第56話
城で受付をすると連絡が来ていたらしくすぐに案内された。
この前と同じロイター子爵の部屋だ。
「こ、こんにちわ~」
「やあ! 待っていたよ、こっちに座ってくれ」
この前来た時とは違い、ソファに座らされた。
対面にロイター子爵が座る。
「何か飲むかね?」
「い、いえお気遣いなく」
「なら適当に持ってこさせよう。おい」
付き人らしき人が一礼して出て行った。
「今日来てもらったのはいくつか用件があってね」
そんなに用事があるのか。
「まずは確認だ。一昨日の君の活躍は表向きは帝国軍の手柄とさせてもらったよ。これは政治・外交・軍事あらゆる面で必要なことでね」
「はい」
「ビグラム子爵には断ったそうだが、武勲を得て栄達したいのであればそのように計らうこともできるがどうする?」
「全面的に帝国軍や領軍の手柄として頂いて結構です」
「わかった。城から報酬も出ないがいいんだね?」
「はい。現場でオークを大量に確保しましたので報酬としては十分なんです」
「そうか。ならば次に一昨日のことを話してもらおう。ビグラム子爵から詳しい報告は為されているのだが念の為にね」
「わかりました。えっとあの日は寝てたら起こされまして……(説明中)……という訳で大ピンチだったとこをゲルテス男爵に助けられました」
「こちらどうぞ」
「ありがとうございます」
なんか飲み物持って来たお付きの人も一緒に聞いてたな。
話を盛った訳ではないがちょっとだけドラマチックに仕立ててみた。
「ツトム君は何か気になることはあるかね?」
「自分のような素人の意見など……」
「そんなの気にしなくていいから言ってごらん」
よし! これで大抵のことは聞き易くなっただろう。
「オークキングが現れた時にどこから、又はどうやって投げられたのか気になります」
「オーガの上位種が投げたとする見方が有力だね、今のところ」
そのオーガの上位種がいくら驚異的であっても視認できないほどの遠方から投げて届くだろうか?
それにあの角度的には……
「どうやら別の見方をしてるようだね?」
「はい。もしかしたら上空から降下してきたのではないかと」
「空から??」
「大型の飛行種がキングを運んで高空から戦場に落とした、というのが自分の推論です」
これなら感知範囲内に飛行種がいないのも、感知してからキングが出現するまでほんのわずかだが時間を要したのも説明できる。
異世界版の空挺兵といったところか。
「し、しかしいくらオークキングといえどそんな高さから落下すればただでは済まないだろう?」
「キングが落着した地点にはすり鉢状の大穴が出来ていました。何らかの減速手段を用いた結果があの大穴かと」
「う~ん。にわかには信じ難いが、1つの意見として検討させよう。他にはあるかい?」
「一昨日の件からは少し離れるのですが、先程まで西の森に行っていたのです。滞空魔法で上空から見てみると西にかなり広い無防備な土地があるのですが、魔物がそこから大挙して侵入することはないのでしょうか?」
「その件か……。一応懸念事項として挙げられてはいる」
「やはりそうですか」
「今までなら人の多いバルーカを避けるなんて考えられないが、もうそのような過去の事例は通用しないからね」
「魔族側の指揮官が確認されましたか?」
「直接的な確認はできていないが、連中が明確な作戦目的を持って行動してるのは明白だ。もし君が敵の指揮官だとして、西から侵入してどこを狙う?」
「魔族の軍の仕組みがわからないので何とも言えませんが、自分でしたら穀倉地帯を焼いた後に山間部の村落を襲って遊撃戦を展開します」
「嫌なことするね」
「もっとも敵がこちらの事情や地理を把握してるとも思えませんので、南からの攻撃に呼応する形で北からもバルーカを攻める感じではないでしょうか?」
「こちらとしても既に西の方まで警戒網を広げて対応してるけど、飛行魔法の使い手が足りなくてね」
「飛行魔法便利そうですもんね」
飛行魔法習得していたら間違いなく徴用されていただろうな。
「さて、次の用件だが」
「南の砦奪還作戦で君に軍の指揮下で戦ってもらいたい。どうかな?」
「臨時にってことですよね? 構いませんよ」
「そうか。とりあえずは私の指揮下で現場では臨機応変にかな」
大規模な作戦ならギルドで招集されるのではなかろうか?
「冒険者は参加しないのですか?」
「それはあちらとの折衝次第かな。こちらとしては後衛と等級の高い前衛の選抜隊を要請したいのだけどどうなることか……」
「ああ、君に関しては次のギルドとの連絡会議で前もって借り受ける旨承知させるから」
「よろしくお願いしま…す? あれ?」
「何かな?」
「自分を軍の指揮下に置くのは、低い評価をされてるギルドにいたままではサボるからコキ使う為なのでは?」
「君が存分に活躍できる場を用意しようということだよ」
モノは言い様ですね!!
それと人と話す時はちゃんと目を見て話しましょう。
ん? 待てよ。
これはある意味チャンスなんじゃないか?
「あの。軍ではオークの生息域とかわかります? 最近オークがいなくて困ってるんですよ。もちろん狩りでということなんですが」
「バルーカ周辺にはいないよね。南にはたくさんいるけど」
「たくさん!?」
「い、いや軍勢としてだよ?」
「飛行魔術士貸してくれませんか? 大漁間違いなしですよ!!」
「落ち着きなさい。私は領軍のトップではあるけど今は王国軍や帝国軍とも共同で動いてるから協議もなしに勝手はできないよ」
「す、すいません。先ほどの発言は忘れてください」
自重しないとまたルルカに怒られてしまう。
「わかった。聞かなかったことにしよう」
「ありがとうございます。それで作戦はいつ頃に実施されるのでしょう?」
「今30日後を目安に調整中だが、10日ほど伸びる可能性もある。王都に援軍を打診してるのでその結果次第かな」
「作戦が開始された場合の期間はどのぐらいになるのでしょうか?」
「10日間前後を想定しているね。砦の奪還そのものよりもその後の維持に重点が置かれている」
10日間も2人とイチャイチャできないのは辛いな。仕方ないけど。
「以上で私の用件は終わりかな」
「最後に君にはこの国の姫であらせられるイリス・ルガーナ様と面会してもらうよ」
えー!?
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