第112話

 最上部に小屋がある小屋タワー?が森の中に違和感ありまくりで建っている。

 高さは20メートル超えるぐらいだろうか?

 地表に近い低い部分は小屋の倍の太さにしてある。

 これならオーク程度の攻撃であればビクともしないだろう。

 キングクラスが来ない限り大丈夫だ。


 滞空魔法で上昇しながら全体像を見ていくと……

 ん? んん??

 ほんのわずかではあるが傾いているな。

 別に住む訳ではないから問題ないのだが、真っ直ぐ建てたはずなんだけど……

 地面の傾斜に影響されたのだろうか? 森の中なので平坦な地面ではないし。

 原因がわからずモヤモヤした気持ちで最上部まで上昇したが出入口のない小屋には入れなかった……


 違う種類の魔法を同時には使用できないので、一旦小屋の屋根の部分に降りて足場と出入口を作り中に入る。


「この塔の中ならオークキングでも来ない限りは安全ですよ」


「そ、そうだな……

 (このような構造物を魔法で、直前にオークの群れを倒し回復魔法を使った後でだぞ。

 しかもこれから飛行魔法で往復するとかとんでもない魔力量だ。

 ミナが見立てていた実力以上なのは間違いない。

 こんな少年が……あり得ないだろ……)」


「あなたやるわね!

 どう? 私達とパーティー組む気はないかしら?」


「それはさすがに遠慮させて頂きますね」


「なんでよっ!!」


 フライヤさんにパーティーに誘われたが速攻でお断りさせて頂いた。

 自分の志向以前にこの人はヤバいと思う。

 間違いなくトラブルメーカーだ。

 初見でヒロイン風なオーラを感じたのも納得である。

 こういう人はイケメンの勇者みたいな人とパーティーを組んで仲良くして欲しい。



 最初に救出された3人の内の2人を運ぶ。

 次にフライヤさん。

 最後にヌーベルさんともう1人の女性という順番だ。


「なぜ私は1人なのかしら……?」


 そういうところを気にしないで欲しい。

 重量やサイズの問題なので極めてデリケートなのだ。

 体重ではなく装備含めた"重量"であることは声を大にして主張したい!!


「少年、わかっているとは思うが街道も必ずしも安全な訳ではないぞ。

 短時間とは言え何の装備もない彼女達だけで大丈夫なのか?」


「彼女達には自分の剣と槍を渡しますのでそれで自衛してもらいます。

 一応街道のほうでも小屋を作るつもりですがそれ以上の備えはこの人数では……」


「い、いや、十分だろう。

 (まだ作れるのか……表情を見るに魔力残量を気にしている素振りすらない。

 もしや……まだ余裕があるというのか?

 そんなバカな!! だがこの状況で私達を欺く必要は…………)」


 一旦街に戻って冒険者に護衛を依頼するという方法もあるけどな。

 しかし当然それなりの時間が掛かるし、いくら俺が大丈夫と言ってもこの小屋タワーへの信頼も初対面の俺への信頼もない現状では採るべき手段ではない。


「街道なら出るとしてもせいぜいゴブリンぐらいでしょ!」


「そ、そうね、少しの間なら……」「帰れるなら何だってやるわ!!」


「一応野盗の類にも注意しろよ、そんな恰好なんだし」


「街道への移動が済んだら服と履き物を買って来たほうがいいですね」


「そうだな、そうしてくれ」


「買い物なら私も付き合うわ! あなたに女物を選ぶのは無理でしょ!」


 そういう買い物じゃねぇぇぇ。


「フライヤさんには護衛として残ってもらわないと困りますよ。

 古着屋で適当に買う物で3人には我慢してもらいます」


「仕方ないわねぇ。護衛に専念するわ」


 どうもフライヤさんのテンションがおかしいような……

 為人を知る訳ではないけどギルドに案内してくれた時とは明らかに違う。

 その時とは大分事情や状況は違うけど……、少なくとも3人の命を救えたことにホッとしたのだろうか?



「それでは行きましょう」


 2人の女性を両手で抱きかかえる。

 女性のほうからも抱き締められて革鎧ごしながら感じられる柔らかさにニンマリしてしまう。


 2人を抱えて飛ぶのは初めてだ。

 しかも2人の女性は何も防具を着てないから間違いがないように慎重に飛行しないといけない。


 という大義名分を得てゆっくりと慎重に飛んで行く。

 だが、どんなに努力しても幸せな時間は10分も続かず……


 街道に到着して2人が待機する場所を作らないといけないのだが……

 道に小屋を作るのはさすがに目立つし邪魔でもあるし、かと言って崖の反対側(北側)は雑木林になっていて地形も平坦ではなくここに作るとなると大工事になってしまう。

 悩んでいても仕方ないので崖側に作ることにした。

 以前に森の中に空中展望台を作った経験を存分に生かすことが出来た。

 2人に槍と剣を渡して中で待つように言って飛び立った。



 フライヤさんを抱えて道に降りる。

 普通に飛ぶと片道3分も掛からない距離だ。

 なぜかさっき連れて来た2人がせっかく作った待機所に入らずに入り口のところで衛兵のように立っていた。


「なんなの! これ?!」


「そんな恰好ですから中に入って待ったほうが……」


「だって……、ねぇ……」「あの……大丈夫かなって……」


「凄く高いわ!」


「十分安全に作ってますから大丈夫ですよ」


「良い眺めね! 2人も来なさいよ!!」


 2人のことはフライヤさんに任せて再び森へと飛んだ。




「少年、なんだこれは?」


「皆さんに待って頂く為の待機所ですよ」


「なぜ崖から飛び出る形で作ったんだ?」


「そこしか場所がなかったんですよ。

 わかりますよ? 林側に作れと言いたいのでしょ?

 しかしあそこを整地するの時間も掛かるし大変なんですよ!

 いいじゃないですか、住む訳ではないのですから」


「(そういうことじゃない!!)

 スーハー、スーハー……」


 ヌーベルさんともう一人の女性も無事に連れて来た。

 女性達を運ぶ間、森の中の小屋タワーにオークが群がるといった事態もなく最後にタワーを片付けて悠々と移動した。


「少年、なんだこれは?」


「水瓶のようなものです」


 空中待機所の中に入ってもヌーベルさんの質問は続く。

 時々深呼吸をしているが呼吸器系でも悪くしているのだろうか?


「その栓を少し引くと水が出てきますよ。

 引き過ぎると漏れてしまいますから注意してください」


「あ、ああ……」


 土魔法では蛇口部分がどうしても作れなかった。

 ネジのオスメスの再現やサイズを合わすことができないのだ。

 なので単純に栓をして水流を止める仕組みにしている。

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