第94話

 すぐにでもバルーカに帰りたかったが、まだもう1仕事あった為にルミナス大要塞に潜入した。

 仕事と言ってもケガ人に回復魔法使うだけなんだが。

 城壁上の人がいない端のほうに降りる。

 しかしこの城壁は高い。

 地上までは50メートルぐらいありそうだ。

 城壁の裏側(北側)に塔が3つ壁に引っ付いている。

 中央の塔が1番太く、3つとも円の一部が壁にめり込むように建てられている。


 う~ん、治療所は一体どこにあるんだ?

 これだけの大要塞だと一々探してなんかいられないぞ。

 レグの街みたいに外にケガ人がいてくれるとわかりやすいのだが、さっきまで(俺が城壁の穴を塞ぐまで)外には魔物が溢れていたのだから当然ケガ人は要塞内ということになる。


 とりあえず近くの塔に入ると下へと続く階段と物置部屋があった。

 部屋の中を物色する。

 む。外に人の気配が……


「穴は塞がったのか?」


「ああ、土魔術士が塞いだらしいぞ」


「これで国内に流入する魔物を遮断できるな!」


「昨日まで城壁の穴を塞ぐのはことごとく失敗してたのにどうして今日は成功したんだ?」


「俺が知るか。魔術士隊が上手くやったんだろ」


「要塞の外で魔法撃ちまくってた奴がいたってよ」


「魔術士の魔力はカツカツなんだろ?」


「援軍でも来たのか?」


「まさか。国内に流れ込んだ魔物の対処で一杯一杯のはずだろ」


「じゃあなんなんだ?」


「凄腕の冒険者が来たとか?」


「あり得るな。今頃司令官に褒美をねだってるかもな」


「あのケチな司令官がすんなり褒美なんか出すか?」


「ハハハハ、まったくだ」


 数人の兵士が階段を上って来て表に出て行った。

 部屋の物色を再開する。

 ゲームなら貴重なアイテムや装備をゲットできるとこだろうが、あるのは大量の矢と応急処置用の包帯とガーゼとか……おおっ、軍服が結構あるな。ボロボロのが多いが。

 廃棄するのか再利用するのかわからんが、貰っても構わないだろう。たぶん。

 割とマシなのを選んで着替える。

 これでアルタナ軍兵士に変装完了だ!


 階段を下りていく。

 優しそうな人に治療所の場所を聞かないと……

 あっ、女性兵士発見!


「すいません、ケガ人ってどこに?」


「中央塔の2階と3階だけど……、あなたそんなことも知らないの?」


「さっき友人がケガしたって……、それで見舞いに」


「そう。心配ね」


「教えて頂きありがとうございました!」



 友人はともかく、結構な美人さんだったな。ちょっとキツそうな感じだったけど。


 ここから中央塔ってどうやって行くんだ?

 まさかもう一度上まで行かないと行けないとかか?

 もう場所さえわかれば別にいいか。


 近くの部屋の窓から飛行魔法で中央塔へ。

 建物の外から回復魔法で一気に……いや、一応手足を切断された人がいないか確認するか。

 中央塔の4階の窓から中へ……


「オイ!」


 !?

 外から中は確認したのに死角にいるとは……


「ハッ!」


 うわぁ、偉い感じの人が椅子から立ち上がったよ……やべぇ。


「貴様飛行魔法が使えるのだな?」


「は、はい」


「ついて来い」


 そのまま7階まで連れて行かれ、


「閣下! この者が飛行魔法を使えます」


「ほう。あの2人以外にも飛行魔法の使い手がいたとはなぁ。

 見ない顔だな、前進拠点から撤退して来た部隊の者か。

 名はなんと申すのだ?」


「ツ……」


「ツ?」


「ツムリーソであります!」


 とっさに適当な偽名が思い付かなかった!!


「ではツムリーソ、これから書く書状を王都へ届けてくれ」


「ハッ!」


 やだぁぁぁぁ。

 もうクタクタなのにぃぃ。

 さっきまで腕が半ば千切れるほどの激闘を演じてたんだぞ。

 なんで郵便配達なんてしなきゃいけないんだよ!!


「まったく、いくら事前の取り決めだったとはいえこちらから出した飛行魔術士を他で転用されるのは叶わんな」


「はい。その後の状況変化に対応できません」


「王都にいる連中ももっと柔軟な対応をして欲しいものだ」


「自分達が決めたことに固執することしかできない連中ですからな。

 奴らがベルガーナからもたらされた情報をすぐに各方面に通達していればこのような甚大な被害は出さずとも済んだでしょうに」


「まったくだ。

 奴ら何の為に情報を秘匿したんだ? 政治利用でもする腹積もりだったのか?

 同盟の精神を汚し国内に甚大な被害を引き起こした、まさに獅子身中の虫とは奴らのことよ」


 (ベルガーナ)王国からもたらされた情報を王都にいる軍の上層部が握り潰していたのか。


「閣下……」


「犠牲になったレグの街が気の毒でな」


「レグの街は無事……」


 やべぇ、思わず声に出た。


「なにぃ? 貴様にどうしてわかる?」


「さっきちょっとだけ様子見に……」


「貴様ぁ、持ち場を離れたのか!?」


「勤務時間外であります!」


「たわけぇ!! いくら時間外でも要塞から離れていい訳があるかぁ!!」


「参謀長、落ち着き給え」


「ハッ!」


 この人は参謀長らしい。


「ツムリーソ、レグの街の様子を報告したまえ。それでこの件はチャラにしよう」


 一瞬なんのことかと思ったら俺の偽名だった。

 自分で言っといて何だがツムリーソはねぇわ。


「閣下!」


「今は非常事態なのだ。一兵士の処罰などよりも大事なことがある。君まで王都の頭の固い連中の同類になることはあるまい」


「し、失礼しました」


「さぁツムリーソ、レグの街はどうなんだ?」


「えっと、要塞から伸びる道の街の手前のとこで陣地を作って魔物を防いでいました」


「ふむ。街は包囲されていなかったんだな?」


「はい。先ほど自分が見た範囲においてはですが」


「ツムリーソ、王都に行く前にレグの街にも寄ってくれ。レグの街の指揮官宛にも書状を書く」


「ハッ!」


 用事がどんどん増えていく~♪


「魔物はレグを放置して王都に向かったのでしょうか?」


「陛下御自ら御出陣遊ばして魔物共を蹴散らしたのかもしれん」


「王都にいる即応できる戦力でそれが可能でしょうか?」


「このルミナス要塞で長年敵を抑えてきた為にどうしても実戦経験が不足するからな。

 ほとんど初陣みたいな兵士が多い王都の軍ではさすがに厳しいか」


「しかし今回の件は閣下が常日頃から主張なされていた南部への討伐軍の定期的な派遣には追い風になるのでは?」


「それもこの危機を乗り越えてからだ。戦力が疲弊してしまっては討伐軍の編成どころではなくなるからな」


「仰る通りですな」




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[お知らせ]

ストック切れの為来週から週2日投稿に変更します。

投稿日は火・土になります。

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