第103話

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-バルーカ城内ギルド3階の一室にて-


「だって大変でしょう?

 この建物や周辺の家屋の再建、周辺住民の避難、賠償金額も莫大な額になるでしょうし」


 この少年はどこまで本気なのか……


 当初はこちら(冒険者ギルド)に一言もなく軍の依頼を受けた5等級冒険者に対してお灸を据え、今後軍はもちろん城関係全般に関してこちらに判断を仰ぐように命令して都合の良いように動かせる手駒にするはずだったのだが……


 確かに相応の実力はあるのだろう。

 3等級パーティー瞬烈が全滅したことを受けて大変な苦労をして招いた現役1等級冒険者ケルトファーが、


『あんな奴がいるなら俺は必要ないだろ』


 と言って帰ってしまうほどの実力の持ち主……らしいが……。

 6日前の5等級昇格試験で5人抜きをしたことで魔術士ツトムの名前は一気にバルーカギルドに広まった。

 だが5等級辺りの模擬戦だと組み合わせや相性によって一方的な結果になることは稀にあるのだ。

 実際昇格試験を見たという子飼いの4等級パーティーに聞いても、確実に4等級クラスの実力はあるものの3等級には届かない、という返事だった。

 その4等級パーティーを魔術士ツトムに対する出頭要請を壁外ギルドに出した昨日から城内ギルド内に待機させている。

 もうすぐ職員が呼んで来るはずだ。


 私の少年を見る目が段々と厳しくなる。

 このくらいの年頃の時私は何をしていただろうか?

 冒険者として身を立てようと見習い期間を終えて7等級冒険者になり依頼を受けて街中を走り回っていた頃だったか。

 残念ながら私には冒険者としての才能がなかった。

 武技に優れている訳でもなく、魔力に恵まれている訳でもなく、探索や調査のような能力を有している訳でもなかった。

 その上体格も身体能力も並以下ではパーティーに入ることすらできなかったのだ。


 私が現在バルーカの地でギルドマスターの地位にいるのは、7等級冒険者になった翌年に隠居した元ギルド職員と懇意になり教えを受けたからに他ならない。

 もっとも教わったと言っても戦闘の技術や探索者の心得とかを教わったのではない。長年ギルド職員として観察し続けてきた冒険者の実態……ほとんどの者が成功者になれずに五体満足で引退できるかも怪しく厳しい引退後の生活が待っている現実を事細かに教わり16歳という若さで冒険者という夢を諦めることが出来たのだ。


 その後その元ギルド職員の伝手で冒険者ギルドの手伝いをするようになりその数年後に正式にギルド職員になった。

 別に職員として何が優れていたという訳ではなかったが、長年勤めている実績と慎重に仕事を行うことを評価されて2年前からここバルーカでギルドマスターをしている。



 目の前の少年の才能に嫉妬している訳ではない。

 長年の職員生活の中で前途有望な若者なんて腐るほど見て来た。

 2等級や中には1等級にまで駆け上がる者もいたが、大抵は道半ばで挫折してしまう。

 冒険者として夢破れるのであれば本人も納得するのかもしれないが、残念ながら金銭トラブルや異性問題、酒に溺れて挫折していく者もかなり多い。

 果たしてこの少年の行く末は……




「マスター、ギルド内にいる4等級パーティーをお連れしました」


「ご苦労でした」


 私が待機を命じていたパーティーが入って来る。


 !?!?!?


 その後にもう1パーティーが続いて入って来た。

 あれは現在バルーカでトップの4等級パーティーだ。

 バカな……

 彼らがこんな朝早い時間からギルド内にいるなんて……


「ギルドマスターの呼び出しなんて一体何があったんだい?」


 バルーカ筆頭パーティーのリーダー、グリードが問いかけて来た。


「実はここにいる5等級冒険者ツトムが勝手に軍からの依頼を受けてしまってね、注意した流れで実力を証明したいということになり君達に来てもらったのだ」


「あなた方が自分が軍から依頼されたことに不満を持っているということで間違いありませんか?」


「ああ。オレらを差し置いて5等級なんかに出し抜かれるのは許せないな」


 見習いの頃から面倒を見てきた私の子飼いのパーティーだ。

 そのように言うように仕向けたのだが……

 問題なのはグリードのパーティーだ。


「俺達は関係ないぞ。

 今初めて知ったことなのに不満を持つも何もないしな」


 くっ。

 当たり前のことだがグリードは関わりを否定して来た。


 いや、丁度いいか。

 グリードのパーティーが静観している内にこの少年を叩けばいいだけだ。


「早速だが君の実力を見せてもらおう」


 何やら職員と話している魔術士ツトムを尻目に1階の訓練場に向かった。

 忠告に従い城外にすべきかと思ったが、子飼いのパーティーやグリードのパーティーの手前弱気な姿を見せることはできなかった。




 訓練場にて対峙する。


「オイオイ、まさか1人で俺達の相手をするつもりじゃないだろうな?」


「そのつもりだ」


「舐めやがってぇ」


「悪いが手加減はしないぞ? 降参するチャンスは1度だけだ」


「こっちはチャンスなんてやらんがな。ボコボコにしてやる!!」


 多くの冒険者たちが既に依頼を受けて現場に移動している為にギャラリーは少ない。

 グリードのパーティーの他は数人と……

 何故かギルド職員が多数観戦している。

 こんな不真面目な勤務態度だっただろうか??

 疑問に思いながらも私は数歩前に出て合図した。


「はじめ!!」


 ズドン!! ズドン!! ズドン!!


 合図と同時に凄まじい爆発音が響き、土煙が舞い視界を奪った。


「な、なんだ……??」


 段々と土煙が収まってくる。

 最初に視界に映ったのは無惨な姿をしたギルドの建物だった。

 2階の部分に3ヵ所の丸い大穴が空き、斜め上に3階部分を貫いている。

 私の執務室が……

 いや! そんなことよりこの惨状では2階と3階にいた職員に犠牲者が……


「すぐに2階と3階の負傷者の救助に当たれ! 急げ!!」


「その必要はありませんよ」


 魔術士ツトムが近付いて来た。


「貴様ぁ、よくも!」


「2階と3階は無人にするよう職員の方にお願いしてあります」


「本当なのか?」


 傍にいた職員に聞く。


「はい。ツトム殿の指示通りに2階・3階は無人にして立ち入り禁止にしてあります」


「くっ……、犠牲者や負傷者が出なかったのは幸いだったが……」

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