第61話
「昨日作ったプリンがまだ余ってるのだけ……」
「頂きます」「ありがとうございます」
喰い気味に答えやがって……
アイスクリームもまだ残っているのだが一気に食べられてもなんか悔しいので言わないでおこう。
2人には甘さ控えめのプリンを出す。
美味しそうに食べているが、甘いほうではないのか的な顔もしてるな。
「えっと……、甘いほうのプリンは明日出掛ける時に冷蔵庫に入れておくから」
見るからに機嫌が良くなる2人。
甘味で簡単に機嫌を取れそうなのは楽で良いことのはずなのだが、ここまで単純なのはどうなのだろうか?
いや、これは一般の女性なら甘いモノで釣れば簡単に落とせるということなんじゃ……
ひょっとしてナンパし放題なのか?
7等級昇格の時の壁外ギルドのグラマー受付嬢なんか誘ってもいいかもしれん。
プリンやアイスクリームが商品化される前の今限定のチャンスだ。
「ツトムさん。今何か良からぬことを考えていませんでしたか?」
「!? い、いや、2人とも美味しそうに食べてるなぁと思っていただけだぞ」
「それなら良いのですが……」
ルルカの勘怖ええええ。
なんで良からぬことを考えていることをピンポイントで察知してくるんだよ!
「コホン。それでだな、ノーグル商会を紹介して頂いた姫様に御礼の品を献上しないといけないらしい。すぐという訳ではないが、何か献上品に相応しいモノに心当たりはないか?」
「私は王族の方が関わる取引をしたことがありませんので……すいません」
「そうか。ロザリナはどうだ?」
元貴族のロザリナなら心当たりはありそうだが。
「王族の方にというのはさすがに。ただ一般的に献上品であるなら貴金属が無難かと思います」
「ノーグル商会の支店長には装飾品や絵画を勧められたな」
「絵画はお止めになったほうがよろしいでしょう。善し悪しがわからない素人では紛い物を掴まされることも多く、献上品とするのは危険です」
「となれば貴金属の装飾品ということになるか」
「ノーグル商会に王都の貴金属を取り扱っている店の紹介を頼まれてはいかがでしょうか? その支店長の顔が広ければ直接、そうでなくても商会内の紹介できる人間に繋いでくれるはずです」
「ノーグル商会が俺に紹介してくれるだろうか?」
「商会にとってツトム様は姫様から直接便宜を図るように頼まれた方ということになります。丁重な扱いを受けて然るべきです」
「そうね、ツトムさんを粗略に扱うということは王家の顔に泥を塗る行為で商会全体を揺るがす大事件になってしまうわ」
どうも王族や貴族が絡む取引の感覚が未だ理解できてないな。
いくら取引相手でもよほど親しくならない限り個人的な事柄で他社を紹介なんて日本というか地球じゃありえないだろ。
これが王族や貴族だと顔パスどころか名前パスになってしまう。
逆に言うと身分制度下の王族や貴族はそれだけ無茶ができるという訳で。
日本の歴史のような良質な治世が行われていた感覚のままでいると足をすくわれることになるだろう。
ルルカがいつも言うようにエライ人の前では自重することを徹底しないと……
あまり守られてない気がしないではないが。
翌朝雇った冒険者に飛行魔法を教えてもらうので早めに家を出る。
ちゃんと冷蔵庫には甘いプリンを入れておく。
というか入れるとこを2人して確認していたしな。
『あまり食べ過ぎると太るぞ』と言ってやろうとしたのだが、またもや自分の中の何かが警報を鳴らすので止めておいた。
ロザリナは別に大丈夫なのよ。スポーツ体型だし、定期的にギルドに剣の指導も受けに行っている。ルルカと2人で家にいる時は素振りとかしているらしいし。
問題なのはルルカなのだ。
ダイナマイトボディな癖に運動してないみたいだから甘いモノをたくさん摂取したら一気にブクブクと……
「ツトムさん?」
「な、なんでもないぞ。さて、今日も頑張ろうかなぁ」
「(じぃーーーーーー)」
ルルカがジトっと見つめてくる中逃げるように家を出た。
待てよ。
彼女の健康を心配したんだという大義名分があるのだから逃げる必要はなかったのだ。
ビシっと言ってやれば……う~ん……
ま、まぁもうちょっとだけ様子を見よう。
余った菓子の残りもそんなにないしね。
待ち合わせ場所の壁外区の北口で辺りを見回す。
土壁のところにローブにとんがり帽子といういかにもな恰好をした魔術士の女の子がいた。
俺に気付いたのかテクテクとその子が近付いて来た。
「飛行魔法の指導を依頼したツトムさんですか?」
「はい。7等級冒険者のツトムです」
「5等級冒険者のネルです。よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします」
5等級ということはロザリナと同じ等級なのか。
年齢は17か18ぐらいなんじゃないかな。
学級委員長的な感じの真面目そうな子だ。
スラっとした感じで、な、なんと、身長が俺よりもちょっとだけ低い!
子供と御老人以外では初めてだよ。みんな背が高過ぎなんだって。
「早速始めましょう。まずはツトムさんの得意な魔法を撃ってください」
「あ、あの、飛行魔法を教えてもらいたいのですが……。ちなみに滞空魔法はできます」
「飛行魔法を教える為にもツトムさんの実力を知らないといけません。さぁ、全力でどうぞ」
そう言うとネル先生は土魔法で的を作った。
先を少し太くした棒が3本等間隔で立てられている。
家ぐらいの大きさの的を嬉々として破壊している自分の異常さが良くわかる光景だわ。
どうしたものか……
高威力の魔法を見せられたからと言って臍を曲げて教えてもらえないなんてことはないだろうが、余計な波風を立てることもないか。
「いきますよ」
風刃で棒を次々と斬っていった。
もちろん威力を抑えてるので魔法を強化する前のバージョンに近い感じだ。
「ウインドカッターが得意なのですか?」
「よく使っています。自分は風刃と呼んでおりますが」
「わかりました。では飛行魔法の練習に移りましょう」
くっ。俺のネーミングは軽くスルーされたよ。
「ですが、飛行魔法を覚える前に必ず着地の練習をしなければいけません」
まだ前段階があるのか……
「着地の練習をしなかった時代には墜落事故が多発して命を落とす人も少なくなかったと伝えられています」
しかしこの子は本当に先生みたいな教え方をするんだな。
教え慣れてる感じだ。まだ若いのに。
「難しいことはありません。着地する際は徐々に速度を落としながら地面近くまで降下してその後に本格的に速度を落として着地を試みることと、飛行魔法が切れて落下する際に即滞空魔法で浮く練習をするのです」
「それでは着地の練習を始めましょう」
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