第128話

 こうなったら明日は海(漁村)を目指すか?


 …………落ち着け、一旦冷静になろう。

 今いる大陸がどのような形をしているかすらわからないんだ。

 ロイター子爵のとこで見た地図は海岸線はもちろん帝国すら記していない南部3国の主要都市が記してあるだけの地図だった。しかも距離や位置などは間違った精度の低いモノだ。

 安易に目的を増やすべきではない。

 海にはルルカを実家に送る時にでも改めて行けばいい。

 そうだ! 漁村で買った魚をお土産にすればさらに喜ばれるだろう。

 ルルカの家族への手土産には既に王都で購入した装飾品や酒類を用意しているが、こういった物は品目が増えて嫌がられるということはないからな。

 もちろんルルカの家族から、『よくも娘(母)を奴隷にぃぃぃぃ(怨)』みたいな恨みから修羅場に発展するのを回避する為というこちら側の事情もある。

 俺が"ちょっと"だけエロいことは家族に宛てた手紙に書いてあるだろうし……


 まぁそういう訳で明日は当初の予定通り早めに起きて家を出てコートダールに行くことを第一段階とする。

 次にコートダールにおいて情報収集や地図の購入、奴隷商の下見などを済ませるのを第二段階。

 最後にお昼ぐらいまでにコートダールを出発できそうであれば帝都ラスティヒルを目指す。これが第三段階。

 うむ。完璧な計画だ。


「よし、三段構えだ。太陽が真上まで登る前にけりをつけるぞ!」


「「??????」」


「すまんが、2人は家で待っていてくれ」


「はぁ……」

「????」


 キョトンとしている2人にそこは敬礼で返すべきだろうと心の中で突っ込んだ。




 明朝、2人とのイチャイチャもそこそこに家を出た。

 ちなみに朝食はいつも夕食の残り物で済ませている。

 もっとも残り物と言ってもあらかじめ朝食を想定して多めに作ったのを分けて収納に入れているので出来立て状態で食べられる。

 パンも焼きたてである。

 ルルカと2人の頃は壁外区のパン屋で買っていたのだがロザリナに城内の美味しいパン屋を教えてもらってからはそこの焼きたてパンを大量に買うようにしている。

 以前ルルカに1週間分ぐらいまとめて作ったらどうだろう?と提案してみたが断固拒否されてしまった。毎日料理することは譲れないらしい。


 あと朝のイチャイチャの都合上食べる場所はベッドの上に台を置いて食べることが多い。

 起きてすぐにイチャイチャするか食べた後に(も)イチャイチャするかは気分次第なのでH気分がリセットされてしまう食卓での朝食を避けるようになってしまった。

 ただ、今日に限れば食卓で食べるようにした。無論朝早く家を出る為だ。



 まずはメルクに向かう。ちょうど地平線から顔を覗かせている朝日に向かって飛ぶ形だ。

 飛行速度を上げているので3日前に来た時よりも短時間で到着する。

 メルクからは北東に針路を変える。

 メルクより東は山岳地帯が広がっており1000メートルは超えているであろう山も見受けられる。



 ふと、『飛行魔法はどのぐらいの高度まで上昇できるだろうか?』との疑問に駆られた。

 試しに少し速度を落として徐々に高度を上げていく。

 普段は地上から50メートル~100メートルぐらいを飛んでいるが……


 ……300メートル……400メートル……500メートル……600メートル……700メートル……(もちろん目測によるおおよその感じ)と高度を上げていくにつれ空気が少し冷たくなっていくのを感じる。

 当たり前か。

 いくら異世界とはいえ自然現象や物理法則は地球と変わらないのだから高度が上がれば気温と気圧は下がることになる。

 一旦上昇を止めて水平飛行に切り替える。現在の高度は800メートル前後といったところか。

 高山病を発症する可能性があるので一気に高度を上げるのは危険だ。

 確か高度2000メートルだか2500メートルだったはず。

 危険ラインを2000メートルに設定したとしてもまだかなり余裕があるから大丈夫だと思うけど……


 あ゛!?


 "標高"2000メートルだよ!

 この辺りの標高がどのぐらいかわからないから既に危険域に到達してるかもしれない。ここベルガーナ王国は大陸中央に位置していて山も多く当然高地にある国家と考えるべきだろうし。


 とりあえず高度を下げていく。

 後日ルルカを抱えて飛ぶことも考慮すれば低空でのルートを模索すべきだろう。


 しかし……、魔法的な不思議効果で高山病にならないとかないだろうか?

 こればっかりは実際に試してみないと何とも言えないけど飛行中に発症でもしたら墜落する危険性があるからなぁ。

 ネル先生に飛行魔法を教わった時に聞いておけば良かった。



 高度を200メートルまで下げてそれより高い山は避けて飛ぶことにする。

 現在は完全に山岳地帯に突入したようで、それまで山のふもと辺りにポツンポツンと見かけていた小さな村も見当たらなくなってきた。


 出発から1時間半を超えて飛び続けているが山岳地帯は終わりそうにない。

 途中高度を上げた際に減速したがそれ以外はフルスピードで飛んでいるのに……

 高い山を避ける際に迂回するのでその分時間をロストしているとはいえ、そろそろ山岳地帯を抜けてコートダールの街や村が見えてもいいはずである。

 これって現状迷子になってやしないかと少し不安になって来た。

 敢えて遭難ではなく迷子と言っているのは必要以上に気持ちが落ち込むのを防ぐ為だ。現実逃避とも言うが……

 最悪ではあるがコートダールに行くのを諦めて西に向かう選択をすれば家には帰れるのだから遭難ではないことに間違いはない。


 やはり少々面倒でも王都→ロクダーリア→コートダールと道に沿って飛ぶべきだったか?

 選択ミスだったかもしれないという不安を抱えながらもう幾つ目かわからない高い山を北側に迂回するようにして避ける。

 飛行時間が2時間を優に超えそろそろ魔力残量が気になり始めた頃、前方の視界を塞いでいた1000メートル超級の一際高い山々に辿り着いた。


 北西から南西方向に斜めに壁のように連なる山々は荘厳という表現がピッタリな感じでそびえ立っている。

 山と山の間の抜けれそうなルートを探して飛んで行くと視界が一気に開けて肥沃な大地が眼下に飛び込んで来た!!

 まだかなりの距離があるものの遠くに見える村落や農地はかなり低い位置にある。

 このまま高度を落とさずに平地まで飛んで行きベルガーナ王国とどの程度の標高差があるのか調べてみよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る