第105話

「他に用件がないのでしたら失礼しますね」


 あまりに不愉快な話が続いたので強引に話を打ち切って退室した。

 俺をペットか何かのように扱いたい・飼いたいと言われてるみたいで凄く気持ち悪かった。

 ギルドを通して依頼を受けろと言うのはわからんでもない。

 依頼に発生する手数料はギルドの大事な収入源だろうからな。

 しかし城内ギルドに所属を変えろというのは意味がわからない。

 こんな仕打ちを受けても自分の下に来ると本気で考えているのだろうか?


「ちょっといいかな?」


 階段を1階に降りたところで声を掛けられた。


「あっ、先ほどの……」


 模擬戦前に今知ったことに不満はないと言った人だ。


「まずは自己紹介からかな。

 オレは4等級パーティーのリーダーをしているグリードだ。

 遺憾ながらバルーカではトップパーティーになってしまっているかな」


 年の頃は20代前半のまさに重戦士といった感じの大男だ。

 背中に背負っている大剣はグレートソードだろうか? それともクレイモアか?

 オーク集落討伐でやられてしまった3等級パーティー瞬烈の重戦士ガルクよりは一回り小さい。


「5等級冒険者のツトムです」


「とりあえず座って話さないか?

 飲み物ぐらい奢るからさ」


「構いませんよ」


 このグリードという人に悪い印象はないので承知する。


 受付の反対側にある食堂に移動した。

 出張所である壁外ギルドにはないが、城内のギルドには酒や食べ物を提供する店がギルドによって運営されている。

 利用するのは初めてだが、食事時以外でもそこそこ冒険者がたむろしているのを見かけていた。

 分類的には居酒屋が近いだろうか?

 適当に座り飲み物(果汁水)を頼み、


「率直に聞くが、オレのパーティーに入らないか? いまソロなんだろ?」


 パーティーの勧誘か……2回目だな。


「誘って頂いたのは嬉しいのですが……スイマセン」


「断られるだろうとは思っていたが……

 一応理由を聞いてもいいかい?」


 俺の返答を予測していたらしく落胆している様子はない。


「基本的に自分でパーティー作って好きにやりたいという希望があるのですが、現状ソロでも困っていませんので」


 朝のイチャイチャは絶対死守だ!

 まぁ正直言ってパーティーを組むメリットがないんだよなぁ。

 仲間だったりパーティー戦闘の経験や冒険者としての知識を得られはするだろうけど、それだけだと結局は強さや収納魔法による運搬能力を依存されるだけの関係になって長続きはしないと思う。


「あの火力ならソロでも十分やっていけるか。

 実は勧誘とは別に頼みたいことがあってな、君が4等級に昇格したら俺達と一緒に3等級への昇格試験を受けてもらえないか?」


 本命はこちらという訳か。


「それは全然構わないのですが、自分が4等級に昇格するよりグリードさんのパーティーが3等級に昇格するほうが早くないですか?

 何せ自分が5等級になったのはついこの間ですし」


 ギルドで依頼を受けない俺は等級を上げるメリットがほとんどない。

 ましてバルーカのトップランクに名を連ねるなんて面倒事が起こる予感しかしない。

 主に3階にいるギルドマスター絡みとか……


「今は昇格試験の対戦相手である3等級パーティーがバルーカにいないからね。

 試験を受ける為には3等級パーティーを他の街から呼ぶかオレ達が他の街に出向くかしないといけない。

 その為の調整をギルド間で色々とやるから時間が掛かるんだよ」


 他の街に出向いて試験を受けるというのが1番簡単そうだけど……

 それだとバルーカトップパーティーとしての面子が立たないとか。いや、グリードさんは自己紹介の時に『遺憾ながら』と言っていたのだからパーティーではなくギルド側の面子か!

 昇格試験程度で他の街のギルドとスムーズな連携ができないとすると……

 冒険者ギルドは異世界モノの定番で複数の国に展開する超武力組織的なイメージだったのだが、その実態は各街のギルドの独立色が強い縦割り構造な欠陥を抱えてもいる訳なのか。

 さっきレドリッチ(ギルドマスター)が『3等級より上のパーティーを招くことは簡単にできることではない』と言ったのもその動機の部分はともかく事実ではあるらしい。


「わかりました。

 自分が4等級になった時にグリードさんがまだ4等級のままでしたら一緒に昇格試験を受けましょう」


 すぐには4等級に上がるつもりはないがいずれは昇格することになるだろう。

 ロザリナを4等級にしてあげたいしな。


「その時は頼むな」




 グリードさんと別れ一旦壁外ギルドに向かった。

 職員のミリスさんに一応レドリッチとの面会内容を伝えようと思ったからである。

 円満な面会とは到底言えずトラブルに発展する可能性が高いのであればきちんとした情報提供は必須だろう。

 それと城内ギルドではオークを売り捌くことはしなかった。

 こちらのどのような行動が相手(ギルドマスター)に付け入る隙を与えるかわからなかった為に自重したのである。




「はぅあ! そのようなことが……」


 『はぅあ!』って……

 壁外ギルドの個室でミリスさんにレドリッチとの面会内容を伝えた際の第一声である。

 最初に会った頃はクールな秘書風お姉さんだったんだが……

 会う度にキャラ崩壊していって残念な感じになってしまっている。

 せめてお色気要素でもあればいいのだが、ギルド職員の制服はスタイルを強調するようなタイプではなく、ミリスさんもお尻の主張は激しいもののお山は普通ぐらいだ。

 年齢相応に落ち着いた態度を貫けばいいと思うのだが……


 ギロッ!


 ヒィ~

 ま、まさかルルカみたいな感知能力があるのだろうか?!


「魔法で実力を納得させたって何をしたんですか?」


「大したことはしてないですよ。ちょっとだけ本気で魔法撃っただけで」


「そうですか。

 所属に関しては6等級か5等級の間に城内ギルドに移す人も多いのですけど……」


「こちらの壁外ギルドでも城内に所属を移すよう薦めているのですか?」


「いえ、特にそのようなことはありません。

 冒険者の方達にとっては登録手続きさえしてしまえばどこのギルドでも依頼は受けられるのですから関係ありませんし。

 ギルド側は所属冒険者の活躍が実績に繋がる訳ですが、しかしわざわざ所属の変更を働きかけるなんて……」


 現時点では自分の功績は秘匿してる訳だからギルドの実績目当てに俺を所属させようとしている訳ではないと思うのだが……

 将来的な活躍を見込んでの先物買い的な措置だろうか?


「それにしてもツトムさんが軍から依頼を受けていたなんて知りませんでしたわ」

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