第70話

『ということはツトムはラックさんの情報通り魔術士でよろしいのでしょうか?』


『ええ。魔術士なのにどうして近接戦闘を行うのかはわかりませんが……』


 近接戦の修練をしていなかったら最初のジェネラルやキングとは戦えなかっただろう。

 王都から戻る時に戦ったホブゴブリンにだってやられていたかもしれない。

 なぜ近接戦闘を行うようになったんだっけ?

 今は強者と戦うのに必要なのとソロで活動するには必須だからだが……

 最初はMPが枯渇するからだったっけ……

 ああ、初めてのゴブリンとの戦闘でギリギリの命のやり取りをして魔法スキルの上にあぐらをかいていたら負ける=殺されるということを実感したからだった。


 あ。

 剣術スキルが1つ上がっているな。

 レベルが上がるまで随分と時間が掛かったが、ヤコールとの激しい戦いが良かったのだろうか?

 つまり剣術スキルを上げる為には痛い思いをたくさんしないといけないという訳だ。

 はぁ……憂鬱だ。


『ヤコールパーティーも4人目から魔術士が出てきますし、魔術士vs魔術士の戦いに移る訳ですが、今後の展開をどう予想しますか?』


『まず見てわかる通りツトムは近接戦闘も可能です。初級クラスの剣術でも近接戦の心得の無い魔術士には脅威ですので、魔術士vs魔術士であると同時に魔術士vs近接系の戦いでもある訳です』


『当初魔力には限りがあるので魔術士2人相手に勝つのは難しいと分析しましたが、近接戦で挑めるのであればこの前提が覆り挑戦者サイドにも勝機が出てきます』


『もちろんヤコールパーティー側の魔術士も近接戦闘系と戦うのには慣れておりますので、そう易々とツトムの接近を許すとも思えません。距離を詰めて近接戦闘に持ち込みたい挑戦者サイドと距離を置いて魔法戦を仕掛けたいヤコールパーティー側との距離感の攻防になるでしょう』


『ヤコールパーティー、4人目中央へ!』


 1人目の魔術士は女性か……

 20代後半のショートヘア。

 お山は普通ぐらいだろうか。


「はじめ!」


 そう言えば魔術士相手に戦うのは初めてか。

 どんなものか魔法攻撃を受けてみるかな。

 万が一に備えて魔盾を巻くようにして首筋をガードする。


 相手はバックステップで距離を取り、杖を掲げて何やら言葉を発し……

 ドン!


「ぐはっ」


 圧縮した何かが迫って来たのはわかったけどモロに顔に喰らってしまった。

 2発目が来そうなところを剣を横にして防御する。

 頭がクラクラするなぁ。1発目はまともに顔で受けてしまったからなぁ。

 一応回復魔法を使っておく。


 ドン!

 2発目を防御したが、木刀だと何発か防御したら折れてしまいそうだ。

 木刀を収納にしまって身構える。


 それにしても……、妙に魔法発動が遅くないか?

 これはウインドハンマーだよな?

 罠だろうか?


 こいつ(審判)さえいなければ魔盾で防御して簡単に接近できるのになぁ。


 3発目を腕で防御。

 くっ。思っていた以上に手に衝撃が来る……

 構わず一気に間合いを詰める!

 相手は更にバックステップして魔法を撃って来た。


 かわせ!


 サイドステップしてなんとか躱し、再び距離を詰めようと……


 ドン! ドン! ドン!


 ここで3連発かよ。

 やはり発動の遅さは罠だったか。

 ヤバッ! 腕のガードが……


 ドン! ドン!


「ぶへっ」


 ガードが空いたところを吹き飛ばされた。

 もちろん回復魔法を使ってすぐに起き上がる。

 相手は俺が倒れたのを見て一瞬動きかけたが、距離があるので思い止まったようだ。


 魔法が放たれるタイミングはなんとなくわかるんだ。

 あとはフェイントやサイドステップを多用して懐に飛び込むしかない。

 ウインドハンマーを数発受けるとガードが空いてしまう問題は……


 これだ!


 腕を交差して構えるクロスアームブロックだ!

 頭の中に重厚なギターサウンドが流れる。

 ジリッ、ジリッと間合いを詰め……


 ドン! ドン!


 1発目は回避し2発目はブロックで受け止め、

 細かくステップしながらウインドハンマーを回避していく。


 ここだ!


 相手がバックステップしようとしたところにスライディングを仕掛ける。

 ウインドハンマーをスライディングの低い体勢で躱しつつ距離を詰める。

 足を削ることはせずに相手の目の前で立ち、リバーブローを叩き込んだ!


「げふっ!」


 さらにガゼルパンチの代わりとして風槌アッパーを放つが、その前に相手は倒れてしまい不発に終わった。


「それまで! 勝負あり!!」


 フィニッシュまでは持っていけなかったか。

 回復魔法を使い立ち上がらせる。

 夢中だったから気にしてなかったが、女性のお腹に思いっきり拳を叩き込んじゃったな。

 まぁこの四角いジャングルに自ら上がって来たんだ。

 女だから手加減してくれとはよもや言うまい。



『4人抜き!! 魔術士ツトム怒涛の4人抜きだぁぁ!! ラックさんの予想通り距離の攻防が終始展開された形ですが?』


『ツトムの身体能力の高さが生きましたね。最初は苦心していましたが、ガードを強固に固め一気に距離を詰めました。あれだけ高速で動かれたら魔法を連続で当て続けるのは難しいでしょう。もっともまさか拳を叩き込むとは思いませんでしたが……』


 風槌アッパーはリバーブローと同時ぐらいで丁度いいな。


 ……あ!!

 そうだよ! 風槌アッパーはもう使ってるんだからノーマルな風槌も使えるじゃん!!

 何もこんなに苦労して距離詰めなくても風槌連打で勝ててただろ……

 一歩をリスペクトし過ぎたな。

 まぁそれもこれも全てコイツ(審判)が悪いのだが。


 はぁぁぁぁ。

 なんか一気に気が抜けたな。

 3戦目4戦目が割と手こずった為の疲労感もあるが……

 回復魔法ではダメージは癒せても体力や疲労・血液は回復しない。

 次の試合はすんなりと勝とう。


『さぁ、次の試合が実質的な最終戦ということになりますがどちらが優勢と考えますか?』


『難しいですね。4連勝と勢いに乗る挑戦者が優勢なようでもあり、4試合見て対策の立てられるヤコール側に分があるようにも思えます。挑戦者側で言えば直近2試合が激戦だっただけに消耗具合も懸念材料です。動きが落ちれば魔法で捉え易くなりますから』


『解説のラックさんも予測不能な大一番!! このまま魔術士ツトムが1人で5等級パーティー相手に勝ち切るのか! それともヤコールパーティーが5等級トップクラスの意地を見せるのか!』

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