第131話

 よくよく考えると冒険者ギルドでオークを売ることは知っているのだから普通に追いかけて来ることは可能なんだよな。

 まぁその時は多少気まずい雰囲気になるだけだし別にいいか。


 それにしてもここがグラバラス帝国だったとは。どおりで国としての規模が違うと感じるはずだ。

 思い返せばここに辿り着くまでに幾つもの街を通過していた時点でおかしいと気付かないといけなかったか。

 でも街や村に立ち寄って聞かない限りはずっとコートダールと思い込んだままなのは変わらなかっただろうな。

 ただ1点だけ、重大な問題を抱えることになってしまった。

 一気にグラバラス帝国に来れた?ということは、(ベルガーナ王国の)王都とロクダーリア、コートダールを繋ぐ街道を見つけることが出来なかったことになる。

 見落とした……ということはあり得ない。それぐらいしか目印が無いのだから。

 街道が森か林の中を通っていて見つけられなかった可能性は高いが……

 もしくは地下か山の中にトンネルでも通っているのか。この文明の技術では不可能と思うかもしれないが、この世界には魔法があるので土魔法を駆使すれば現代よりも工事は簡単だ。もっとも光源をどうすべきかという別の問題はあるが。



 街(帝都ラスティヒル)の中心地に近い適当な路地で降りる。

 大通りに出て中心地にある広場に向けて歩いて行くと見慣れたギルドの看板を見つけることが出来た。


「本当に適当に歩いていたら見つかったな」


 建物そのものはバルーカの城内ギルドよりも大きいが土地が狭く隣の建物との隙間もギリギリだ。

 中に入ると昼前という時間帯の割には人がそこそこいる。

 併設されている食堂兼酒場も半分ぐらいの席が埋まってるみたいだ。


 オークを売る為に解体場に行かないといけないのだが……

 隅々まで見渡してみても解体場はおろか訓練場すらありそうにない。

 外にスペースがないのだからあるとすれば建物の中のはずなのだが……

 聞いた方が早そうだな。

 受付は3ヵ所でそれぞれ2~3人の列ができているのでパッと見好みの受付嬢のところに並んだ。


「次の方どうぞ」


 茶髪ロングのセクシーな受付嬢にギルドカードを見せる。


「魔物の死体を売却したいのですが」


「帝都のギルドは初めてですか?」


「はい」


 茶髪な受付嬢曰く、帝都にある4つのギルド(出張所)は依頼関係や事務処理のみで街の中心地から離れた北西と南西の2ヵ所に解体場と訓練場がそれぞれセットであるとのこと。

 なんでも昔区画ごとに出張所を置くと決めた際に土地を確保できなかった為の苦肉の策らしい。

 ここは西区画のギルド(出張所)なので、北西にある解体場の場所を割と大きめなお山を揺らしながらセクシーに教えてくれた。



 ギルドを出て解体場に向けて歩いて行く。

 別に飛んで行っても良かったのだが、せっかくここまで来たのだし観光がてら歩いて行くことにした。

 ギルド周辺は街の中心地に近いだけに人通りが多かったのだが、東に行くにつれ段々と人が少なくなってきた。

 帝都は規模こそ大きいものの街並みは王都辺りとそれほど違いはない。

 そういえばルルカに角付き肉を買って来て欲しいと頼まれていたっけか。

 今まで歩いて来て肉屋なんてなかったけど……時々見かける屋台ででも聞くか。

 できれば肉を扱っている屋台がいいだろうとそれらしき屋台を探した。


 しばらくして漂ってくる良い匂いから焼肉系の屋台に目星を付けて近付いていく。


「1串100クルツだよ!」


 串肉を売ってる屋台みたいだが……クルツ?

 帝国では通貨単位が違うのかよ。


「おっちゃん、ルクでの支払いはできないか?」


「南部の貨幣か……ウチでは帝国通貨だけだね」


 両替できるとこを探すか……いや、このままオークを売ればクルツを入手できるはずだ。


「また後で来るよ」


「待ってるよ!」


 解体場へと歩く速度を速めた。






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-バルーカ壁外区ツトム宅のリビングにて-



「ツトム様は今頃どの辺りを飛んでおられるのでしょうか?」


 向かいに座っているロザリナが聞いてきた。


「もうコートダールに着いてるのではないかしら」


 この家では何故か主人が大半の家事を(魔法でではあるが)瞬時にしてしまうので奴隷である私達は日中は暇を持て余している。

 壁外区限定ではあるものの外食することも許されているので、これまでは買い物ついでにお昼を食べて夕方から食事の支度をする以外は、2人でおしゃべりしているか本を読むかベッドに横になって体を休めているかだった。


 しかし数日前にロザリナから、『少し体を動かされた方がよろしいのではないでしょうか? その~あまり動かないでいるとお体にも悪いですし……』と恐る恐る切り出された。

 ほんのちょっとだけ体が重くなった自覚のある私は思わずロザリナを睨みつけてしまったが、何重にも布で包んだ言い方にロザリナが相当私に気を遣っているのが伺えるので深呼吸をして落ち着くことにした。

 武術の心得の無い私より相当強いロザリナが『ヒィィ』と恐れる様は納得いかないものがあるけど……

 なんにせよツトムに、『あれぇ、ルルカちょっと〇った?』とか言われるのは我慢ならないのでロザリナが庭で素振りをする時間帯に私も体を動かすことにした。

 それにしても……

 朝晩あれだけ激しい運動をしているのにどうして"ほんのちょっとだけ"とはいえ体重が増えたのかしら?

 んん?? そう言えば激しい運動という割には最近はそれほど疲れていないような……

 最初の頃は大変だったのだ。ヘトヘトになって日中寝ても疲れが取れず……ロザリナと2人で相手するようになって大分楽に…………それだわ!

 新たな女性が加わる前に気付けて良かった。知らないままでいたら(私の体重が)大変なことになっていたかもしれない。その前に実家に帰る際にも注意しないと……ツトムの相手をしない分食事を減らして運動しないといけないわね。



「いくらツトム様でもこんなに早くには到着しないかと」


「でも私と王都に行った時はすぐ着いたわよ」


 途中休憩という名目で散々エッチなことさせられたけどね!

 そう言えばその時にツトムに頼み事をされていたわね、丁度いい機会かしら。


「王都と言えばロザリナはどうして王都に行くのが嫌なの?」

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