第57話

「あのー。自分のような下賤な者が面会していい方ではないと思うのですが?」


「姫様の方から君に会いたいと仰っていてね」


 厄介事の匂いがプンプンする。

 なんとか回避できないものか……


「自分のような野蛮人はどんな失礼を働くかわかったものではなく……」


「丁寧な言い方するよう心掛ければ平気だよ」


「し、しかし己の未熟な魔力が暴走すればどのような惨事を引き起こすことになるか……」


「そんなにお会いしたくないのかね?」


「そこの窓から逃走を図りたいぐらいには」


「挨拶して少し世間話する程度だよ」


「信じますよ? 信じますからね? 何か厄介事を振られたらロイター様に全力で渡しますからね!!」


「そんなことをされても私にはどうにもできないよ?」


 これだから王族だ貴族だといった連中は信用できない。

 国民や領民のことなんてゴミクズ程度にしか思ってないんだ。


「ここだ」


 内城の上の階の何やら豪華な部屋の前に立つ。


「私がドアを開けたら中に入り中央で片膝を付きなさい」


「わ、わかりました」


 子爵がドアを開け中に入る。

 部屋の向こうの1/4ほどが1段高くなっており、その上の豪華な椅子に凄い美人が座っている。

 着ているドレスは派手なようなセクシーなような、丘はかなり大きそうだ。

 顔を伏せて中央に進み片膝を付く。


「そなたがツトムか?」


「はは! 此度は姫様の麗しき御尊顔を拝し奉り、恐悦至極に存じ奉ります」


 確か時代劇だとこんな言い方だったはず。


「クス。なんですか? その時代がかった言い方は?」


「ツトム君、さすがにそれは……」


「も、申し訳ございません。自分には高貴な方とお会いした経験がまるでなく……」


「イリス様。不慣れな市井の者の申すことです」


 姫の隣やや後方に座っている金髪ねーちゃんが援護してくれた。

 つかビグラム子爵もいたのかよ。


「そうですか。あまり緊張せずとも良いですよ」


「ありがたきお言葉です」


 緊張しまくりだよ!

 つか改めて見ると凄い美人だな。

 銀髪の高貴オーラ出まくりで、歳は30過ぎぐらいだろうか。

 以前30代ならルルカとティリアさんで2トップ確定とか思っていたけど、さすがに姫様のほうは代表確定レベルだ。


「そなたは大層強いとリーゼ(ビグラム子爵)から聞きました。先日の戦闘でも獅子奮迅の働きであったとか」


「滅相もございません。オークキングを討ち取ったゲルテス男爵などに比べれば自分などただの子供でしかありません」


「そんなに謙遜するものではありませんよ。聞けば軍に魔術の指導も行ったというではありませんか」


「指導などと大げさなものでは……」


 やたら持ち上げて来るぞ。

 嫌な予感しかしねぇ。


「ツトムほどの豪の者なら護衛として十分ではありませんか?」


「姫様それは……」


 護衛?

 何のことだ?


「なりませんぞ。姫自ら前線に赴かれるなど」


「私は城に引き籠る為にこの地に来たのではありませんよ?」


「もっと御身を大事になされませ!」


 前線というと南に行きたいのか? その護衛を俺にしろと?

 なんと迷惑な……

 金髪ねーちゃんに目を向けると困ったような顔をしていた。

 他国の事情に口出しはできないよな。

 ロイター子爵は……目を伏せて神妙にしてる感じだ。

 子爵家って立場的にはそんなに強くないのか?

 姫が外に出るとしたらその護衛は騎士団がやって領軍は関係ないのかもな。


「ツトム。私を最前線に連れていってもらえますか?」


 そんな私をスキーに連れてってみたいに言われてもな。


「姫様が陣頭に立たれるならこのツトム、イリス様の振るう剣の一振りとして敵が幾万いようとも必ずや先頭を駆けて吶喊とっかん致しましょう」


「なっ!?」「貴様何を」


「王国の……いえ、人族の命運を賭した決戦を挑まれるのですか?」


 自重しろとかもう無理でしょ。

 王族なんかに会わせるほうが悪い!!


「つまり大戦おおいくさにする覚悟もなく王族たる者が軽々しく前線に行くなと申すのですね」


「区々たる戦は下々の者にお任せ頂きたく存じます」


「しかし私は……」


「恐れながら、私からひとつ提案がございます」


「なんでしょう?」


「このようなこともあろうかと(←言ってみたかっただけ)西の森に拠点を築いてございます。もしよろしければご案内致したく思います」


 せっかく作ったしね。


「わかりました。ツトム、楽しみにしておりますね」


「は!!」


 お姫様と金髪ねーちゃんが退室した。


「ツ、ツトム君平気なのかい?」


 すかさずロイター子爵が心配そうに話しかけて来る。

 何が挨拶する程度だよと嫌みの一つ二つ言ってやりたいところだが、ここは我慢する。

 世話になってるしな。


「大丈夫ですよ。担当の方は……」


「私です。姫様の補佐官をしておりますマイナと申します」


「冒険者のツトムです」


 マイナさんは20代後半かな?

 スタイルが分かりづらい服装をしている。

 帯剣してるということは護衛も兼ねている感じか。


「早速ですが西の森の拠点というのは?」


「壁外区の北から西の森に入ってしばらく歩いたところにあります。馬車では行けませんよ」


「馬では行けるのですか?」


「ええ。ただ、道幅がこのぐらいしかありませんから馬が並ぶことはできませんからね」


 両腕で道幅を示す。


「み、道? 西の森に道があるのかい?」


 横で聞いてたロイター子爵が慌てて聞いてきた。


「拠点造りってほとんど道作りですから」


「君は西の森に拠点作ってどうするつもりなんだ?」


「元々は森の奥に狩場を作る為にやってたのですけど……これ以上はネタバレになるので……」


「西の森の危険度はどうなのですか?」


「午前中行ってましたけど魔物は1体もいませんでしたよ。魔物に関してはいたとしても私が排除することはお約束します。魔物に関してだけですからね?」


 人に狙われるケースは保証できん。


 その後細かい打ち合わせをして解散した。

 日時は明日の朝に壁外区の北口に集合。雨天中止だがその時も北口には行かないといけない。

 電話とかないから仕方ないよね。

 そう言えばこの世界に来て雨の日ってまだないな。ここらは乾燥地帯なのだろうか?

 夜間に降った形跡が2~3日あったぐらいだ。


 姫様は騎乗して来られるとのこと。

 あと護衛が数騎とお供の人が数人だ。

 ロイター子爵が警護小隊を随伴させると言い出して少し揉めたが、人数が多くなると身動きができなくなるので遠慮してもらった。

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