第7章 東方見聞編

第102話

 渡された書類に目を通してみる。

 調査対象のギルド職員の名はケルトファー。1等級冒険者で年齢は30代後半。

 3等級パーティー瞬烈の壊滅を受けてバルーカギルドが呼び寄せたらしい。

 剣と魔法の両方を使う魔法剣士。

 主にコートダールで活動していたらしく、10年以上前に1等級に昇格。

 城内ギルドで冒険者の指導に当たっていたが、3日前にバルーカを発ったとのこと。


 見た目の印象は20代後半ぐらいの感じだったが結構な年齢だったんだな。

 魔法剣士というのがどのような戦い方をするのかが気になるな。

 不審な点がないのであれば手合わせをしても良かったかもしれない。

 しかし本人不在の中でのたった1日の調査ではそんな深いところまではわからないか。


「それとツトムさんに指名依頼が来ています」


「自分に指名?」


 誰だろう?

 知らない間に俺にもファンができたとか……

 昇格試験での5人抜きはかなりインパクトあっただろうし。

 恋の予感が……まだ女性と決まった訳でもないけど。


「タークさんのパーティーが魔法の指導をお願いしたいと」


 そんなことだと思ったよ!


「日時は指定されていますか?」


「いえ、特に指定はありません」


「でしたら明後日の朝に壁外区の北口でお願いします」


「承知致しました。最後に……」


 まだあるのか。


「ツトムさんにギルドマスターから出頭要請が来ています」


「今すぐですか?」


 席を立ちかけるが、


「い、いえ、ギルドマスターは城内ギルドのほうに居りますのでそちらに。

 ここはあくまで出張所ですのでギルドマスターはいないのです」


「そうですか……

 その出頭要請には強制力はありますか?」


 再び腰を落として聞いてみた。


「いえ、特にペナルティーはありませんが……」


「なら拒否していいですかね?

 これでも忙しい身でして」


 大して忙しい訳ではないけど厄介事だったら嫌だしな。


「あの~できれば応じて頂けると……ツトムさんを担当している私の立場が……」


 ミリスさん的には苦しい立場に立たされてしまうか。


「わかりました。ミリスさんの顔に泥を塗る訳にはいきませんからね」


「ありがとうございます!」


 この後行くか。

 どんな用件なのか気にもなるし。

 あ、肝心なこと聞かないと……


「ミリスさんは半年ほど前にメルクで暴れていた黒いオーガについて何か知っていますか?」


「特殊なオーガに関して注意を促す勧告がメルクから来ていたのはその頃だったかと。それ以上は私には……申し訳ありません」


「気にしないでください」


 これはメルクに行って直接調べるしかないかな。


 その後解体場でオーク30体とオーガ10体を売却した。

 なぜ30体の売却かというと、買い取り上限が50体で狩りから戻る他のパーティーの買い取り枠を空けておきたい旨を言われての売却数なのだ。

 以前のオーク集落討伐の際には100体以上の買い取りをしていたが、前以って城内の卸売業者を呼び寄せていたから可能だったとのこと。

 壁外区域だけではそんなに数は捌けないようだ。




 その後に城内ギルドに行き受付で出頭要請を受けた旨を伝えると建物の最上階(3階)に案内された。


「どうぞお入りください」


 案内してくれた受付嬢に促されて最上階奥の個室に入っていく。


「よく来てくれたね。私がバルーカギルドのマスターであるレドリッチだ」


「初めまして、5等級冒険者のツトムです」


「掛けてくれたまえ」


 大きな机の前に置かれた椅子に腰掛ける。

 ギルドマスターを名乗ったレドリッチは40代の痩せた男で鋭い眼光をしている以外特に目立つところはない普通のおっさんだ。

 イメージ的にギルドマスターは元凄腕の冒険者みたいな想像をしていたのだが、レドリッチにはそのような雰囲気は微塵も感じられない。


「最初に確認したいのだが、先日領軍との連絡会議において近々実施される南方砦の奪還作戦に特別に君を借り受けたいとの申し出があったのだが間違いないかな?」


「はい。間違いありません」


「ふむ……

 なぜ君が選ばれたのかわかるかね?」


「さぁ……、単に領軍のトップであるロイター子爵と知り合いだったからではないでしょうか?」


「それだけの理由で君を選んだというのはちと考えにくいな。

 軍からの具体的な依頼内容を何か聞いているかな?」


「何も聞いておりません。

 ロイター子爵の直属として色々動いてもらうとしか……」


 なんだろう?

 俺が軍から直接に依頼されたのが気に入らないということなんだろうか?


「上の等級のパーティーを差し置いて君が軍から依頼をされたことに不満の声が上がっていてね、今回事情聴取する運びとなった訳だ」


「しかし依頼者(今回の場合は領軍)が誰に依頼をするのかは本来自由のはずなのでは?」


「依頼者が個人の場合はそうなんだがね……

 依頼者が組織、しかも極めて公共性の高い事柄の場合は話は別だよ。

 君も知っていると思うがここバルーカに限らず最前線においては軍と冒険者ギルドとの協力関係は極めて重要なのだ」


「軍のほうもそのように考えているからこそ事前に話を通しているのだと思うのですが……」


「それは承知している。しかし現実として不満の声が出ている以上こちらとしても対応しないといけないのだ」


「上の等級のパーティーというのは具体的には4等級パーティーということですか?」


「ああ。複数の4等級パーティーではあるが……」


「何パーティーでも構いませんが自分が相手をして蹴散らせば万事解決しますか?」


 要は実力を示せという話なのではないだろうか。


「ほぉ……

 つまり君は個人で4等級パーティー相当の実力はあると、軍もそのように認識しているということかね?」


「少なくともこんなつまらんことで不満を言う、しかもギルドマスターに泣き付く連中よりかは実力はあると思っていますね」


「ふむ……」


 レドリッチは机の上に置いてある呼び鈴を鳴らした。


「お呼びでしょうか?」


「ギルド内に4等級パーティーがいるなら連れて来てくれ」


「かしこまりました」


 職員が出て行くと、


「今なら先の発言を撤回することも可能だが?」


「その必要はありませんよ。こちらも1つ忠告しておきます。

 もし今呼びにいかせた4等級パーティーと勝負させようと考えているのなら場所はギルドの訓練場ではなく城外の離れた場所をお薦めします」


「どうしてかね?」


「だって大変でしょう?

 この建物や周辺の家屋の再建、周辺住民の避難、賠償金額も莫大な額になるでしょうし」

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