第119話

 コートダールが商業国家なのは知っていたけどそこまで冒険者にとって好待遇というのは初耳だな。

 ギルドでほとんど依頼を受けないのでそういう話に疎いのだろうか?


「コートダールはまだしも帝国は魔族領と接していないのに依頼料が高いというだけでなぜ冒険者を集められるのでしょう?」


 魔物もせいぜい野良のゴブリンがいるぐらいだろうに。

 ロクに戦う機会もないのに優秀な冒険者を集める意味があるのだろうか?


「元々帝国は抱えている人口が多いのです。大陸中央の肥沃で広大な地域を押さえていますので。

 人が多い以上当然冒険者になる人数も多く必然的に等級を上げる冒険者の数も他国より多くなります。

 もっとも現在の魔族に対する南部3国同盟の前身が帝国に対する共闘関係だったことを考慮すれば帝国との1対1での比較はあまり意味がないのかもしれませんけど」


 こういうガチな地政学や歴史になると途端に弱さを露呈するなぁ。

 ちゃんと勉強しとけという話ではあるのだが、ギルドの資料室にも古本屋にも教科書や参考書的な物が置いてないんだよ。少し?尖った専門書や自伝なんかが多いのだ。

 決してイチャイチャするのに忙しい訳ではないのだ……、うん、ゴメン。イチャイチャするのを最優先にしています。今後もこの方針は貫く所存です。

 いや……待てよ……、地球には『二兎を追う者は一兎をも得ず』という格言があるがここは異世界だ。魔法という物理法則の通じない現象のある世界なのだからこの格言も『二兎を追う者はそのまま二兎を得よ!!』的なものに変えることができるのではないか?

 即ち!

 イチャイチャと勉学を上手く融合させて羞恥プレイや女教師プレイへと昇華させるのだ!!

 エロいことをしながらこの世界のことを学ぶ……実に素晴らしい結論に辿り着いたな!!


 っと、冗談……なんかではなく今後のエロ方面の方針はともかくとして、一応は新刊扱っている書店でも探してみるかな……いやそれ以前にこの世界に学校があるのかとか教育制度のことを聞かないとダメだな。前も少し疑問に思ったけどそのままで忘れてしまったし。


「それと多くの人が誤解しているのですが、帝国にも魔物はいますよ」


「ゴブリン以外に……ですか?」


「ええ。

 もちろん我々が戦っている南部の魔物、魔族系統とでも呼称しましょうか? とは別系統の、どちらかと言えば獣に近い種族が多いですが。

 例えば先ほど話した帝都とコートダールを繋ぐ河川では水属性の魔物が出て交易船を襲うことがあるそうです。ですので帝国とコートダールのギルドでは常時河川の魔物の討伐依頼が出されていて高額な報酬が支払われていると聞きます」


 水属性の魔物か……、サハギンとかだろうか?

 飛行魔法を覚えて空を飛べるようになったし戦う機会はなさそうだけど……水魔法の練習もするべきかなぁ。

 水出すだけなら毎日使っているけど、それだけだとスキルレベルが上がらないのは確定でいいだろう。やはり戦闘で使えるように開発していかないとダメってことだ。

 まぁ何がキッカケで全体的な強化に繋がるかわからないからちょっとずつでも修練……んん?


「王国の河川にはその水属性の魔物とかはいないのですか?」


 すぐ近くの西の森に川はあるし(小川と言う方が正しい小さな流れだけど)、王都に行くまでも幾つかの川がある。だけど魔物の気配なんて……


「おりません。

 そういった魔物が生息する為には河川の大きさが必要らしく、上流部しかない王国の細い川では条件を満たさないのでしょう。

 せいぜい魔物か動物か議論の分かれる凶暴な魚がいるぐらいですよ」


 今更だがこのベルガーナ王国って海に面していないから内陸国なんだよな。

 海に面していないと思うと余計に魚が食べたくなってくるよ。

 ああ、刺身やたたきを醤油に付けてご飯と一緒に……それだけでご飯3杯はイケるぞ!! さらに味噌汁もあれば尚良し!! 

 あっ、ヨダレが……


「ツ、ツトムさん!?」


「ス、スイマセン。故郷の食事を思い出してしまって」


「そ、そ、そうなんですか……(み、水属性の魔物を食べてるの!?!?)」


 何故だかナナイさんがドン引きしているような感じがするが……


「えっと話しが少し逸れてしまいましたが、この国の最前線の街に2等級冒険者がいなくても特に心配するような状況ではないということですか?」


「そうですね。この国は……、アルタナ王国もですが軍のみで防衛が完結しておりますので軍の力が弱いコートダールよりは冒険者への依存具合は低いと言えましょう」


 魔族が人族の強者を狙ってる説は俺の思い過ごしという訳か。

 しかしそれはそれで黒オーガの出方が読みにくくなったとも言えるな。

 不意を突かれての一撃死だけは避けられるように外にいる時は地図(強化型)を常時表示させておこう。


「確認までにルミナス要塞で倒したという三本角の特殊個体を見せて頂けますか?」


「構いませんよ」




 帰りにビーフシチューもどきを以前に頼んだ店に寄った。

 厨房にいた料理人は以前に大量買いした自分のことを覚えていたが、既に夜の為の仕込みをしているので今日は対応できないとのこと。明日の午前中に作っておくと言われた。

 明日はタークさんのパーティーのスクエラさんに魔法指導しないといけないが、途中抜けさせてもらおう。


 現在の時刻は15時過ぎだ。

 帰るにはちと早いか?

 別に決まった時間以降に帰らないといけない規則や理由がある訳でもないのだが……丁度いいからさっきナナイさんと話している時に考えていた水魔法の練習でもするか。




 飛行魔法で壁外区北の草原に行き土魔法で囲いを作る。

 そしていざ練習を始める段階で戸惑ってしまった。

 水魔法=回復的なイメージが強いせいかどう攻撃していいか上手くイメージできない。

 とりあえずファイヤーボール的な感じで撃ってみる。

 ビチャッ、ビチャッ、と着弾すると水の玉が弾けた。

 これは風槌系だな。実体がある分風槌より射程が長い。

 水槌だと言いにくいから水玉でいいか。

 しかしこれは模擬戦用かなぁ。水が弱点な魔物にはワンチャンあるか? そんな魔物がいるのかは知らんけど。


 次はウォーターカッターだ。

 風刃を放つ要領で撃つ。

 的として作った土杭を斬っていくが……

 イメージが甘いのか杭を斬り落とすことができなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る