第127話

「無理ですよ? 騎士の知り合いなんていませんので話すことすらできないでしょうし」


「そこはなんとか知り合いを作りなさいよぉ」


「そもそもエルさんはどうして騎士に拘っているんですか?

 安定職ということでしたら役人でも良いのでは?」


「嫌よ! 私より絶対弱いもの。

 やっぱり憧れの騎士様じゃないと!!」


 こりゃあ下手に関わらないほうがいいな。


「夫婦の相性に戦闘能力は関係ないぞ」


「だとしても私は気にするのよ!」


 ラルカスさんとエルさんは仲良く言い合いを始めた。

 良いキッカケさえあれば男女の関係になれるのだろうけどそのキッカケが難しそうな2人だ。


「ツトム、そろそろ再開しようか」


「そうですね。スクエラさん魔力の回復具合はどうですか?」


「まだしばらく掛かりそう」


「では先にウインドハンマー対策から」


「ほら! 2人共訓練始めるぞ!!」


 まだ言い合っている2人にタークさんが声を掛ける。

 普段もあんな感じだとしたら年下のタークさんがパーティーリーダーなのも頷ける。




……


…………



 指導が終了しギルドで報酬として8,000ルクを受け取った。

 魔法の半日指導の相場が3,000ルク前後なのでタークさん達は少し高めの報酬額にしてくれたようだ。昼飯をこちらで用意したのは正解だった。





「明日は本当に帝国まで行かれるのですか?」


 帰宅後夕食時にロザリナが聞いてきた。


「コートダールにいつ到着するかだな。

 アルタナに行く時にロイター子爵のとこで地図を見せてもらったが、コートダールはアルタナよりも遠いみたいだからな。

 しかもアルタナに行った際は途中にルミナス要塞という目印があったが今回はないからなぁ」


「ロザリナ、帝国に何かあるの?」


「いえ、帝国には特に。

 ただコートダールに急いで行かれるのでしたら注意すべきと思いまして……」


「どうしてだ?」


「コートダールにおける魔族との前線は(ベルガーナ)王国の前線よりも北側にあるのです。

 ここ(バルーカ)より最短で行こうとすると魔族の領域を通過する可能性が高いですから」


「地上ではなく空を飛んで行くのだから平気なんじゃないか?」


「魔族には飛行種がおります。魔族の領域を飛ぶのは非常に危険です」


「そうだった……」


 以前ロイターのおっさんも飛行種がいる時に飛ぶのは自殺行為だと言っていたな。

 魔法が使えない飛行中に襲われればどうにもならないか。

 素早く着地して魔法で応戦……そうか、飛行種をいち早く見つけるのが難しいか。

 地図(強化型)スキルはあくまで地上用だ。飛行中の高機動状態での警戒に役立つスキルではない。


「わかった。明日は北に回り込む感じで飛ぼう」


「お聞き入れ下さってありがとうございます」


 ロザリナの喋り方は未だに堅い感じなんだよなぁ。

 もう少し砕けてもらっても構わないのだが……

 ルルカなんて丁寧な話し方はするものの時折本性を見せてくるからな。

 ロザリナもあんな感じに…………(ルルカに目線を向けると)


「(じぃーーーーーー)」


 なられても困るな……主に俺が!

 疑惑の眼差しを向けてくるルルカからの追及を躱す為にここは話題を変えるべきだろう。


「しかし前線が北にあるということはコートダールは魔物に押されているのか?」


「そういう訳では。

 昔はコートダールの南に都市国家があったのですが魔物に滅ぼされまして、以降は現在の前線位置を維持しています。

 なんでも東西に流れる河川を利用した強固な陣地を築いて防衛しているとか」


「ほぉ……ロザリナはコートダールに詳しいのか?」


「1度行っただけなのでそれほどには。

 ただ護衛依頼の時は往復で20日以上の時間がありましたので護衛対象の商人や他の冒険者からたくさんコートダールのことは聞きました」


「なるほどな」


 冒険者時代のロザリナって奴隷商の時の姉御口調のはずだよな、どんな感じで話していたのか知りたいが……そういえばミリスさんがロザリナと古い知り合いだったか。今度会った時にでも聞いてみよう。


「ロザリナ、ツトムさんがあなたのことで何か企んでいるみたいよ」


 な!?


「え? え?? ええっ?!」


 ルルカめぇ。まさか自分に対する邪心だけではなくロザリナに向けるものまで感知できるようになったのか?


「企むだなんて人聞きの悪い。

 ただギルドのミリスさんに冒険者時代のロザリナがどんな感じだったのか聞こうと……」


「や、やめてください!!」


 ロザリナにしては珍しく強めの拒絶だな。


「ツトムさん、あまり女性の過去を探ろうとするのはよくありませんよ」


 いや、アンタにはロザリナの過去を探るよう俺の密命を授けているはずなんだが…………


 ハッ?!

 もしやここでロザリナを庇うことによって彼女からの信頼度を上げて自分の任務をやり易くするという魂胆か!!

 日中はほとんど2人一緒にいて随分と仲良くなっただろうに、状況一つで相手からの信頼すらも利用し冷徹に任務を遂行する。

 なんという策士か……

 澄ました顔して食事をするいつもの姿もこうして見るとロザリナよりも隙が無いように思えてくる。


「ツトムさん?」


「そ、そうだな。

 過去のことよりも大事なのは今だからな。

 ルルカの言う通り詮索するのは止めよう」


 命令を発した立場である以上はここはルルカの策を後押しせねばなるまい。

 個人的な興味を優先させる訳にはいかないのだ!


「ホッ、あ、ありがとうございます」


 ロザリナ、君は既にルルカの掌の上なんだぞ。


「明日は早くに出ようと思う。

 まずないとは思うが外泊する可能性も頭に入れて置いてくれ」


「わかりました。

 帝都に行かれましたら角付きを買って来て頂けませんか?」


「角付き……確か帝国の人が好んでいる食肉だったか」


「はい。私も食べたことはありませんがこの機会に試してみようかと思いまして」


「そうだな。帝都まで行った場合は買って来よう」


「よろしくお願いします」


 他にも何か……

 ハッ?!


「ひょっとして帝都やコートダールでは魚も売ってるのではないか?」


 念願の魚!

 日本人の魂である魚!

 刺身! 焼き魚! 煮魚!


「どうでしょうか?

 魚は傷むのが早いので収納持ちの魔術士が漁村から空輸していると聞いたことがあります。

 内陸では高級食材になりますので一般には流通しておらず貴族邸や高級料理店に直接卸しているかと」


 くそぉ~、待望の魚まであと一歩のところまで来ているのに。

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