第113話
「トイレまであるのか……」
トイレは床に穴を開けてその周囲を少し囲っただけの空中に垂れ流すタイプだ。
ちなみにこの世界のトイレは街は下水道に汚水を流している。
もちろん下水処理場なんてないので垂れ流し……なんだろうか? さすがにこれ以上の情報は調べないとわからない。
壁外区にも下水道は普及していて当然俺の(借りてる)家もである。
村落には普及していない。
村には行ったことないだろうと思われるかもしれないが、街道には近くにある村が店を出していて乗合馬車や輸送隊、果ては軍隊相手に商売をしている。
日本の宿場町ではなく道の駅をすごくこじんまりとさせた感じで、休憩所の売店という言い方が1番近いかもしれない。
1日に何台も乗合馬車が止まるところはちゃんとした小屋で商売をしているが、そうでないところは屋台みたいな店構えだ。
最初に王都に行った際に行きは徒歩(護衛依頼を受けていたので)で帰りは乗合馬車で何度か利用している。
飲み物も食べ物も収納にあるので本来買う必要はなかったのだが、護衛でも乗客でも暇なことに変わりないので変化を欲したのだ。
まぁ店の人と話したりトイレを利用したりして何も買わないという訳にはいかないし、それは売る側の狙いでもある。
この辺は日本も異世界も変わりないようだ。
待機所からメルクまでは巡航速度で3分ぐらいだった。
距離にするとざっと15キロメートルほどである。
この距離ならば全員で歩くより先ほどのように抱えて飛んだほうが圧倒的に早いだろう。
メルクの街で3人分の衣服(もちろん古着)とサンダルを買い待機所に戻って3人に着替えてもらった。
ヌーベルさんにまた飛行魔法で連れて行く旨を伝えると、
「もう緊急性はないのだから街中を飛んでギルドまで行くのではなく門のところで降ろしてくれ。
ああ、西門ではなく北門のほうで頼む」
「わかりました」
3往復して5人全員をメルクの街の北門に運んだ。
「ヌーベルさん、自分はここで失礼しますが討伐したオークの分配は金銭で立て替える形でいいですか?」
「少年1人で倒したのだから私の分はいらないぞ」
「臨時とはいえパーティーを組んだ以上はしっかりと分配しないとダメです!!」
俺の数少ない貴重なパーティー経験なんだ。
報酬に関してもしっかりしないとな!!
「そ、そうか……、しかし彼女らの服も少年が出したのだし……」
「それでしたら収納したオークの数は45体ですので1体分を経費としてヌーベルさんには22体分、11万ルクの支払いでよろしいでしょうか?」
「はあ?」
「御不満ですか……
でしたら1体の買い取り価格を5,500ルクとして121,000ルクでいかがでしょう?」
「ま、待て! 少年!!」
「まだ不満なんですか?
仕方ありませんねぇ。
買い取り価格を6,000ルクとして132,000ルク!!
さらにっ!!
今なら特別に王都で評判のオーク肉を挟んだこの美味しい肉パンをもれなく全員に差し上げます!!
どうだっ!!!!」
「…………」
ヌーベルさんはやたら口をパクパクさせた後で何度も深呼吸を繰り返している。
テレビやラジオどころか新聞すらない世界の人々にとってテレビショッピング的な言い回しは刺激が強すぎたのだろうか?
「少年……」
「??」
「その商人みたいな計算の速さはなんなんだ? とか、
あの短時間に45体も倒していたのか? とか、
45体も入る収納魔法ってなんだ? とか、
ちょっと森に行っただけで10万超える報酬とかあり得ないだろうとか、
なぜ報酬に絡めて王都のパンをくれるんだ? とか、
そもそもがその尽きることのない魔力量はなんなんだ? とか色々聞きたいのだが……って聞けよっ!!」
フライヤさん達に王都のティリアさんお薦めの肉パンを配っていたらヌーベルさんに怒られてしまった。
「とても美味しいわ!!」
3人の女性達にも美味しいと非常に好評だ。
「まぁまぁ。ヌーベルさんもおひとつどうぞ」
「むぅ……
モグモグ。
確かに出来立てを収納したであろうこのパンは絶品ではあるが……
モグモグ……」
「ありがとう」「ありがとうございます」「この御恩は忘れません」
救出した女性達にお礼を言われ、
「来てくれて助かったわ!」
「礼でしたらニナさんに。
彼女からの依頼で動いたのですから」
「そ、そうね……」
フライヤさんはニナさんが苦手なようだ。
この自由奔放な性格だとニナさんのようなタイプとぶつかることが多いのだろう。
「少年、今度メルクに来た時は1杯奢ろう。
色々じっくりと話しをしたいしな」
お酒ではなく是非そのお身体で……と言いたいのをグッと堪える。
ヌーベルさんには報酬分の金銭を渡して匿名の件をくれぐれもお願いしておいた。
幸いにも終始少年呼びされていたのでフライヤさん達は俺の名前を未だ知らないはずだ。
いや、逆か。
匿名の件があるから少年呼びしてくれていたのだ。
「それでは皆さん、また機会があればお会いしましょう」
最前線の街で冒険者として活動する以上は次にメルクを訪れた際にこの5人が無事でいる保証はどこにもない。
名残惜しさを感じたものの一気にバルーカに向けて飛び立った。
昨日の今日だけに早めに帰るはずがそこそこ遅くなってしまった。
最後にアクシデントがあったのだから仕方ないとはいえ。
「ただいま~」
「おかえりなさいませ。遅かったのですね」
玄関で待っていたのだろうか?
心配させちゃったかな?
「今日はメルクまで行ってきてな」
そのままルルカと抱き合う。
「お食事の用意はできて……ん?」
そしてルルカはクンクンしだした。
「別の女の匂い……」
あ゛!?
なぜ人は同じ過ちを繰り返すのだろうか?
「しかも複数?」
玄関を開ける前に浄化魔法を掛けることぐらいのことがなぜできない??
「ロザリナ! すぐ来て!!」
戦いは数だよ兄貴と言わんばかりに即座に数的有利を画策するルルカ中将。
「ルルカさんどうしました?」
そう聞きながらやって来たロザリナは即座に俺に抱き付いてクンクンし始めた。
ロザリナは今のやり取りとこの状況を見てどうやって瞬時に"俺の匂いを嗅ぐ"という選択に辿り着いたのか……
まるで理解できない状況に思考が追い付いて行かない。
「2人? 3人?」
「いえ、もっと多いような……」
段々と真実の扉を開け始める2人。
い、いや、待て。
俺には何もやましいところはない。
2人の主人らしく堂々としていればいいのだ!
「ツトムさん詳しくお話を聞かせてもらえますね?」
「ツトム様こちらへ……」
「ハ、ハイ……」
2人に両脇を挟まれてリビングに連行されていく俺。
とてもじゃないがご飯食べながらでいい? とは言い出せなかった……
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