第60話

 丁度城内にいるので、バルーカギルド(壁内のギルド)に行ってみることにした。

 大通りを中央で左折してしばらく進むと見えてくる石造りの立派な3階建ての建物がバルーカギルドだ。

 さすが壁外区のギルドとは建物からして違う。

 まぁあちらは所詮出張所だからな。


 中に入り空いてる受付に行く。

 中年の男性職員だった。

 他の並んでいる受付は案の定女性職員である。

 並んだところで女性職員と何か起こる訳ではないので仕方ないと自分を納得させる。

 ギルドカードを提示して、


「こちらのバルーカギルドでも登録したいのですが」


「かしこまりました。こちらにご記入ください」


 ギルドに登録した際に書いた用紙だ。

 名前・年齢・職業の順で書いていく。

 ギルド毎にこうして登録するのは面倒だがオンラインで繋がって情報を共有化している訳ではないのでしょうがない。

 

「これで登録は完了です。他に何かご用件はありますか?」


「依頼をしたい。飛行魔法の指導を頼みたい」


「期間はどの程度見込まれていますか?」


「明日の午前中、つまり半日だけお願いしたい」


「冒険者への依頼料はいかがいたしましょうか? 魔法の半日指導の相場は3000ルク前後かと思われます。1000ルク~5000ルクの依頼料に対しては手数料が2割上乗せされますのでご注意ください」


 ちょっと高めに出しておくか。


「4000ルクで」


「では手数料と併せて4800ルクのお支払いとなります」


 待ち合わせを明日の朝に壁外区の北口にして依頼を完了する。

 受注する人がいなかったら期日の延期も手続しないといけない。


 せっかく来たのだし通常依頼を見ていくか。

 6等級に昇格する為には50件の通常依頼を消化しないといけないが、等級を上げる必要性をあまり感じないので放置している。

 自分の中で通常依頼に対するイメージも悪い。

 最初に依頼を受けた王都への護衛が最悪だった。

 確か4日間歩き詰めで8000ルクだったか。

 あの時よりも体力はあるだろうし、7等級になったから依頼料も上がっているだろうけどそれでも嫌なものは嫌だ。

 依頼料が安い→通常依頼を受ける気持ちにならない→昇格しない→依頼料が安い、正に負のスパイラルである。


 7等級の依頼が貼られている掲示板を見ていく。

 探すのは清掃か荷運びの依頼だ。

 浄化魔法か収納魔法で1発で終わる依頼が望ましい。

 清掃に関して注意しないといけないのは片付けをしないといけないケースだ。

 塵やほこり程度なら浄化魔法で綺麗になるのだが、小石程の大きさからは除去されずにそれごと綺麗にして終わりなのだ。


 お。料理店の厨房の清掃というのがあった。

 依頼料は2000ルクだ。まぁこの際依頼料はどうでもいい。

 受付に依頼票を持っていき、店の場所を聞く。

 次回からはあちらを見てくださいと壁を指差される。

 そこにはバルーカ城内の地図が貼ってあった。




「すいませーん。清掃の依頼を受けてギルドからやって来た者なのですが」


「1人なのか? 夜の仕込みがあるからサクっと終わらせてくれないと困るのだが……」


「確認お願いしまーす」


「確認って何の……うぉ!! いつの間にこんな綺麗に……」


「浄化魔法で瞬時に綺麗にできますので。問題ないようでしたらサインお願いします」


「坊主は魔術士なのか。ほら、ご苦労さんと言っていいのかわからんが」


「ありがとうございましたぁ」


 通常はパーティー単位で依頼を受けて短時間で終わらせて1日に複数こなす感じなのか。

 普通の冒険者でも7等級から6等級に昇格するのに1ヵ月かからない感じだな。




 ギルドに戻り掲示板を見ていく。

 6等級の掲示板にも清掃依頼がそこそこあるな。しかも7等級の依頼より報酬が高い。

 5等級の掲示板はどうだろうと見てみたが清掃依頼はなかった。

 7等級の自分では6等級の依頼は受けられないので7等級の掲示板を探していく。

 同じ区画で2件の清掃依頼を見つけた。

 1つは店のトイレの清掃で、もう1つは馬車3台の清掃だ。

 受付に2件の依頼票を持っていき、ついでに先ほどの依頼の完了手続きをして2000ルク受け取った。




 2件の清掃依頼をこなした後、更に3件の清掃依頼を消化した。

 この4時間弱で6件の依頼を完了して計14000ルクの報酬を得たが、当初思い描いていたよりもペースは遅い。

 移動や依頼主探し、掲示板での依頼探しに思った以上の時間が取られるのだ。

 6等級昇格まであと44件もあるだけに何か効率の良い方法はないものだろうか。


 夕方になりギルド内がかなり混んで来た。

 最後に自分が出した依頼がまだあるか見に行くと、誰かが既に受注したのか掲示板からはなくなっていた。




 帰宅して今日の諸々を2人に報告する。


「ノーグル商会は知っているか?」


「王都でも有名な商会ですよ(byロザリナ)」


「ロクダーリアで商人をしていた時に取引していました(byルルカ)」


「ここバルーカでも店をたくさん出してるようだしかなり大きな商会なんだな」


「国内で3本の指に入る老舗ですよ」


「良い契約を結ばれましたね。あの美味しさなら人気商品になるに違いありません」


「高価な砂糖を使用してるし氷結魔法の使い手も確保しないといけないから値段が高くなってあまり売れないんじゃないか?」


「市販の砂糖を買われたツトムさんと違ってノーグル商会は原価での調達が可能ですし、大量発注もするでしょうから価格もかなり抑えられるはずです。それに元々食品を扱っていますから保冷用に確保している氷の魔術士で対応可能かと」


「貴族や富裕層向けの限定販売になるかと思っていたけど値段が抑えられるなら一般向けにも売れるかな?」


「むしろ一般層に向けての販売を行うのではないでしょうか? 高額な菓子を口にする機会の多い貴族や富裕層よりも一般層のほうが甘味に飢えておりますので」


「なるほどな。ルルカの予測ではどのぐらい売れそうなんだ?」


「価格を抑えられると言っても高額商品には違いありませんし、一般人では保存ができないので短時間の内に食べないといけないという欠点がありますが、それを差し引いても売り切れが続いて増産に踏み切る事態になるのは間違いありません」


「そこまでか……」


 そんなに砂糖菓子が売れ専なら他にも何か作ってみるかなぁ。

 揚げパンなんてどうだろうか?

 パンを揚げて砂糖まぶすだけだし……って、いくら甘味に飢えていてもここまで単純だとさすがに商売として成立しないか。

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