第32話

「はじめ!」


 開始早々ウインドハンマーを放ちロザリナを吹っ飛ばす。

 風槌と命名して和風で揃えよう。


「くそっ」


 俺と違いロザリナは回復魔法を使えないのでダメージが蓄積されていく。


 次は開始と同時に彼女は素早く横に動くが風槌連打で呆気なく吹っ飛んだ。


「さっきまでのおしゃべりはどうした?」


「忌々しいねぇ」


「降参しなくていいのか?」


「ハッ、誰が! 余裕ぶっていられるのも今だけだよ!」


「これが最後です。はじめ!」


 風槌を放つと彼女は姿勢を低くして突っ込んできた。

 そのままの姿勢で突きを打ってくる。

 なかなかの攻撃に感心しながら魔盾5枚重ね掛けして防御し横から弱めの風槌で倒した。

 魔盾は2枚破られていた。


 倒れてるロザリナに回復魔法を施し立ち上がらせる。


「納得したか?」


 彼女は目を閉じ大きく深呼吸をして、


「はい。お約束通り誠心誠意お仕え致します」


「早まるな。購入するかはきちんと面談してからだ」


「かしこまりました」


 きっちり言葉遣いを変えてきたな。


 1階にある個室に移動し対面で座る。


「君にやってもらいたいことは主に2つある。1つは俺への奉仕だ。もう1つは家にはもう1人同居人がいるのだが、その人の警護だ。もちろん俺やその同居人を手伝うことも含まれる」


「かしこまりました」


「壁外区域に家を借りてるのでそこで生活することになるが問題あるか?」


「何も問題ありません」


 ここまで素直になられると逆に不安になるな。


「何か条件を提示したいとかあるか? 俺に買われたくないならここで意思表示してくれ。先ほどの勝負の決め事に拘る必要はないぞ」


「い、妹に会わせてください」


「妹さんはどこにいるんだ?」


「バルーカにいるはずです」


「先ほどの務めに支障ないのであれば構わないが……」


 妹に会えるとわかって明らかにホッとしてるな。


「君は普段はともかく妹さんに何かあったら奴隷の務めよりも妹さんを優先するのではないか?」


「そんなことありません」


「だといいが……」


「お客様」


 ここで店員が声を掛けてきた。雲行きが怪しくなってきたからな。


「ご心配のようでしたら奴隷紋を強化するという方法がございます」


「どういうこと?」


「施術費用は倍掛かりますが、奴隷への制約を一つ追加することができます。今回のケースならば『主の許可なくして妹には会いに行けない』でしょうか」


「ほう。ロザリナ、君にこの制約を受け入れる意思はあるか?」


「はい。問題ありません」


「わかった。購入しよう」


「ありがとうございます」


「つきましては手続き料と奴隷紋施術料並びに強化施術料と……」


「奴隷紋は通常のだけで構わない」


「!?」


「よろしいのですか?」


「ああ。彼女の意思を確かめたかっただけだ」


「左様ですか。では合計で90万6000ルクでございます」


 本当は強化したほうがいいのだろうな。

 自ら奴隷落ちさせるぐらい妹のことが大事な訳だし。

 しかしルルカも娘に何かあったら飛んで行くだろうし俺もそれを許すだろう。

 ロザリナだけ奴隷紋で縛るのもおかしいよな。


 支払いを済ませ王都の奴隷商と同じような厳重に守られた部屋に行き、ルルカと同じ足の裏に奴隷紋を施し店を出た。


 勝負の時に既にわかっていたことだが、ロザリナのほうが背が高い。

 ルルカよりも少し高い。

 この世界に来てから子供と御老人以外で俺より背の低い人を見たことない。男女共にな!



 ロザリナに外套を着させ王都で買ったサンダルを履かせる。


「ありがとうございます。ご主人様」


 その呼び方から変えないといけないがどうしよう?

 ルルカと同じ呼び方というのも面白味がないし……


「俺に対してご主人様呼びは禁止だ」


「わかりました」


 そう言えばまだ名乗ってなかったな。


「俺の名はツトム。15歳。冒険者をしている。

 これから軽くロザリナの服とか買って帰るが、とりあえずで構わないから家に帰るまでに俺の呼び名を考えてみろ。様付けと『ツトムさん』は禁止という条件でだ」


 わからなければ丸投げすればいいのだ。


 所持金187万3520ルク→96万5520ルク




 ルルカを買った時と同じように新品の下着と古着屋で外出用と室内用の服を買い帰宅する。


 なんだろう?

 ルルカは恋人でも奥さんでもないのだが、浮気相手を家に連れ込むような背徳感がある。


「この家では土足厳禁だ。玄関を開けたところで靴を脱ぐように」


「わかりました」


「それで俺の呼び名は考えたか?」


「あの、あるじ殿はいかがでしょうか?」


「却下だな。明日の夜までにまた考えるように」


「……はい」


「家の中にはロザリナが警護することになるルルカという女性がいる。彼女の言うこともきちんと聞くように」


「かしこまりました」


 いつまでも引っ張る訳にはいかない!

 意を決してドアを開ける。


「おかえりなさいませ」


 くっ。待ち構えてやがった!


「ただいまルルカ。警護役の奴隷を買ってきた。名をロザリナと言う」


 早く挨拶しろと肘で突く。


「は、初めましてルルカ様。身辺警護に当たらせて頂きますロザリナと申します。よろしくお願い致します」


「ルルカと申します。こちらこそよろしくお願いします」


 玄関先で妙齢の2人の女性が互いに挨拶を交わしている。

 2人共に俺の奴隷なのはなんと言うか不思議な感覚だ。


「ロザリナさん、私のことはルルカで構いませんからね。どうせツトムさんも様付け禁止とか仰ったのでしょう?」


「当たり前だ。……あれ? 今ルルカ『どうせ』って言った?」


「気のせいですよ。さあまずは食事にしましょう」


「そ、そうだな」


 なんだろう?

 ルルカにラスボス感が出てないか?

 2人の主人は俺のはずなのだが……



 食卓の準備をロザリナも手伝っている。


「3人分用意してたのか? よく奴隷を買ってくるってわかったな」


「余ったとしてもツトムさんの収納に入れておけば無駄にはなりませんから」


「そうだな」


「ルルカは元商人でな。そしてロザリナは元貴族で元冒険者だ」


「元貴族と言っても騎士爵出ですので大したことはありません」


 ちょっと自慢してみるか。


「俺は既にここバルーカの領主グレドール伯爵、領軍のトップのロイター子爵、帝国の白鳳騎士団長ビグラム子爵の3人と面識があるぞ」


「そんな偉い方々と……凄いです」


 ふふん。虎の威を借る狐みたいだが気持ちいいぞ。


「騙されてはいけませんよロザリナさん。ツトムさんは暴れると城で脅して説得されたというだけなのですから」


「ちょっ、ルルカ言い方!」


「??????」

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