第95話
「よし! ツムリーソ、これをレグの指揮官に、こちらは陛下にお届けするように」
「かしこまりました!」
「頼むぞ」
「行ってまいります!」
要塞司令官の部屋を出て階段を下りていく。
やっぱりこの2通の書状は届けないとマズいよなぁ。
まぁレグの街は最後に無事なのを確認するのはアリか。
レイシス姫にも近くで会える口実にもなるしな。
その後の王都行きは気が進まないが、王城で適当な誰かに書状を託せばいいか。
王様に直接渡すなんて冗談じゃないしな。
おっと、本来の目的を忘れてはいけない。
3階まで降りて様子を見る。
看護婦さんが行ったり来たり忙しそうにしている。
このまま話すと身バレしてしまうよなぁ。
そうだ!
隅に置いてある包帯を失敬して……人のいないところに行き、首から目の下あたりまで包帯でぐるぐる巻きにする。
却って目立つか?
包帯のイメージが強くて全体の印象が薄くなるだろう……と思いたい。
あの看護婦さんに聞こう。
「ちょっといいですか?」
なぜならナイスバディだからだ!!
「なんでしょう?」
俺の包帯で覆った顔を見て怪訝な表情をしてるな。
「この中に手足を切断されたケガ人はいますか?」
「何名かおりますが……」
「その中で切断された手足がまだある人はいますか?」
「1人だけいますけど……」
「案内してください」
「こちらへ」
案内されたベッドには足を膝下から斬られた男性兵士が寝ていた。
まだ20歳ぐらいの若さだ。
「包帯取るぞ、切断された足は?」
「こちらに」
「な、なんなんだおまえは!?」
斬られた足は氷とかでちゃんと保存してないけど大丈夫だろうか?
まぁ俺は医者じゃないし元通りくっついたら儲けものと思ってくれ。
傷口を合わせて……
「痛てぇ! なんなんだよ!」
「黙ってじっとしていろ」
骨や血管や神経が繋がるようにイメージしながら回復魔法を施す。
「ウソ……」
「え?」
「足の指を動かしてみろ」
「う、動くぞ! ちゃんと動く!!」
「他にはもういませんか?」
「は、はい。この階には、ひょっとしたら2階にいるかも……」
ナイスバディな看護婦さんは興奮気味に答えてくれた。
胸が上下に揺れるのが服の上からでもわかってエロい……
なんとか色仕掛けの誘惑に耐えて2階に行きそこの看護婦さんに同じ質問をするが、2階にはいなかった。
仕上げとして範囲回復を発動してルミナス大要塞を後にする。
レグの街は防御陣地での戦闘が続いているようだ。
まずは街に降りて重傷者が運びこまれている商館に行く。
そこの看護婦さんに要塞の時と同じ質問をすると、切断された手足がまだある患者は2人いるという。
最初の患者のところに案内してもらう。
20代半ばの女性兵士だ。両足が膝の上から切断されている。
斬り離された両足の状態が悪い。とりあえず回復魔法を掛ける。
続いて体の方の包帯を取るが、傷が塞がってしまっていた。
「えっと、今から脚を切って傷口を広げますので痛いですよ?」
女性兵士はうつろな目をして反応がない。
剣を取り出し浄化魔法を掛ける。
「な、なにを」
看護婦さんが慌てて止めようとするが、構わずに足を切った。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
傷口に足を繋げて回復魔法を施す。
「やめてぇぇぇぇぇぇ」
もう片方の脚にも同じ処置をする。
「足の指を動かしてみろ」
泣き叫んでいた女性兵士の頬を叩き厳しめに言う。弱気は禁物だ。
「う、動くわ! 私の足が……」
「ゆっくりでいいから指を動かし続けておけ、あとマッサージもしておけよ」
血行を良くすればなんとかなるんじゃね? 的なアドバイスだ。
適当極まりないが医者ではないのでギリギリセーフなのだ。
次に案内された患者は中年の男性兵士で手首から斬られていた。
特に問題なくサクっと繋げる。
治療が終わって商館を出て行こうとする時に看護婦さんから、
「あなた様のお名前は?」
と聞かれて焦ってしまった。包帯男とでも名乗ろうか?
「医者に名前は必要ない。そこに患者がいるかどうかだ」
自分でも訳わからないことを言って、範囲回復を発動する。
「おお……」
「またも奇跡が……」
「神様ぁ!」
看護婦さんが周囲に気を取られている間にすぐさま商館を出て路地裏に隠れた。
顔に巻かれた包帯を解いていく。
治療をする時は包帯男で、伝令時は素顔で使い分けることにしよう。
2人いたと思わせるほうが混乱するだろうし、何より包帯男の伝令なんて怪しまれるからな。
街の中央にある防衛司令部に赴く。
いよいよレイシス姫とのご対面である。ちょっとドキドキするな!
司令部の入り口に立っている歩哨に話し掛ける。
「こちらにこの街の指揮官殿はいらっしゃいますか?」
俺はルミナス大要塞から来たのだから、この街の指揮官がレイシス姫であることは知らない体で話さないといけない。
「おられるが、何の用だ?」
「ルミナス要塞からの伝令で参りました。指揮官殿にお取次ぎ願いますか?」
「おおそうか。閣下は入って突き当りを右に行って一番奥の部屋だ」
「どうもッス」
中に入っていくと廊下はバリケードが作られていて人1人分しか通れるスペースしか空いてない。
魔物が街に侵入していたらここでも防ぐつもりだったようだ。
昨日ここに来るのが遅れていればそうなっていた可能性があるのか。
アルタナの様子を見に行くことになったのは昨日ロイター子爵のとこでナナイさんと話してた時だったか。
いや、姫様に会う前に待合室で商人の爺さんと話して様子を見に行くことにしたんだった。
あの時爺さんの隣に座らなかったらかなり歴史が変わることになるな。
レグの街は落とされ王都に魔物が殺到していただろう。
帝国と王国からの援軍を待って3ヵ国連合軍による決戦が挑まれることになる流れだろうけど、俺が倒したオークキングや黒オーガが参戦するならかなり厳しくないか?
決戦に敗れて王都が陥落して……なんて最悪なパターンもあり得る訳か……
俺個人の行動如何でこの世界の歴史が変わってしまう。
シャレにならないぐらいのプレッシャーだぞ、これは。
昨日もし朝普通に2人とイチャイチャして少し狩りする程度で1日を終えていたら、数千いや万単位での死者がアルタナで出ていた訳だ。
姫様への献上品イベントを早めに終わらせたい気持ちがあったからその可能性は低かったとはいえ、本当にシャレにならんぞ。
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