第62話

 着地の練習はすぐ終わった。

 ケガした時の療養期間にみっちりと滞空魔法の練習をしたのが生きた形だ。


「次はいよいよ飛行魔法の練習ですね」


「お願いします」


「飛行魔法は自分の周囲の風を常に後方に送り続けるのがコツとなります」


 以前軍の魔術士には風を操るのがコツと言われたが、ネル先生のほうがより具体的だ。


 それからネル先生のアドバイスを受けながら2時間以上練習した頃、


「あっ」


 カチッと歯車が噛み合ったような感覚を覚え、飛ぶことに成功した!!

 魔法を覚えた時の感覚は随分久しぶりな感じだ。

 飛行魔法を切って滞空魔法でゆっくり降りていく。


「おめでとうございます。習得できましたね」


「ありがとうございます!! ネルさんの指導のおかげです」


「いえ、ツトムさんの覚えが早かったです。こちらにサインお願いします」


「よろしければこれどうぞ」


 サインしたついでにプリン(甘い)を渡す。


「甘くて美味しいです♪」


 お。年相応の笑顔になったな。


「これはどこで買ったのでしょうか?」


「自分で作りました。でもすぐにノーグル商会系列の食品店で販売されると思います」


「もっと食べたいです……」


「ところで、ネルさんは死霊魔法はご存知ですか?」




 ネルさんは死霊魔法は名前だけしか知らなかった。

 クレクレ目線が凄かったが10代の女の子に卑猥な要求をする訳にもいかず、普通に遠慮してもらって別れた。

 まぁ彼女の雰囲気もそういう感じでは全然なかったし。


 それはともかく!

 ようやく覚えた飛行魔法で南にレッツゴーだ!!

 許可なく飛んで城に入ると凄く怒られるらしい(ネルさん談)ので、城を迂回して南へ飛んで行く。

 風を切りながらの飛翔は爽快感抜群だ。

 ちゃらへっちゃらを口ずさみながら気分良く飛んでいると敵感知に10以上の反応が……

 森の中に降りていく。


 まともな狩りをするのは久しぶりな気もする。

 南東の森で遭遇した技オークの集団は魔物の軍勢の1部らしいので狩りとは言えないだろうし。

 そうなるとケガする前にヘビ狩って以来か。

 地図(強化型)スキルに表示されている赤点の集団に近付き木の陰から様子を伺うと……


 ゴブリンだった。


 なんでだよ!! せっかく飛行魔法を覚えて南に来たのに、と愚痴っても仕方ないので槍と風刃で倒して死体を収納する。

 今戦ってみた感じどうも槍さばきが鈍ってる気がする。

 剣はどうだろうかと軽く素振りをしてみたが、槍と同様に鈍い感じだ。

 ギルドで指導を受けたのが5日前でそれ以前はケガの療養期間を挟むのでかなり前になる。

 明らかに鍛錬不足だ。

 飛行魔法の習得も終わったことだし剣と槍の練習時間を増やすべきか。



 そこからさらに南へ飛んで行くと森が途切れて円形の壁に囲まれた砦が見えてきた。

 飛行魔法を覚えたばかりなのであまり速度を出さずに飛んでいたが、思っていたよりも早く砦に辿り着いた。

 高速で飛べばバルーカまで10分掛からないのではないだろうか?


 砦という割にはそこそこ大きく、壁に囲まれた内部にはしっかりとした建物がいくつも建てられている。

 中は赤点でひしめいていて、ちょっと多すぎて数を数える気もおきない。

 土槍(回転)を強化した土甲弾で砦毎粉砕したらさぞや気持ちいいのだろうなぁと思う。

 いくら俺でも奪還目標である砦を破壊することがいけないことぐらいはわかっているからやらないけど。


 おびき寄せるとしたらここは定番のゴブリン焼きかなぁ。

 砦の中にいるのは魔物の軍隊だろうし、食べ物の匂いには釣られない可能性が高い。

 やってみるだけ試してみるか。別にこちらが何か損する訳でもないし。

 西から東への風が吹いているので、徒歩で砦の西に向かう。

 当然ながら砦からは距離を取って移動しているので、肉眼ではいまひとつ砦の様子は伺えない。

 壁の上に見張りがいる感じはなさそうだが。


 砦から300メートルほどの地点でゴブリンの死体を10体ほど出して焼き始める。

 地図(強化型)スキルで砦以外からの魔物の襲撃を警戒しながらだ。

 魔物が釣れないようなら砦に近付いて挑発するしかないかなぁ。

 その場合は以前に城内で奇襲を受けた時のようなアーチャーによる弓矢の攻撃には注意しないと。

 でも挑発すると言ってもどうしたらいいものやら。

 近付いただけで砦から出てきてくれるのなら楽なのだけど。

 砦を壊してはいけないという条件が厳しいのだ。

 魔法を打ち上げて、こう曲射する感じで壁越しに内部の魔物を倒すことは可能だろうけど、そうしてしまうと死体の回収ができない。

 さすがに飛行魔法で砦内に降りて戦うのは無謀だろうし……

 今度ロイター子爵に面会して相談してみるか。

 多少砦を壊していいのなら挑発するのも楽になるだろう。


 ギィギィギィギィィ……


 そんなことを考えていたら砦の門が開き始めた。

 出てきてくれるのか?

 これはラッキーだ!!


「「グオオォォォォォォォォォォ!!」」


「げっ」


 思っていた以上にたくさん出てきた!!

 まさかゴブリン食べたさに全力出撃してくるなんて完全に想定外だよ!!


 ヒュン! ヒュン!


 砦から矢も飛んで来た!

 さすがに距離があるので精度は低いが、魔盾を前方の上に複数出してガードする。

 前を塞いでしまうと魔法攻撃できないからだ。


 つかこの状況は果たして狩りと呼べるのだろうか?

 砦攻めになってしまってるような……


 ドドドドドシドシドシドドドドド!!!!


 魔物の集団が迫って来る。

 見える範囲ではオーク・オークリーダー・ゴブリン・コボルト・オーガといったところか。

 十分引き付けてから土槍(回転)斉射開始だ!!


 5本の土槍(回転)を扇状に射出していく。

 以前と同じ感覚で撃っているが魔法を強化した影響で威力・貫通力共に向上しているので殲滅スピードも段違いだ。

 射線から外れている魔物には土槍(回転)を撃っている間に風刃で対処する。


 オーガが岩石担いで猿みたいなのを引き連れて出てきたが、速攻で倒す。

 岩石投げは危険だからね。

 猿がマジックシールドを張って防御しようとしていたが、もはやそんな薄い盾は何の役にも立たない。

 盾と猿ごとオーガを撃ち抜いた。


 見る見る間に魔物は数を減らしていき、地図(強化型)からも赤点が消えていく。

 その間レベルも2度上がった。


 魔物の数が激減したので風刃で1体ずつ丁寧に倒す方法に移行した。

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