第43話

 つまり俺が錬金術でポーションを作れるようになれば大儲けできるのだ。

 だが……、錬金術士なんて言葉は今まで聞いたことがない。

 王都のギルドの資料室でさえ見つからなかったし、錬金術を匂わす記述すらなかった。

 何らかの取っ掛かりがないと怖くてポイントを振れないのだ。


 錬金術が魔法枠なのかは議論が分かれるだろうが、他に魔法関連で取得可能なものは飛行魔法を除いてない。

 あとは武器関連や近接系統のみだ。

 以前にギルド解体場の人が言ってた死霊術が一向に出てこないのも気になる。

 ホブゴブリンに始まってオークジェネラル、今回の技オークと死体を収納したままなのは死霊術でツトム軍団を作る為なのに。

 死霊術の資料もなかったんだよなぁ。


 そう言えば雷魔法もないか。

 とある砲みたいに銀貨を撃ち出してみたい。実際やるとなると大銀貨はない、小銀貨なら許容範囲だ。だが男がやるのは微妙かもな。JCだからこそ映えるのだし。

 ま、待つんだ。今の俺はひょっとしてDCなんじゃないか? だって15歳だし。

 学ランぽい服探せばアリになるのか?

 これは要検討だな。

 それ以前の雷魔法がスキルツリーにない件をどうにかしないといけないが……



「冒険者ツトム」


「はい」


 意外に早く呼ばれた。まだ30分も経ってない。

 待機室では先に来てた3人がまだ待っていた。


「ついてきてください」


 20代の女官さんかな?

 いかにも勉強ができますみたいな人だ。

 眼鏡でも掛けていようものなら端の部分をクイクイやるに違いない。

 そういえばこの世界学校とかどうなってるんだ?

 ここでも王都でも見なかったような…


 中世という時代を考えればここの役人の対応は現代寄りだ。

 普通はもっと下々の者に対して横柄な態度を取るのではなかろうか?


「こちらです」


「ありがとうございます」


 うん。にこりともせずに立ち去って行ったよ。

 まぁそんなもんなんだろうな。

 立派なドアをノックする。


「どうぞ」


「失礼しま~す」


「ツトム君、もう体は大丈夫なのかい?」


「はい。おかげさまで昨日より活動を再開しております」


「それは良かったよ。こちらもバタバタしていてね」


「お忙しいところ申し訳ありません」


「なに、こっちはまだマシさ。大変なのは現場の兵士や指揮官でね」


「この厳戒態勢は長引きそうなのですか?」


「本来なら魔物が突然出現するのを解決するまで続けないといけないのだけど、物理的にそれは無理でね」


「徐々に人員を引き上げる方針で既に決まっているよ」


「そうですか。その件とは関係ないのですが、今日南東の森の奥まで行きまして……」


 (事情説明中)


「ということがありお伝えしようと」


「ふむ。その技オーク?とやらは今持ってるんだね?」


「はい。収納に」


「ついてきてくれ」


「は、はい」


 ロイター子爵は廊下をどんどん歩いて行く。

 もう城の中のどこなのか全然わからないぞ。


「ここだ」


 何やら大きな部屋の前に来た。

 内窓からは人がたくさんいるのがわかる。


「ゲルテス男爵」


「おお。ロイター子爵いかがなされた?」


「ビグラム子爵もいらっしゃったか。ちょうど良かった」


 ビグラム子爵が一礼する。

 あの金髪ねーちゃんだよ。

 なるべくなら関わりたくないのに…


「このツトム君が今日南の森で妙なオークを倒してね。報せに来てくれたんだよ」


「こうして会うのは初めてだな。第2騎士団を率いているカール・ゲルテスだ」


「冒険者をしておりますツトムと申します。よろしくお願いします(こうして?)」


 ビグラム子爵もやってきた。


「ツトムとやら。その後負傷したと聞き及んでおりましたが」


「オークの矢に不覚を取りました。ですが数日休みましたのでもう平気です」


「それは重畳。今後も頑張りなさいね」


「は、はい」


 それって『頑張って貴族になって早く私と結婚しなさいね』って意味じゃないだろうな。

 残念。仮に俺が何か手柄を立てて貴族になったとしてもあんたはその頃には30中頃の立派なおばさんになってるのさ……ってモロに俺のストライクゾーンじゃないか!!

 なんという孔明の罠なんだ……

 これが噂に聞く貴族の権謀術数って奴か。

 これだから貴族は信用ならないんだ。

 いつの間にやら十重二十重に包囲してくる。


「例のオークを出してくれ」


「わかりました」


 技オークの体と頭部、あと装備してた斧を出す。


「ふむ。通常のオークよりも僅かに筋肉が発達してるか?」


「手のひらをご覧ください」


「剣ダコならぬ斧ダコがあるな。修練してると見ていいだろう」


 ガヤガヤと部屋の中の全員が入れ代わり立ち代わり技オークを検分していく。


「ツトム君。先ほどの話をもう一度してくれるか?」


「はい」


 (説明中)


「猿ごとオーガを撃ち抜く君の魔法を回避するか……」


「7体率いてたということは小隊長クラスといったところでしょうか?」


「前衛には注意を促さないと、普通のオークと思って対峙すれば手酷くやられるだろう」


「魔術士も単独での攻撃は魔力の無駄になりますね」


「街中で警備に当たっている各分隊にも通達しませんと」


 検分は一区切り付いた感じかな?


「東門での戦闘の際に鎧を着た妙なオークがいたとの報告が複数あってね」


「数を揃えて火力を集中させる軍の戦い方だと死体の損壊が激しくてね、まともな検証ができなかったんだよ。あ、もうそれ(技オーク)しまっていいよ」


「そうでしたか」


 技オークセットを収納する。


「冒険者ギルドには報告したのかい?」


「まだです。報告すべきことなのかもわからなかったので、負傷した際のお礼も兼ねてまずはロイター様にと」


「そうか。明日ギルド側との連絡会議があってね、このことは軍から伝える形にしてもいいかな?」


「ご迷惑でなければ是非そうしてください」


「ははは。こちらが頼んでいるんだよ。軍はギルドに協力してもらうことが圧倒的に多い上に細かいというか草の根的な情報ももらってばかりでね。担当者が肩身の狭い思いをしてるのだよ」


「役割が違うのですからギルド側が細かい動きに勝るのは仕方ないことなのでは?」


「その通りではあるけど、何事にもバランス感覚が大事だからね。ここらで軍も情報出せることを示しておく必要があるんだ」


「自分としては全く問題ありませんよ」


「助かるよ。今後も何かおかしいと感じたら教えてくれるかな?」


「わかりました」

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