第133話

 オークの売却には想定以上に時間が掛かった。

 王国だと、『1体いくらだから〇〇体で〇〇ルクだ』で終わっていたのだが、こちらだと1体1体丁寧に査定して買い取り価格を決める形式だった。

 お国柄の違いなのだろうか?

 査定する人が徐々に増えていき最終的には5人で分担していたのでなんとかこの時間(昼過ぎ)に終わったが、最初の1人でずっと査定していたら夕方近くまで掛かっていただろう。

 オークの買い取り価格は大体8,000クルツ~8,500クルツでルクに換算すれば今までで1番の高額買い取りになるはずだ。ルク高とかでない限りは……



 所持金154万8570ルク→131万5170ルク

 (帝国通貨)941万8200クルツ



 帝国の貨幣はルクよりも若干大きく、当然ながら貨幣に施されている模様も違うが種類や単位は一緒だ。

 なので手持ちは、(帝国)白金貨9枚に大金貨4枚、小金貨1枚、大銀貨8枚、小銀貨2枚ということになる。




 先ほど寄った屋台で串肉を2串買う。

 食べてみると馴染の味がした。角付きとは牛系統の肉のようだ。


「どうだ? 良い肉だろう。

 知り合いの肉屋から特別に仕入れてるんだ」


「肉自体も上手いが味付けも絶品だな。

 タレはおっちゃんが作っているのか?」


「もちろんだ! 売り物のタレなんかじゃ客に出せないからな。

 よく寝かせるのがコツなんだ!」


 お世辞ではなく本当に絶品な味付けだ。


「これでその肉屋を紹介してくれないか?

 土産物としてまとまった量を買って帰りたいんだ」


 屋台のおっちゃんに大銀貨を渡す。


「ちょ、ちょっと待ってくれ!

 ……………………………

 これを肉屋に渡せば良い肉を出してくれるはずだ」


 包み紙に書いたメモを受け取る。


「あとこの街のことで他にも聞きたいことがあるのだが……」


 再びおっちゃんに大銀貨を握らせながら色々質問攻めをすることにした。




……


…………



 昼時で屋台には客が頻繁に来たが袖の下が効いたのか、おっちゃんは接客しながらも丁寧に答えてくれた。

 最後におっちゃん手作りのタレを売ってもらう。

 タレを作るのに材料費がおよそ4,000クルツ掛かるとのことなのでその値段で買い、余ってる水筒に入れてもらった。

 その価格分の材料で俺に売った量の数倍のタレを作れるらしいのでちょっと割高だったかなぁと思ったが、大金を得た後なのでまぁいいかと気にしないことにした。もし隣にルルカがいたら渋い顔をしていただろう。


「兄ちゃんまた来てくれよな!」


「僻地に住んでいるからまず無理だ」


「残念だな。また儲けさせてくれよ」


 思えば情報とタレに6,000クルツも支払っているのだ。

 先ほどからのニコニコ顔も納得である。

 これなら女性冒険者でも雇って街を案内させたほうが良かったかとちょっとだけ考えたが、メルクの街のフライヤさんみたいなテンション高くトラブル起こされるのもウザいなと思いこれで良かったのだと納得することにした。


「おっちゃん、体に気を付けて元気でな!」


「兄ちゃんもな!」


 妙に気の合ったおっちゃんと別れて、教えてもらった肉屋に向かった。




 訪れた先の肉屋では角付きの大きな塊を5つ、計65,000クルツで購入した。

 この世界に来て初めて肉屋で肉を買ったので、この塊のままで出されることが正しい買い方なのかがわからない。

 普段料理しているルルカを思い出すが、こんな大きい塊を切り分けていたらいくらなんでも記憶に残っているはずだ。

 つまり、仮に塊のままで買って調理していたとしても俺が見ても違和感を感じない程度の大きさということになるので、この大きな塊は普通の買い方ではないということになる。

 これは肉屋の店主が俺のことを業者の買い付けか何かと勘違いしたのだろうな。屋台のおっちゃんの紹介メモも原因だろうが普通のオーダーができない俺が悪いのだろう。

 こういう生活の常識的なところでボロが出るのは仕方ないと思う。備えようが無いし。

 店の人やその場にいる他の買い物客に不審がられる程度ならば問題ない…………と思いたい。




 次に訪れたのは商業ギルドで、手持ちのクルツをルクに両替する為だ。

 商業ギルドでの両替は手数料が割高だが、個人の両替商は手数料は安価なものの騙されたり偽造貨幣を掴まされることもあるので信用できないとのこと。



「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか?」


 商業ギルドの中に入り両替の受付を探していると中年の男性職員に声を掛けられた。


「クルツをルクに両替したくて……」


「こちらへどうぞ」


 男性職員に一番端のほうの受付カウンターに案内された。

 ひょっとして子ども扱いされたのだろうか?

 椅子に座ると若い男性職員が対応するようだ。

 モヤモヤした感じがこみ上げて来るが、俺は大人なので落ち着くことにする。


「為替レートは1クルツが1.1ルクで固定となっております」


「固定? 為替レートって日々変わるものなのでは?」


 イメージ的には数字が羅列してあって証券マンが激しくブロックサインをやり取りしているのを背景にニュースキャスターが『今日の為替は1ドル……』と原稿を読み上げてる感じだ。


「帝国は南部の国々とは為替レートを固定しております。

 これは南部の国に対する帝国からの様々な支援を円滑に行う為に4ヵ国(グラバラス帝国・コートダール・ベルガーナ王国・アルタナ王国)間での合意形成の下に適用されております」


 帝国は援軍を送るだけではなくかなり深く南部3国に関わっているみたいだ。


「両替に掛かる手数料は?」


「10万クルツ以下が2パーセント、100万クルツ未満が1.5パーセント、100万クルツ以上で1パーセントとなっております」


 高いのか安いのかわからんな。

 とりあえず1番手数料がお得な100万クルツをルクに替えるか…………いや待てよ。

 後日帝国の奴隷商で奴隷を購入する場合に備えてクルツは持っておくべきか。

 今回はお試しで少しだけ両替しよう。


「30万クルツ両替してください」


「手数料が1.5パーセントとなりますので4,500クルツとなります」


 手数料を支払い33万ルクを受け取った。


「ありがとうございました」


 後は奴隷商の下見で帝都での用事は完了だ。



 所持金131万5170ルク→164万5170ルク

    941万8200クルツ→903万6500クルツ

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