第6章 西方アルタナ王国救援編 [5等級冒険者]

第72話

 かけ札を換金した後受付に行き昇格手続きをした。


「おめでとうございます。こちらが5等級の冒険者カードでございます」


 6等級のカードと同じ大きさだ。

 カード前面の模様が違うぐらいか。


「ちょっと聞きたいことがあるのですが……」


 所持金50万9020ルク→270万9020ルク




 この後ノーグル商会に寄ってその後に菓子の材料を買わないといけないのだが……

 回転系の魔法使用の件は放置していい問題ではないよなぁ。

 事故が起きて死者が出てからでは遅いし、いくらなんでも寝覚めが悪過ぎる。

 仕方ない、ノーグル商会に行くのは明日に回そう。

 この世界は飲食店以外の店は18時前には店を閉めてしまうので買い物を先に済ませてから内城に向かった。




 内城の面会受付でロイター子爵とそのスタッフは既に帰宅したことを告げられた。

 どうしたものか……

 金髪ねーちゃんやゲルテス男爵でも対応してくれそうではあるが……

 今回の件は以前行った魔法指導のアフターケアに相当するよな。

 あれはロイター子爵の差配だったのだからバルーカ領軍の管轄ということになる。

 他の軍(国軍・帝国軍)経由で情報を伝えるのは避けた方が無難か。

 所属軍同士で軋轢がありそうな気配は今まで何も感じなかったが、俺が見た範囲なんて極一部だろうし何があるかわからんからな。

 石橋を叩いても尚渡らぬ用心さが必要だろう。


 長考していると受付の人が爆弾を放り込んで来た。


「伯爵閣下なら城に住んでますし割とすぐお会いできますよ?」


 これがお姉さんが悪戯する感じで言うのならドキドキするのだが、意地悪そうな笑みを浮かべて言ってきたのは中年のオッサンである。俺にどうしろと……


「伯爵様のお耳に入れる程の用件ではありませんので」


 と断って、明日一番でロイター子爵に伝える手段のある人を希望した。

 夜勤の責任者(受付のオッサンは夜通し番と言っていた)との面会が手配され、事情を説明した。

 責任者の人も俺とは初対面ながら城側が魔術士を探していたこと、その魔術士が魔法の指導を行ったことは知っていたらしく思ったよりもスムーズに話は進んだ。

 結構大きな権限を持っている人らしく即刻魔法指導に関する注意事項として布告することとロイター子爵への報告を約束してくれた。




「実は2人に発表がある!」


 帰宅してすぐにお菓子作りに取り掛かりながら2人に告げる。


 (今度はどんなトンデモ話が飛び出してくるのだろう)と身構えるロザリナ。

 (どうせまたスケベなこと言い出すんでしょ)と疑わしげな目をするルルカ。


「なんと! 今日5等級に昇格してきた!!」


 5等級の冒険者カードを2人に見せた。


「え?」


「あら。おめでとうございます」


「お、おめでとうございます」


 ルルカの(意外にまともなことだったわね)的な言い方はどうなのと思いつつも。


「これで晴れて俺もロザリナと同じ等級になれたということだな」


「あの、昇格試験はどうされたのですか? まさかお1人で……」


「いや、今日通常依頼の数をこなす為に6等級パーティーを募集して手伝ってもらってな、そのパーティーに頼んで一緒に試験を受けてもらった」


「そうでしたか」


「昇格試験てあんなに盛り上がるイベントなんだな。賭けまで行われてることを知った時は2人を連れて来てから試験に申し込むのだったと後悔したよ。ルルカも模擬戦なら見るのは平気だろう?」


「そうですね。模擬戦でしたら危ないこともないでしょうし」


 結構危険なこと盛りだくさんだったけどな。

 言わないけど。


「模擬戦で5人に勝つだけで200万ルクの儲けだぞ。200万」


「相変わらずツトムさんの稼ぎ方は常軌を逸していますね……、商人時代の自分が聞いたら何て思うのかしら……」


「5人抜きということは勝ち抜き戦だったのですか? 対戦相手はどこのパーティーだったのでしょう?」


「勝ち抜き戦を選んだな。集団戦でも良かったかもしれんが何せ自分のパーティーがどんな戦い方をするのかすら知らなかったからなぁ。相手は魔術士が2人いるヤコールって人がリーダーのパーティーだった」


 あの審判がいなかったら集団戦でもいけるだろうな。


「5等級トップのパーティーではありませんか……」


「そうだロザリナ、受付で聞いたのだが昇格試験を受ける為に一時的に復帰するのは可能らしいから時期が来たら4等級の試験を受けに行こう」


「すぐには昇格試験を受けないのですか?」


「今日の模擬戦で審判をしていたギルド職員が気になってな。敵のような違うようなはっきり言って不審人物だ。奴の正体を見極めるまでは手の内は見せられない」


 ロザリナに奴(審判)の特徴を告げてみるが、


「心当たりがありません。私が奴隷になって以降に赴任して来たのでしょうか……」


 ロザリナでも知らないとなると調査する必要があるか。

 ギルド職員の調査をギルドに依頼するってできるのかなぁ?

 できるようでもあり出来ないようでもある。

 壁外ギルドのほうで聞いてみるか。

 ダメならここは借りを作ってでもロイター子爵にお願いすべきだろう。


「まぁ急ぐ話ではないし立て続けに昇格試験受けても目立つしな……

 それで明日からの予定を少し変更することにする。まず、今日試験を受けた関係でノーグル商会に行けなかったので明日の午前中に行ってから王都に向かう。そして王都では2泊したいと思う。

 理由は今日稼いだから慌てて帰る必要もなかろうということと、ちょっと調べたいことがあってな。

 そしてルルカ。俺が軍の依頼を受けて不在時の10日間だが、飛行魔法も覚えたことだし王都ではなく実家に帰らないか?」


「またの機会で構いません。自分が送った手紙より先に会うのも間抜けな話ですし」


「そこに関しては問題ない。ルルカの実家宛の手紙は速達で送ったから数日後には届くはずだ。前にも言っただろ。戦いとはいつも二手三手先を考えて行うものだと」


「はぁ……そうでしたか。わかりました。実家に帰らせて頂きます」


 なんか別の意味に聞こえるが……(汗


「何かお土産用意しないとなぁ。バルーカって何か特産品あるっけ?」


「ツトムさん、そのようなお気遣いされても心苦しいので」


「つまらん遠慮はしないでいい。手ぶらで帰らせたら俺が変な目で見られるのだからな」


 ルルカの家族にはご機嫌取っとかないとヤバいだろ。色々な意味で……


「バルーカには特産品と言えるような物は何も」


 そうだよな。俺も聞いたことがない。


「コートダールに住む人が貰って喜ぶ物を知らないか?」


「あちらは商業が盛んですから大抵の物は手に入りますので」


「そうか……、難しいな」


 最悪現金包むしかないかなぁ。

 商品券はさすがにないよな。

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