第52話
西の森の道路工事を早めに切り上げてギルドに向かった。
昨晩緊急招集が掛かったのにギルドに顔を出してなかったのを思い出したのだ。
どの道オークの買い取り価格を知る為に行くつもりではあったけど。
何せ収納には300体を超えるオークの死体がある。
まだ価格が高いままなら売りたい。
ギルドに着き、とりあえずミリスさんを探す。
受付の奥で事務仕事をしてたところを呼んでもらった。
「ツトム様。昨日の件でしたら指導教官に話を通してありますのでいつでも参加できますよ」
「ありがとうございます。あれからヨハン達はどうなりましたか?」
「パーティーを解散するかどうかで揉めてるみたいですよ」
「狙い通り森に行くどころではなくなりましたね」
「あのまま普通に勝つだけで良かったと思うのですが?」
「いやぁ、前途ある若者の為に敢えて憎まれ役を買って出る! 先輩として為すべきことを成した満足感で一杯ですよ!」
「ツトム様のほうが年下で、しかも後輩なんですけど……」
ミリスさんのジト目である。
その手の性癖な方にとっては大層な御褒美だろうが俺には通じん!!
大体このミリスさんは仕事に私情を挟んできたり裏で良からぬ動きをしたりで油断ならない。
ホント秘書の風上にも置けん!
まぁ俺が勝手に秘書っぽいと思ってるだけなんだが……
「ところで、昨晩ギルドに来るの忘れちゃったんですけど……」
「それは困りましたねぇ。寝てたんですか?」
「ちゃんと起きましたよ。北大通り出たらすぐに戦闘になったんで、そのまま戦っていました」
正確には起こされたんだが、まぁ敢えて言う必要もあるまい。
「7等級と見習いは参集しなくても口頭での注意で済ますのが通例なのですが、ツトム様が戦っていたことを証明できるのなら緊急招集に応じた人と同じ評価が為されますがいかがしますか?」
北口辺りで冒険者に見られてたはずだが探すの面倒だな。
金髪姉ちゃん(ビグラム子爵)に頼めば一発なんだがそれは嫌だし……
待てよ。緊急招集に参加した扱いになると手持ちのオークは全部取り上げられてしまうのではなかろうか?
危うく昨晩の頑張りが無駄になるとこだった。ギルドの評価とかどうだっていいし!
「注意を受けた扱いでお願いします」
「ふふ。かしこまりました」
「それとミリスさん、今後自分を様付けで呼ばなくていいですよ」
「わかりました。ツトムさん」
ルルカと被ったか。まぁお仕事用ということで。
その後解体場に行き情報収集をした。
まずオークの買い取り価格だが、もう値崩れを起こしていて通常よりも安くなっていた。
そして昨晩初めて遭遇した魔物はコボルトだった。
もっと犬っぽい感じかと想像してたが、この世界のは筋肉質で犬らしさはどこにもない。獣な感じはあるのだけど…
価格は100ルクで美味しくない獲物だ。
ギルドでの用事も済んだので帰ろうかと思ったのだが、まだ15時過ぎなので今朝の魔法を練習した北の壁外区の外へ行く。
朝からずっと考えていたのだが、優先すべきは攻撃魔法よりも防御魔法なんじゃないかと思い至った。
魔盾10枚重ねても破られるなんて盾としての意味がない。
もちろん威力が減殺されて剣を使って体を逸らすことができた訳だが、あんなの10回やれば3回か4回は失敗する避け方だ。
やはり魔盾できっちり防ぐところから始めないといつ死んでもおかしくない不安定な戦いを続けていくことになる。
まずは単純に厚くしてみる。
今までの10倍の厚さで作り魔法攻撃して試したが、普通に固くなっていた。
単純に10倍の防御力という訳ではないが、7~8倍にはなってる感じだ。
もちろん消費魔力も10倍だけど……
これまでが薄過ぎたのではないだろうか?
魔力のシールドということでビームシールド的なイメージをしてたのだ。
更にこれに角度を付ける。
戦車のイメージだ。いわゆる傾斜装甲という奴である。
魔盾の中央から左右に傾斜させる。
横薙ぎの攻撃にはあまり意味はないが、振り下ろしてくる系の縦方向の攻撃や遠距離攻撃には有効だろう。
最後に魔力を込めることで効果が変わるのか試してみる。
今まで使っていた薄い魔盾を3倍ほどの魔力を込めて作る。
何か目安がある訳ではないので大体そのぐらいという感覚だ。
魔法攻撃して試したが、こちらも明確に違いが出た。
これらを踏まえた上での結論としては、きちんとした形で魔力を込めて魔盾を作れば2枚か3枚でキングの攻撃も防げるということだな。
うん……
浮身とか攻撃喰らうと同時の回復魔法とか努力の方向性が斜め上過ぎたのだ。
常識的な考え方の中に解決策は必ずあるのだ。
それにしてもルルカには感謝しないといけないな。
俺の身を案じてくれるからこそ防御を優先しようと考えた訳だし。
それから攻撃魔法も常識的な考え方をするよう心掛けて改良していく。
思えば威力を抑える為とかMP節約の為とかで低くする方向に向かっても、まともに攻撃力を上げようとはしたことなかった。
せいぜい風槍を鋭くとか貫く感じで放ったぐらいだ。
土槍だったら槍自体を大きく硬く鋭く、射出する際に初速を速く、回転速度を更に上げて、尚且つ圧縮して撃ち出す感じで……魔力を注いで……
色々改良を施していくと段々と洒落にならない威力になってきた。
土魔法で作った家ぐらいの大きさの的を軽々と貫いていき、念の為に的の背後に置いた今日開発したばかりの強化型の魔盾を何枚も破壊していく。
魔法で撃ち出すので直接的な反動はないのだが、射出する際の衝撃波と音が凄まじいことになってる。
もはや槍というレベルではないので土徹甲弾…土甲弾とでも名付けよう。
風系統の魔法も同じように改良を施していく。
試し撃ちする度に環境が破壊されていった。
こちらも敢えて結論を言うのならば……
新技なんていらんかったんや……
まともに威力上げる努力をすれば良かっただけだった。
次はどのバトルものから技をパク……コホン。参考にすべきか考えていたのは意味なかった!!
あれはあれでロマン溢れる楽しい作業ではあるのだが……
うん。男ならロマンを追及するのは間違いではない。
要は威力の上がった攻撃力を更に上回る必殺技を開発すればいいのだ。
それが実現した時、奥義と呼ぶに相応しい威力になっているに違いない!!
「ふふふ……ふぁハハハハハハハハ!!」
無惨にも破壊された地の中心で高笑いをする姿を目撃した冒険者は『奴はヤベェ』としきりに周囲に漏らしていたとか。
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