれなくなったのか、ロイドが動いた!
射線から外れて高速移動で一気に真横から斬りかかって来た。
獣人固有の特殊スキル『獣化移動』だ。
ここは落ち着いて魔盾でガードする。
ガァン!!
「くそっ」
必殺の斬撃を防がれたロイドは慌てて距離を取った。
剣術スキル強化の為に模擬戦ではなるべく魔盾を使いたくはなかったのだが、獣化移動を使っての側背に回り込んでの攻撃は危険なので仕方ない。
ただ、使い手の違いからか防御の上からでも風槌連打によるダメージが蓄積していたのか、ロイドの獣化移動は消えた訳ではなくきちんと目で追うことができた。
『おおっと!!
開始当初の睨み合いから一転! 激しい攻防が行われました!
ツトムの魔法攻撃からのロイドが反撃するまでの一連の流れをラックさんはどう見ましたか?』
『そうですね。
ここまで魔法全開で戦うツトムは初めて見ました。
5回戦勝負ということで魔力を温存する必要がないからなのでしょう。
対してロイドのウインドハンマーの連射を獣化移動で回避しての反撃はさすが3等級と言わざるを得ません』
『今後の展開はどうなるでしょう?』
『このままの戦い方が継続されるのならカギはツトムの魔力量になるでしょう。
あれだけウインドハンマーを撃ち出していると魔力消費が激しいでしょうから長期戦は辛いでしょう』
ところがドッコイ、魔力は全然余裕なんだよなぁ。
無駄という言葉がピッタリの弾幕連射と比較すると先ほどの魔力消費量なんて雀の涙程度でしかない。
ただこのまま風槌連打で相手の体力を削って勝つのはどうなんだろう?
勝ち方としてつまらないというかスマートではないと言うか……
そして何より!
魔法だけで勝ってしまったら昨日の辛い特訓がまったくの無駄になってしまうではないか!!
そんな訳で身構えているロイドの間近までトコトコと歩いて行く。
「な、何のつもりだ?」
「近接戦を挑もうかと思いまして」
「正気か?! 普通の人間が獣人相手に近接戦で勝てる訳がない!!」
「身体能力だけで勝てると思うなぁ! 獣人!!」
『ここでまさかのツトムのほうから近接戦闘を仕掛けに行った!!
まったくの予想外な展開にロイドのほうが戸惑っているか?』
ロイドは昨日訓練に付き合ってくれたトルシュよりも、そして何故か教官モードのスイッチが入ったロザリナよりも数段剣術の腕は上だ。
俺の奇怪な行動に動揺したみたいだが、混乱から立ち直れば俺を圧倒して来るのは自然な流れだ。
『ツトムは手足を駆使して戦う珍しい剣術?ですが、ラックさんの仰る通りこの技量ではロイド相手には厳しいか!
明らかに優勢なロイドがそろそろ試合を決めに……決めに……あ、あれ?』
ザワザワ……ザワザワ……ザワザワ……
『ボコボコにされているツトムが前進して、圧倒的に優勢なロイドが下がっている?
ど、どういうことですか? ラックさん!!』
『ツトムが初心者レベルの近接戦闘術で専門の熟練者と渡り合えるのは、ツトムが回復魔法の使い手だからです。
近接戦闘中に受けたダメージを瞬時に回復している訳ですね』
『ということはですよ?
バルーカのパーティーにはヒーラーが2人いるということですか?』
『そうなりますね。
もっともツトムは助っ人ですからこの昇格試験の間だけの期間限定ですが』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます