第71話

『ヤコールパーティーの5人目は中央へ!』


「はじめ!」


 サクっと終わらせないとな。

 開始早々相手の男性魔術士はバックステップして距離を取る。

 俺は近距離でも問題ないのでそのままだ。

 こちらが風槌を放つより相手が魔法を使うほうが早かった。


 相手の魔法が俺の風槌に軌道を逸らされてやや上方に外れ、建物の壁に穴を穿つ。


「え?」


 サンドアローを放ってきたのだが問題なのはそこじゃない。

 回転していた……

 明らかに回転していたぞ!?

 軍に知り合いでもいて教えてもらったのか?

 まぁそこはいい。

 しかしこんな人が大勢いるとこで回転系の魔法を使うなんて正気か?

 ギャラリーがぐるりと試合会場を囲んでいるのだ。

 回避したら後ろの観客に被害が……


 それ以前にガードした際俺の体はどうなるんだ? 貫通してしまうのか?

 いくら回復魔法でも体に穴が空いてしまうとどうにもならんだろう。

 俺が放つ程の威力がないのは確かなのだが、建物に穿たれた穴を見ても楽観視はできない。

 幸いサンドアローは術者の周りに土の矢が形成されるので発動が1拍遅れると共にわかりやすい。



 風槌を放って突進した。

 相手は少し怯みながらもガードして矢を形成する。

 その矢に向けて風槌を撃って発動を阻止し、収納から木剣を取り出し剣の間合いに入ろうとした時に相手の魔法が発動した。

 ウインドハンマーか?

 体の前に出していた剣が砕けた!


 風槍(回転)か!!

 間に合えっ!!

 風槌を連打!!

 体中に手傷を負うもののなんとか威力を減殺することに成功した。

 当然喰らったと同時に回復魔法は掛けてある。


 想定外の事態だったものの距離の詰まったこの機を逃すつもりはない。

 風槌アッパーでアゴをカチ上げ、

 (殺傷能力の高い攻撃は禁止じゃなかったのかよっ!!)と怒りのデンプシーロールだ。

 もちろん練習なんてしてないから単なる右フック単発で終わったのは言うまでもない。


「それまで!! 勝者ザルクパーティー!!」


 ワー! ワー! ワー!


『勝者は魔術士ツトム! 何と5人抜きです!!』


「マジかよ」「1人で勝っちゃったぞ」「大穴だぁぁぁぁ」「俺の小遣いがぁぁぁぁ」


 試合後の喧騒の中俺は審判を睨み、


「審判、なぜ止めなかった?」


「君なら大丈夫だと思ってね。弱者が強者に勝つ為に強い攻撃をするのはよくあることさ」


「しかし俺が回避していたら客に被害が出てたぞ」


「それはこちらには関係ない。入場料取ってる訳でもないから客の安全を確保する義務もない」


「くっ」


「次の試験の時には是非とも本気を見せて欲しいね」


 そう言うと審判は威圧感をバラ撒きながら去って行った。


「くそっ……」



 ヤコールパーティーの男性魔術士に仕方なく回復魔法を掛け、


「あの魔法は誰に、いやどの軍に所属している魔術士に習った?」


「……」


「…バルーカ領軍の魔術士よ」


 女魔術士のほうが答えてくれた。

 さっきは殴ってすまなかった。


「回転系は街中や人に向けては使うな、死人が出ても知らんぞ」


 それだけ言って自分のパーティーのほうに向かった。


「だから言ったじゃないの!!」


「だって……負けそうだっただろ」


「結局負けてるじゃない。あんな少年に怒られて……」


 後ろからは女魔術士が男性魔術士を叱責する声が聞こえてきた。



『最後の試合はいかがでしたか?』


『魔術士ツトムが一転して魔法を撃ち出しました。魔術士との対戦に備えて魔力を温存していたのですね。5試合をどう戦うか彼の中で確かなプランを立てていたことが伺えます。一方ヤコール側も強力な魔法攻撃を繰り出してきました。恐らくあれが最近覚えたという新しい魔法なのでしょう』


『そしてその新魔法を的確に防いでの勝利は見事としか言いようがありません』


『それではこの昇格試験全体を通しての見解をお願いします』


『わかりました。ヤコールパーティーは敗れはしましたが5等級トップクラスの実力を遺憾なく発揮してくれたと思います。4等級昇格試験に挑戦する日も近いのではないでしょうか』


『挑戦者であるザルクパーティーの近接攻撃系の3人は光るモノも見せましたので各々がより修練を重ねれば5等級冒険者に相応しい実力を身につけられるでしょう』


『そして5人抜きを達成した魔術士ツトムについてですが、魔術士が近接戦能力を身につけるとこれほど厄介な存在になるということをまざまざと見せつけましたね。今後は近接戦闘の指導に参加する魔術士が増えるのではないでしょうか?』


『これからはツトムのような戦い方をする魔術士が増えてくると?』


『彼の戦い方は高い身体能力と高い魔法技術あってのもので誰もが真似できる訳ではありません。しかし例えば魔術士が盾術を身につけるだけでもパーティーの負担を減らすことができます』


『パーティーの後方から魔法撃つだけというイメージから魔術士自身もそれを見る周囲の目も変わっていくことになるでしょう』


『ラックさん、本日は解説ありがとうございました』


『こちらこそありがとうございました』




「ツトム!!」「やったな!」「凄いぞ!!」


「なんとか勝てました」


「自分で4番手を買って出た時にもしやと思ったけど、本当に私まで回さずに勝つなんてねぇ」


 パーティーのところに戻ると皆で迎えてくれた。


「さぁ5等級昇格の手続きに行きましょう」


「それなんだがな、ツトム。俺達は5等級昇格は見送ることにしたよ」


「え?」


「ちゃんと修練して実力を上げてから5等級に昇格しようと皆で話し合ったんだ。幸い昇格手続きを見送ってもその権利はいつまでも保持したままだからな」


「それにお荷物状態でツトムに昇格させてもらうっていうのもバツが悪いしな」


「そう……ですか。皆さんで決めた事なら……」


 ザルクさんに5万ルク渡す。


「これで皆さんで何か食べてください」


「いいのか?」


「賭けでガッポリ儲けてますので遠慮なく」


 この人達のおかげで高配当になったようなものだからな。


「そうよ!! 今日の報酬に手持ちプラスして計3万も賭けてるから大儲けなのよっ!!」


「皆さん今日は本当にありがとうございました」


「いや、こちらこそ稼がせてもらった上に昇格試験もパスしてくれて礼を言うよ」


「稼がせてくれてありがとね~」


「ほらっ! 換金しに行くわよ!!」


「しょうがねぇなぁ」


「ほらっ、キリキリ動かないと飲み代奢ってあげないわよ!!」


「ふふん。俺らはさっきツトムから軍資金もらってるからなぁ」


「当然私にもでしょ?」


「別に自腹で払ってくれてもいいんだぞ?」


「キィー! 私の分も出しなさいっ!!」


 ワイワイ言い合いながら去って行くザルクパーティーを少し羨ましく感じた。

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