第55話
次の日、3人で西の森の入り口のとこに来た。
王都に行く前に頻繁に狩りをしていた場所だ。
「あの?」
どこにも道を作った形跡がないので2人は疑問な表情をしている。
「こっちだ」
森に入り細い獣道を奥へと進んで行く。
「他の冒険者に見つからないように道は少し奥から作ったんだ」
少し歩くと奥へとずっと伸びる道の始点に到着した。
「す、凄い」
「これほどの大工事をこんな短期間でお1人で……」
「途中太い樹木で数ヵ所途切れてるけどな」
しばらく道を歩いて行くと例の川が見えてくる。
「え? 橋まで作られたのですか?」
「何の為にこんな立派な橋を……」
「中々いい出来の橋だろう?」
橋を渡って奥へと進む。
「本当に魔物がいないのですね」
「その理由も直にわかる」
途中南西の方向に進むと行き止まりになり、その先には階段が続いている。
「この上が拠点だ」
階段を上ると広場に出て、小さな小屋とベンチとテーブルがある。もちろん土魔法で作った物だ。
土壁で囲っているのでまだ景色は見えないようにしてある。
さらに上へと続く階段を上っていく。
1番の自信作である空中展望台だ。
「うわぁ」
「素晴らしい」
「凄い眺めだろう?」
眼下に広がる大森林と遠くに見える山々の雄大さに2人は圧倒されてるようだ。
うんうん。これだけ驚いてくれると苦労して作った甲斐もあったってもんだ。
「西の森の奥は崖で途切れているから1度魔物が討伐されると再び魔物の巣となるまで長い期間が必要になるということだな」
「そうだったんですね」
「どうだ? ルルカ。並の魔術士ではこんなことできないから、如何に俺の腕が凄いかがわかるだろう?」
この景色自体は俺の手柄でもなんでもないのだが、感動してるとこに便乗して俺自身の株を上げとこうという作戦である!!
「このような光景は初めて見ます。凄く……心が揺さぶられます」
上手くいったな。
テレビもネットもないこの世界では一般人がこんな光景見るのはまず無理だろうからな。
『森見学ツアー』と題して商売になりそうだな。
森の中の道の秘匿性が失われるからすぐダメになるか……
2人は感動したままでずっと見入っている。
「ずっと西の方に草原らしきものが見えるが、あそこ辺りは隣の国なのか?」
「いえ、アルタナ王国はもっとずっと西のはずです。見える範囲であれば王国内でしょう」
とロザリナが教えてくれたけど、見える範囲にはロクな防衛拠点もないから魔物は素通りしてしまうのではないだろうか?
そのことを聞いてみると、
「魔物は人の多い場所を優先して襲いますので、バルーカを無視して進軍することはありませんよ」
ということらしいのだが……
果たしてそうなのだろうか?
2回も連続して城内に突如魔物を出現させると同時に外からも攻めて城内に侵入してるのだ。
明らかに統一された指揮の下での作戦行動だ。
魔族側の指揮官がこんな美味しい侵攻ルートをいつまでも放置しておくだろうか?
今日の午後に城に行ったら聞いてみようかな。
しかし俺のような素人が口出しすると不快に思うよな。
雑談のついでにちょっと聞くぐらいの軽い感じなら平気だろう。
下の拠点に降りて飲み物を出して休憩する。
「このような素晴らしい景色が見れたことは一生涯の思い出となりましょう。本当にありがとうございます」
「あ、ありがとうございます」
「喜んでもらえて良かった。だがさらに上があるからな」
「え?」
「ルルカ、こっちに」
近付いて来たルルカを抱きしめて、
「絶対に離すなよ」
滞空魔法で上空に浮いた。
「きゃあ!!」
普段絶対聞けない声だな。
目を閉じて必死にしがみついてくる。
「目を開けて」
「ふわああぁぁぁ」
よくよく考えると、家の庭で浮いて空からの景色を見せてもよかった。
いや、それだと展望台からの眺めで感動しなくなるからこの順番で良かったのだ。
「お城があんなに小さく……」
ゆっくりと降りていく。
「次はロザリナだな」
「わ、私は遠慮したく……」
「遠慮は無用だ」
高いところが苦手なのか景色を楽しむどころではないらしい。
きつく目を閉じて強く俺にしがみついている。
「大丈夫だから見てみな」
しまったな。
鎧を脱がせてからにすべきだった。
「ううぅぅ」
苦手なら仕方ないか。
降りてロザリナをベンチで休ませる。
「飛行魔法が習得できれば手軽に遠くに行けるようになるが、ロザリナは無理そうだな」
「す、すいません。地に足が着いてない感覚がどうにも恐ろしくて……」
「苦手な人は結構いるらしいから気にしなくていいぞ。ルルカのほうは平気そうだな」
高所恐怖症ってやつなんだろうな。
「はい。高いところから遠くを見るのは景色が素晴らしくて好きになれそうです」
「それは何よりだ」
ルルカの家族に会う為には東のコートダールまで行かないといけない。
飛行魔法で行けるのなら1日で行けるのではないだろうか?
行けるよな? 何万キロも離れてるという訳ではないだろうし。
国内の地図すら売ってないからなぁ。この大陸の全体図なんてあるはずもなく。
確か奴隷になる前にルルカが住んでいたロクダーリアが交易都市だったはず。
コートダールは商業国家だし、両者間で取引があるならそう無茶な距離ではないだろう。
「それじゃあ帰るか」
「「はい」」
拠点の入り口を壁で塞いでおこう。
魔物の巣にされるのも嫌だしな。
3人で壁外区の店(ロザリナお薦め)で昼食を食べ、そこで2人と別れて城内に入り商業ギルドに行く。
昨晩渡された包みを郵便で出す為だ。郵便ではなく配達か。
コートダールまでの配達料は通常配達で5000ルク。速達が10000ルク。そして最速便が11000ルク。
さすがに高いな。他国宛というのもあるだろうが。
配達日数にどのぐらいの違いが出るのか聞いてみると、最速便が4~5日、速達が5~7日、通常便だと1~2ヵ月かかるそうだ。
ここは奮発して速達で出そう。
ルルカのご家族も早く近況が知りたいだろうし……
当然俺のことも書いてあるのだろうな。
だ、大丈夫だろうか?
『毎日エッチなことさせられて辛いです』なんて書かれていたら酷く恨まれそうだ。
『風呂場で変な椅子に座らされて変態行為をされています』
『恥ずかしい服を着せられています』
『食事中もセクハラされます』
やべえええ。せめて家族に手紙を出すまでは自重すべきだったか。
さすがに人様の手紙の中を見る訳にはいかないし。
いずれコートダールに行くとしてもルルカの家族とは絶対に会わないようにしなければ……
所持金45万8320ルク→44万8320ルク
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