第153話

 今回の昇格試験の会場であるメルクの冒険者ギルドの訓練場は既に準備が整っていた。

 バルーカで試験を受けた際と同じように試合が行われる場所がロープで区切られ、簡易的な観客席が作られている。

 その観客席の最前列に机が置かれており2人の男性が座っているが、その内の1人に見覚えがあった。


「あの人は確かバルーカの試験の時に……」


「ああ、ラックさんだな。

 俺達がバルーカの冒険者ということでメルクのギルドから解説を依頼されたんだと。

 昨日宿に来て色々聞かれたよ」


 よその街のギルドから解説を依頼されるとか、本当に解説者が職業とか……

 いや、落ち着け、依頼されたということは冒険者ではある訳だ。


「ラックさん自体は何等級なんです?」


「確か4等級じゃなかったかな?

 もうかなり前から実質的には引退状態みたいだが」


「引退状態なのにあんなに冒険者事情に詳しいのですか?」


「引退状態だからこそだな。

 パーティー組んでいたら情報収集できる時間なんて限られるからな」


「解説する為にそこまでの努力を……」


「ほとんど趣味みたいなもんだと思うぞ。

 色々な冒険者のことを知るのが楽しいとか言ってたしな。

 ギルドもラックさんから冒険者に関する情報を定期的に買い取っているみたいだ」


 結局は趣味ってことかい。

 まぁ好きなことして生活できるのならそれが一番か……この世界に来て好きに生きている俺自身が最も実感していることだ。



 ワァー! ワァー! ワァー! ワァー!


 突然試合会場が大きな歓声に包まれた。


「お! 俺達の対戦相手がお出ましだな」


 観客が左右に分かれて出来た通路を悠然とこちらに歩いて来る5人。

 さすが3等級パーティーと言うべきか、中々に雰囲気がある。

 パッと見、巨漢の盾が1人、長身の重戦士が1人、魔術士が1人、残り2人はおそらくアタッカーだろう。


 相手パーティーはこちらまで来て、長身の重戦士がグリードさんと対峙する。


「ようこそメルクへ。3等級パーティー武烈のリーダー、ヘンダークだ。

 今日はよろしく」


 ヘンダークと名乗った重戦士がグリードさんに右手を差し出す。


「こちらこそよろしくお願いする。

 バルーカの4等級パーティーリーダーのグリードだ」


 グリードさんは差し出された右手をガッチリ握り返して握手した。


「良い試合をしよう。健闘を祈る」


「望むところだ!」


 ヘンダークはこちらのメンバーを一睨みして自分のパーティーと共に試合場の対面に移動した。

 漫画のように俺のとこで視線が止まるなんてことはなかった。

 もっとも、奴の視界に俺が入ってなかった可能性もあるが……身長的な原因で。


 それにしてもパーティー名が『武烈』か。

 これはランテスのいた『烈火』に憧れてとかではなく、『烈』の字を入れたパーティー名にしないといけないといった決まりでもあるのではないだろうか?

 あるいは異世界言語スキルの仕様でパーティー名によく使われる文字が『烈』に変換されるとかか?

 結論を出すにはもう少しパーティー名を集めないと何とも言えないか……




『皆様お待たせしました!

 只今より3等級昇格試験を行います!』


 ワァー! ワァー! ワァー! ワァー!


 凄い歓声が沸き起こる。

 周囲を見渡すと、いつの間にやら観客でギッシリだ。


「武烈頼むぞー!!」


「頼む、勝ってくれ~、負けたら野宿だぁ」


「バルーカから来たパーティー勝て!!」


「武烈負けんなぁ!」


 札を買った時の賭け率もそうだったが必ずしも無条件で武烈を応援しているという訳ではないようだ。

 こちらへの声援もチラホラと聞こえて来る。

 もっとも俺達への声援はオッズが高いからという理由だけだろうから純粋に喜んでいいのかどうか……


『今回は隣街のバルーカからパーティーを招いての昇格試験ということで、特別にバルーカの冒険者事情に詳しいラックさんに解説をお願いしました。

 ラックさんよろしくお願いします』


『こちらこそよろしくお願いします』


『早速ですがラックさんに今回の挑戦者パーティーの特徴含めた紹介をお願いできますか?』


『わかりました。

 バルーカのパーティーは重戦士のグリードをリーダーとして、剣士のシビックにヒーラーであるモイヤー、盾職であるナタリアの4人パーティーです。

 それぞれは3等級昇格試験に臨むのに相応しい実力があり、特にリーダーのグリードの大剣捌きに注目して頂きたいですね。

 そしてこの試験の為に臨時に魔術士であるツトムを加えての5人で昇格試験への挑戦となります』


『ヒーラーがいるパーティーというのは珍しいですね』


『そう思います。

 モイヤーは20代半ばで魔法の才能が開花した珍しいタイプです。

 回復魔法の使い手は10代の内に各組織が囲い込むのが常態化していますので、魔法関係の教育機関出身でないのも大きいのでしょう』


 俺が使う回復魔法の扱いはどんな感じなのだろうか?

 現状だとモグリの使い手的な感じだと思うのだが……なんかブラック〇ャックみたいでかっこいい響きだ!

 実際軍にも冒険者ギルドにも回復魔法を使えることはバレているものの特に目立った動きはない。

 教会(聖トルスト教)にさえ知られなければ大丈夫な感じか。


『そして手元の資料では、今回パーティーに特別参加している魔術士ツトムは5等級冒険者とありますが?』


『間違いありません。

 2週間ほど前に行われた昇格試験で5等級に昇格したバルーカギルド期待の魔術士です。

 その試験の際には私も解説していました』


『率直に言ってしまえば数合わせ、と考えてよろしいのでしょうか?』


『いえ、今回バルーカギルドはツトムを戦力としてこの試験に参加させています。

 私もツトムには3等級冒険者と渡り合える実力があると考えています』


 当然の見解だな。

 もっとも5等級と侮ってもらったほうが楽に戦えるのかも?


『さぁ、今回の対戦方式は5回戦勝負!

 バルーカパーティーの1番手が今話していた魔術士ツトムとなります!!』


 実況とラック氏の話を聞いてたらグリードさんに肘で突かれたので慌てて立ち上がる。

 リハーサルとか何もないから段取りが全然わからん。

 とりあえず観客に手を振りながら試合場の中央に進む。


 ブゥー↓ ブゥー↓ ブゥー↓ ブゥー↓


 アウェーなの忘れてたよ。


『いきなり会場を挑発するこの5等級!!

 大胆不敵であることは間違いない!!


 対して我らが3等級パーティー武烈の先鋒は~~~~

 獣人アタッカーロイドォォォォ!!』

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