第129話

 調査の結果、ベルガーナ王国とコートダールの標高差はおおよそ600メートルということがわかった。

 先ほどどこまで上昇できるか試した際に適当なところで上に昇るのを止めて正解だった。

 高山病を発症する危険高度が2000メートルと言ったところで個人差があるからそれ以下の高度での安全を保証するものでもないからな。



 現在は街道近くを東に向けて巡航速度に近いスビードで飛んでいる。

 途中通り過ぎる村や街で遊んでいる子供達に手を振りながらだ。

 中には追い掛けて来る子供もいるがすぐに諦める。

 自分達が全力で走って手を伸ばしても届かない翼があるのだと知ることは少年少女を一つ成長させるに違いない。

 ………………

 なんかおかしなことを口走っているな俺。

 山岳地帯を踏破した達成感やら安堵感で変なテンションになっているようだ。

 今も縁側で日向ぼっこしている老夫婦に手を振っている。わざわざ飛行スピードを落としながらだ。

 目立つ行動をするのは良くないとわかってはいるが……



 山岳地帯を抜けた辺りでは人が1人通れるぐらいの雑草が生えたあぜ道だったのが段々と道幅が広くなっていき土で固められた道になり、街の近くでは石畳で舗装された街道になり、今飛んでいる所は街から離れていてもずっと石畳の街道が続いている。

 しかしこれは凄い光景だぞ。

 バルーカでは城内であっても場所によっては土の道があるし、ベルガーナ王国では(アルタナ王国も)街と街を繋ぐ街道は基本土だ。

 魔物の脅威から国を守りつつも街道を整備する余裕があるという証だ。

 伊達に『商業国家』の冠を付けてはないということか。


 『商業国家』と言えばもう1つそれを表す的確な事例に気付いた。

 今までに通り過ぎた村や街全てに城壁(防壁)が無いのである。

 ベルガーナ王国でも山間部の村などには防壁が無かったりするのだが、平地にある街で城壁が無いのはこの世界に来て初めて見た。

 昨晩ロザリナが言っていた東西に流れる河川を利用した強固な防御陣とやらに絶対の信頼を置いているみたいだ。

 城壁(防壁)よりも街道整備による物流の促進を推し進める辺りいかにも商業国家らしい。



 東に向かうにつれ通り過ぎる街の規模も段々と大きくなってきた。

 次あたりがコートダール(の中心都市)だろうか?

 そう言えばコートダールの首都の名前がわからん。皆してコートダール呼びしてるしなぁ。

 そもそも自分が住んでる国の王都の名前も知らないぞ。ついでにアルタナ王国の王都の名前もだ……

 知っているのはグラバラス帝国の首都……帝都の名称がラスティヒルってことだけだ。


 そんなことを考えながら広大な農地の上を飛んでいると巨大な街というより都市が見えてきた。

 王都の4~5倍はありそうな巨大な都市は中心部に石造りの3~4階建ての建物が密集しておりその周囲を家々が十重二十重に取り囲んでいる。

 そして当然の如くこの巨大な都市にも城壁の類は一切ない。

 "南部3国"と一括りに呼ばれているがどうもコートダールだけ国家としての規模が違うようだ。

 


 さて、このまま飛んで行くとさすがに目立つので着地可能な適当な場所はないかと速度を落としながら探してみる。

 お! あの空き地が良さそうだ。

 木の切り株みたいなものに座っている女の子がいる空き地に着陸した。

 もちろん初めての街で右も左もわからないのでこの女の子(8歳ぐらい?)に色々と聞くのだ!


「ちょっといいかな?」


「ん?」


「冒険者ギルドの場所わかる?」


「アッチ」


 そう言いながら街の中心を指差してくれているが、それぐらいなら俺でもわかる。

 人選を誤ったかと思いながらもお礼はするべきだろうと思い、


「ありがとう。良かったらパンでも食べる?」


「ん」


 口数が少ない子なのだろうか?

 子供が食べやすいように王都のパンを切り分けて渡してあげるとモグモグと食べ始めた。


「南にあるワナークって街は知ってるかな?」


 幼女はモグモグと食べながら首を横に振っている。

 知らないみたいだな。

 幼女が二切れ目を手にした時、


「メイ!!」


 メイと呼ばれた幼女はテクテクと歩いて行き道路からやって来た少女の腰に抱き付いた。

 モグモグ食べながら……


「あなた誰?」


「通りすがりの冒険者だ。

 この街は初めてなんでその子に道を聞いていたのだが……」


 姉だろうか?

 それにしては着ている服がメイという幼女と釣り合ってないような。


「こんな子供に聞いてもわかる訳ないじゃない。

 私が教えてあげるわよ。

 ハイ」


 何やら手のひらを差し出して来る少女。

 年齢は13歳ぐらいだろうか。質の良さそうな服を着ている。

 お前も十分子供だろうと思ったがまともな回答が得られそうなので丁度いいかと切り替えることにする。


「教えてくれるのは有り難いのだが……この手は何?」


「私にもそのパンをよこしなさいよ!

 教えてあげるのだし当然でしょ!!」


 ああ、そういうことね。

 少女にも王都のパンを渡した。


「へぇ。収納持ちということは魔術士なんだぁ」


「これでも5等級冒険者だからね」


「別に5等級なんて威張るようなことじゃないでしょ!

 あら、このパン結構美味しいじゃない」


 なんとも口調が大人びている少女である。

 パンの食べ方も上品な感じだし。

 まさか20歳超えてる合法ロリって訳ではないだろうな。

 もし25歳ぐらいだとしたら幼女の母親という線も十分にあり得るが……


「なぜそんな難しそうな顔して睨んでいるのかわからないのだけど……

 何か聞きたいことがあったんじゃないの?」


「あ、ああ、いくつか教えて欲しい。

 まずはこの街の冒険者ギルドの場所が知りたい」


「中心街に行けばあるわよ。

 この街は中心にある広場から東西南北の4つの区画に分かれていて区画毎にギルドの出張所があるから適当に捜しても見つけることは簡単よ」


 出張所が4つもあるのか。

 さすが大都市だけのことはあるな。


「次は南のワナークという街までどのぐらいで行けるのか知りたいのだが……」


「南に街なんてないわ。ワナークという名前も知らないわね」


「え?」


 どういうことだ?

 ルルカは確かに家族の住むワナークはコートダールの南だと言っていたが……

 まさか……嫌な予感が……


「街がないということは魔物に滅ぼされたのか?」


「何言ってるのよ。

 街の南を流れているライン川の向こうはコートダールじゃないの。

 別の国よ」


「はああああああ?!」







--------[お知らせ]----------------------------------------------------------------------------

 久し振りに投稿日前日以外でまとまった執筆時間を確保することができ、3ヵ月ぶりにストックを作ることができました。

 よって次週限定ではありますが木曜日も追加して週3回投稿します!

 翌々週からはいつもの週2回(火・土)投稿に戻しますが、10月中にもう1度週3回投稿を目指してストックを作りたいと思います。


 引き続き応援よろしくお願い致します。

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