第111話
背中をつねられ着地可能な地点に降下する。
ヌーベルさんが捜索に行く間に北へ向かう群れを調べてみるか?
いや、調べることはできても再びここに戻って来れるかが怪しい。
土魔法で木々より高い塔でも作って目印にすれば戻れるだろうが、今度は塔を作る際の音でバレるだろう。
ここは正面から提案すべきか……
「また探してくるから少年はここでまっ……」
「あのっ!!」
すぐ移動しようとしたヌーベルさんの手を掴んだ。
「なんだ?」
「さっき北へ向かうオークの群れを見ました。フライヤさんが追われていないか確認しませんか?」
「私は見えなかったが……」
「旋回した時にチラッとだけ見えたんです。確認だけでも……どうか……」
「………………わかった。
その群れが単に移動してるだけなら手を出すなよ」
「了解です!」
北方向へ飛んで行くと森の木々の間から駆けているオークの群れが見え、その先には必死に逃げている複数の人影があった。
1人ではなく複数人だとするとフライヤさんではなく別の冒険者パーティーということになる。
このまま捕捉させる訳にもいかないので、冒険者パーティーの近くに降りて迎撃することにした。
飛行中は口頭での意志疎通は難しいので自分の独断なのだが……
無関係な人間を助ける依頼外の行為はヌーベルさんに怒られるだろうか。
いや……
無関係と決め付けるのはまだ早い。
ひょっとしたらフライヤさんの情報を持っているかもしれない。
冒険者パーティーが走り抜けたすぐ後に着地し、すぐに土魔法で簡単な土塁を作成。
魔法攻撃を開始する。
敵の数は……オークのみで50体ほどか。
さして多くないので風刃と土槍(ノーマル)で倒していく。
回転系を使わないのはこの森はバルーカ南東の森とは違い木々の密度が高く射線が通らないからだ。
特に問題なく倒し切りオークの死体を収納していく。
きちんと数えながら収納しないといけない。今は臨時とは言えパーティーを組んでいるのだから報酬をどう分けるかの問題が発生してくるからだ。
収納したオークの死体の数は45体だった。
「ちょっと来てくれ」
ヌーベルさんに呼ばれ先ほど逃がした冒険者パーティーのところに行く。
「あっ!!」
あの遠くからでもハッキリと判る赤毛はフライヤさんだ。
しかし上空から見た時は全然気付かなかったぞ、あんなに目立つ赤毛なのに……
不思議に思っているとフライヤさんが手に持っている物を見て納得した。
兜被って赤毛が隠れていればわからなくて当然だった。
フライヤさんの他には女性が3人。
3人の女性は地面に座り込んでいて、ボロ布と呼べるかも怪しいズタズタに切り裂かれた布切れを纏っている。
ボロ布自体黒ずんでいてかなり汚いのだが、それにも増して女性達の体も汚いし臭い。
オークに敗北して捕えられたフライヤさんのパーティーメンバーで間違いあるまい。
「見ての通り幸運にも逃げてる者達の中にフライヤが居た訳なんだが……
救出した3人を護衛して帰ると言って聞かないんだ」
「あれ? あなたお昼にギルドに連れて行った……」
「5等級冒険者のツトムです。バルーカを拠点としています」
冒険者カードを提示する。
「もう知ってるみたいだけど4等級のフライヤよ」
フライヤさんも冒険者カードを見せながら応じた。
「それにしても囚われている人達をお一人で救出するなんて凄いですね」
「運が良かったわ!
上手く隙を突いて見張りを片付けられたから」
座り込んでいる3人の女性を浄化魔法で綺麗にする。
ボロ布は彼女達の体を隠し切れていない。
半端に露出してる分綺麗になった肌が余計にエロく……あ、この人結構大きい……
コ、コホン。
あまり見ないように視線を足のほうに逸らすと彼女達は靴を履いてなくて裸足だ。
綺麗になった足の裏は酷いことになっていて傷口から新たな血が流れ出ている。
「でも助け出した時に彼女達を嬲りに来たオークに見つかってしまって……」
この足の状態では長くは逃げられなかっただろう。
結構ギリギリのタイミングで駆け付けることが出来たんだな。
回復魔法を掛けて傷を治した。
「あなた回復魔法使えるの? その若さで凄いわね!」
「回復魔法が使えるのにこんな前線に出て大丈夫なのか?」
そう言えば人前で回復魔法を使ったのは初めてか?
いや、バルーカの城内で矢が刺さった自分を回復させたっけ。
模擬戦では頻繁に使っているがそういうのはノーカンで。
それはともかく!!
彼女達を治したところで裸足である問題は何も解決はしていない。
長時間歩くのは無理だ。
せっかく収納魔法を使えるのだから予備の衣服や靴・サンダルを持っておくべきだったかもしれない。
もっともどの道3人分なんて想定外で対応できなかっただろうけど。
当初の予定ではフライヤさんが帰還を拒んだら捕縛してでも連れ帰るというものだったが、囚われた人達を救出した後ということならば話は違ってくる……と思う。
ここは急いでヌーベルさんと今後の方針を確認するべきだろう。
段々とフライヤさんを不意打ちする体勢に入っているような気がするし。
「ヌーベルさん、ここは予定を変更して全員をメルクに連れ帰ることにしませんか?」
「少年、いくら回復魔法で治療しても彼女達を守って森を抜けるのは厳しいぞ」
ここから『森への出入り口』がある崖まで歩きだと3時間近くは掛かるだろう。裸足だともっと掛かると考えるべきだ。
だが、飛行魔法が使えるのだから歩いて行く必要はない。
「崖の上の道まで飛行魔法で運びます。
3回か4回往復すれば全員移動できるはずです」
「しかし少年単独ではここに戻って来れないのではないか?
それにもっと大きな危険としてさっき少年が倒したオークの血の匂いに引き寄せられて更なる襲撃が予想される。
ここで待つことはできないし、かと言って襲撃を逃れる為に北に移動すると少年との再合流はできなくなるぞ」
「それらの問題をまとめて解決する良い方法があります。
皆さん動かないでくださいね」
要は目印になる物とここに残る者の安全が確保できればいいのだ。
まずは5人を覆うように土魔法で小屋を作る。
「今から上昇しますから座っててください!」
「な、なに!?」「上昇って??」「ま、待て! しょうね……」
小屋の下に塔を作る感じで小屋を持ち上げていく。
念の為に塔の部分を段々と太くして安定性に配慮した造形にする。
先端の小屋の部分が周りの木々より頭一つ二つ高くなるぐらいで完成だ。
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