第51話

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-バルーカ城の会議室にて-


「始めるに先立って、本日バルーカに到着されたばかりのイリス姫も本会議にオブザーバーとして御出席されることとなった」


「南部総督顧問として着任しましたイリス・ルガーナです。皆様、よろしくお願いしますね」


 南部総督府は対魔族最前線であるバルーカとメルクを中央(王都)において統括する機関である。各領主よりも上なものの実権はなくあくまで形式的な位置付けでしかない。王国府と南部とのパイプ役を担うのが主な役割である。


「さて、深夜に起こった魔物の大規模襲撃に関してだが?」


「ハッ。時間帯が深夜だったこともあり城内並び壁外区の領民の被害は軽微でした」


「物理的な損害は激戦が行われた南門広場に集中しており、防衛ラインが押し込まれた2~3の路地も周囲の建物と共に破壊されました。現在復旧作業が行われております」


 副官より渡された資料に目を通す伯爵。


「まずは全体の流れを報告せよ」


「南の哨戒任務に当たっていた部隊より魔物が集結中との報せを受け防御態勢を固めたところ、南城壁への魔物の軍勢の攻撃と同時に内部に突如出現した魔物が南門を急襲。門を開けられ城内への魔物の侵入を許します」


「南門内側で激しい戦闘が行われましたが、結果的には南門に魔物を誘う形になり城壁並びに建物上から火力を集中させることが叶いました。やがて西門外を制圧した帝国軍が敵の左側面を突いたことで大勢が決し魔物は退却した次第であります」


「最初に城内に出現する魔物についてだが……ロイター子爵何か掴めたか?」


「警備に当たらせていた者に目撃者がいました。やはり何らかの転送現象ということで間違いないようです」


「それで解決策はあるのか?」


「転送に距離的な制限があるのなら南の砦を奪還することでバルーカを守ることが叶いましょう。しかし、南大陸の奥地からですと打つ手はありませぬ」


「砦の奪還が先決か……、では魔物が城内に出現した後の対処法に関してはどうだ?」


「今回出現しましたのはオークジェネラル率いるオークリーダー・オークアーチャーといった上位種で、通常の警備部隊では対応できません」


「よって南門と西門に重点的に守備兵を配置します。更に、今回の出現地点が中央の少し南と前回のと併せて中央近辺に現れるものと想定して警備の網を張ります。どの道これまでの厳戒態勢は徐々に解除していく当初の方針もありましたので、ここで一気に切り替えたいと考えています」


「問題なのは壁外区の西の防衛でして……、今回は住人と冒険者、奴隷商の戦闘奴隷で守ったとのこと。城壁上からの援護が若干あったとはいえ、我らの守備が根本的に及んでないのはマズイです。北西箇所の要塞化も含めて新たな守備拠点の構築を御許可頂きたく願います」


「うむ。やらねばなるまい。きちんと城門を守り城内への侵入を許さないということであれば、今回の襲撃以上に西側に魔物が流れることも想定される。いや、流れるという前提で守りを強化してくれ」


「かしこまりました」


「最後はゲルテス男爵が討ち取ったオークキングか……、まずはゲルテス男爵。良き働きをしてくれた。大手柄だな」


「恐悦至極に存じます。ただ私はオークキングの隙を突いただけでして、本当の手柄はそれまで互角に対峙していた帝国軍の方々にこそ相応しいかと」


「さすがは音に聞こえし白鳳騎士団よ」


「(帝国と王国の関係を思えばここらで私達の武勲として喧伝したい思惑も理解できますけど……)」


 事前に伯爵から説明を受けていたビグラム子爵ではあったが、場の賛辞に肩身が狭い想いは拭えなかった。


「オークキングは魔物が撤退を開始した後に現れた、ということでよろしいですかな? ビグラム子爵」


「え、ええ。飛んで来た……というよりオーガが投げる岩石のように落着したように出現しました」


「ふむ。その出現方法も気になりますが……、常識的に考えて総大将が殿しんがりを務めるということはまずありますまい」


「とすると此度の襲撃はオークキングより上位の魔物が指揮していたと?」


「そう考えるのが妥当でありましょうな」


 あれだけ圧倒的だったオークキングよりもさらに上位……


「ゲルテス男爵。バルーカで1番の強者である卿に聞くが、オークキングと単独で対峙した場合勝てるか?」


「単独では無理でしょう。部下と共にであれば勝機はあります。もちろん犠牲をいとわなければ、の話になりますが」


「男爵が今回のように隙を伺うにしても、それまでどうやってオークキングを引き付けておくかが問題となるな」


「今後3軍(国軍・領軍・帝国軍)共同で対策を研究することとする」


「姫様、一言お願いできますか?」


「はい。皆様方の此度の奮戦に心よりの感謝を。近く我が弟エリッツが即位した暁には南砦奪還の大号令が発せられることとなりましょう。皆のより一層の働きを期待します」






-バルーカ城の貴賓室にて-


「お久しぶりにございます。イリス様」


「2人の時はイリスでいいわ、リーゼ。あなたがここに来る前に王都で会って以来ね」


「イリスも変わらずに、いえむしろ以前お会いした時よりも元気になられていませんか?」


「ふふふ。王位争いは負けちゃったけど、肩の荷が下りてすっきりしちゃった」


「それは…喜んで良いことなのでしょうか?」


「いいのよ。今ではどうして王になりたかったのかとすら思うぐらいだし。まぁこんなこと言えるのもエリッツがまともに育ってくれて私を排除しないと確信してるからなんだけどね」


 王権を望むのは権力欲以外では自己防衛の為という理由が圧倒的だ。


「しかしどうして最前線に?」


「エリッツには田舎に行くのは嫌だって言ったけど、弟に労苦を押し付けた姉としては何かしてあげたくてね。報告書だけでは最前線の様子はなかなかわからないから」


「素敵な姉上を持たれてエリッツ様もお幸せでしょう」


「だといいけど。リーゼは武勲を挙げた割には会議中もずっと浮かない表情してたけど、どうかしたの?」


「実は……」


 事情説明中……


「なるほどね。名声や地位を欲していなければ武勲なんていらないどころか枷になる場合もあるし気にする必要ないわよ」


「本人もこだわりはないようでしたが……」


「1つ借りを作ったと思って機会があれば返せばいいわ。それにしても、その冒険者のこと随分と気に入ってるようね」


「中々見所のある少年ですので」


「おもしろそうね。(一度会ってみようかしら)」


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