第132話

「ロザリナはどうして王都に行くのが嫌なの?」


「………………」


 そんなに嫌なことがあったのかしら?

 無理に話す必要はないと口に出そうとしたけどロザリナが話し始めるのが一瞬早かった。


「父の戦死後に母は個人商店を営む男性と再婚したんです。

 私達姉妹は母の再婚に反対だったということもあり新しく義父となった男性との折り合いも悪く……」


 家庭の事情が理由のようね。


「気まずい状態が続いていたそんなある日、義父が妹に悪戯しようとしていたのを目撃してしまったのです。

 慌てて妹を引き離してそのまま母のところに行き冒険者になりたいからと言って妹と共に家を出ました。

 母には凄く反対されましたが、義父のしたことを言うこともできずにケンカ別れのような形になってしまいました」


「ロザリナ達が家を出る際お母さんは援助とかしてくれなかったの?」


「いえ、母は父が戦死した際に王国から支給された弔慰金のほとんどを持たせてくれました。

 当時私は若かったので感情的にそのお金を受け取り難かったのですが、そのお金が無ければ妹と2人で路頭に迷っていたでしょうから今では感謝しています」


「その後お母さんとは連絡は取っているの?」


「家を出て以降連絡は途絶えたままです。もう10年以上になります」


 想像以上に厳しい事情だわ。


「加えて王都には騎士学校時代の友人知人が多くおりますので、未だ結婚もできず冒険者としても半端な自分は非常に再会しづらいと言いますか気まずいですので……」


 こちらの理由はよくある話ね。

 まして今は奴隷落ちしているのだし。

 1番問題なのはやっぱり母親のことよね。


「同じ娘を持つ母親の立場から言わせてもらえれば、お母さんはあなた達姉妹のことを相当心配していらっしゃるはずよ」


「………………私も当時の母の年齢に近付くにつれ再婚した母の気持ちが少しだけわかるようになりました。

 相手が義父という点はまったくの別問題ですが。

 ただ、妹の意向も確認しないといけませんし、何より今の私は奴隷ですので……」


 これは困ったわねぇ。

 ツトムがこのことを知れば絶対に姉妹と母親を再会させようとするはず。

 私が(ロザリナの家庭事情を)ツトムに話したことがばれるのが確定しているのなら、後でわかるより先回りして予め言っておいたほうが(私にとっては)得策よね。

 

「実はあなたに王都のことを聞いたのはツトムさんに頼まれたからなのよ」


「ツトム様が…………そうですか」


「厄介な貴族にでも目を付けられているのではないかと心配されていたのよ」


「私のような女にそのような心配は無用ですのに……」


 ロザリナは少し自己評価を低くし過ぎではないかしら。

 謙遜でならわかるけど本気でそう思ってるみたい。

 頬に傷があるとはいえキリッとした美人だしスタイルも抜群だし控えめな性格だし……冒険者時代は粗暴な口調をしてたらしいけど、さすがにそれは演技よね?

 女はどうしても30過ぎると男性からの評価は低くなるけど、幸いにも私達の主であるツトムは30過ぎた年上の女性へのこだわりがあるみたいだし。


「ロザリナの事情を知ったらきっと何とかしようと動かれると思うわよ?」


「ツトム様は奴隷如きの家庭事情を気になさるでしょうか?」


「その奴隷如きを実家に帰らせる為に大陸を飛び回る人なのよ?」


「そうですね……ツトム様は少し変わったお方ですから」


 『あのエロ小僧はかなりおかしいわよ』という言葉が口から出掛かったけどなんとか自重した。

 その代わりにツトムが今日オークを大量に売却すると聞いた時から密かに考えていたことをロザリナに話してみる。


「ところで話はガラリと変わるのだけど、ツトムさんの行程が順調なら今晩にでも2人で『〇〇〇〇〇』と提案してみない?」


「良い案かと思います。賛成です」


 澄ました感じでいるが嬉しそうなのがバレバレだ。


「ただ私は構わないのですが、ルルカさんは体力的にキツくありませんか?」


「大丈夫よ、あなたが来るまで私は1人でツトムさんの相手をしていたのよ」


「そうでしたね、では夕食時にでもお話に……」


「いえ、ここは夜ベッドで話すわ!」


「えぇぇ?!」


「いつもよくわからないこと言われて言いくるめられているから、ベッドで私達の有利な状況に持って行くのよ!!」


「えっと……このお話に有利も不利もないかと思いますが……」


 夜が待ち遠しいわね!


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





 ギルドから20分ほど歩いたところに解体場と訓練場があった。

 街の中心地から離れたところにあるだけあってどちらも中々大きな施設で、訓練場では多くの冒険者が汗を流していた。

 そんな訓練の様子を横目で見ながら解体場の受付らしきところにいる男性職員に声を掛ける。


「あの~オークを売りたいのですが……」


「見ない顔だな、まずは冒険者カードを見せてくれ」


 5等級の冒険者カードを見せる。


「バルーカ? 壁外区? 聞かない名称だがどこのギルドなんだ?」


 冒険者カードの所属欄に書かれている『バルーカギルド壁外区域出張所』という名称に戸惑っているようだ。


「ベルガーナ王国の南にあるバルーカの壁外ギルドです」


「そりゃあまた随分と僻地からやって来たな!!」


 僻地……帝都にいる人達からすればバルーカは辺境扱いなのか。

 実際バルーカで暮らしている身としては複雑な想いがあるが、帝都を中心とする見方をすればそのような扱いもやむを得ないのかねぇ。


「まぁオークの買い取りなら帝都が1番だからな。何体あるんだ?」


「逆に何体までなら買い取ってくれます?」


「特に上限は設けてないが…………そんなにあるのか?」


「1136体です」


「は?」


「だから1136体です」


 男性職員は呆けたような感じで俺を見ていたが、


「とりあえずそこに並べてくれるか?」


 と解体作業をしている横のスペースを指差した。

 300体も置け無さそうな場所だがとりあえずオークの死体を並べていく。


「マ、マジかよ……とりあえずここには200体ピッタリ置いてくれ。

 後はすぐに他の場所を用意するからそこに出してもらう」


「わかりました」


「オイ! すぐに非番の連中に声を掛けてくれ!

 それと卸業者を回って解体前のオークを仕入れたいか聞いてこい! それとこちらに回せる解体要員がいないかも併せて聞くのを忘れるなよ!」


「「行ってきます!!」」


 一気に解体場全体がハチの巣をつついたような騒ぎとなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る