第31話
城内に入り適当に昼食を済ませてからまず商業ギルドに向かう。
ルルカから預かったティリアさん宛の手紙を出す為だ。
通常配達で2000ルク。乗合馬車を利用した速達で4000ルク。王都に到着したその日にギルド員が配達する最速便が5000ルクという料金体系だ。もちろん王都以外の場所だと料金は違ってくる。
現代人の感覚からすれば激高だが遠方の人との連絡手段が手紙しかないこの世界では普通なのだろう。
通常配達で依頼する。
いよいよ本日の本命奴隷商に行く。
2度目の来店なのだが店側は覚えてないようだ。
前回見学だけだったしね。
今日は中年の男性店員だ。
「今日新しい奴隷が入ると聞いたが?」
「はい。既に販売しております」
「30歳ぐらいの女奴隷が見たい」
まずはジャブ(様子見)だ。
「かしこまりました。こちらへどうぞ」
奴隷が待機している部屋に案内される。
確かに前回来た時より明らかに人数が多い。
じっくりねっとりと見ていく。
3人ほど美人がいてその内の1人はスタイルも抜群だったのだが明らかに20代なのでスルーする。
「次は女の戦闘奴隷を見せて欲しい。30歳前後で頼む」
ここからが本番だ。
ならなぜ普通の奴隷を見たのかって? 気になるからに決まってるだろう!
「こちらへ」
階段を上り2階に行く。
そういえばここの奴隷商で戦闘奴隷を見るのは初めてか。
「この部屋の3人は魔術士でございます」
お姉さんタイプが1人。あとの2人は20歳前後だ。
値段を聞くとお姉さんが300万近くで残り2人も200万弱だ。
もちろん買えないし買わないのでスルー。
次の部屋は近接系かな?
一人一人順番に見ていくと、
「おい小僧。あたしと勝負しな」
頬に傷のある鋭い目つきをした女性に声を掛けられた。
「勝負?」
「ああ。あたしが勝ったら10万ルク払いな。おまえが勝ったら購入でも貸出でも誠心誠意おまえに尽くしてやるよ」
「俺の認識してる尽くすというのは甘々イチャイチャでラブラブな感じなんだが、おまえにそれができるのか?」
「イチャ? ラ、ラブ? ……ハッ!? や、やってやるよ!」
どう考えてもイチャイチャラブラブな雰囲気にはなりそうもない。
ただ最初鋭い眼光に圧倒されたが傷はあるものの美人である。
スタイルもルルカほどではないが胸は大きいしお尻もなかなかである。
ふむ。どうしたもんか……
「ちょっと待ってろ」
店員と奥に移動し、どういうことかと聞いてみる。
「彼女の名はロザリナ。32歳です。あのようにお客様に勝負を吹っ掛け金稼ぎをしております」
「稼ぐって金は店に入るのでは?」
「奴隷商は法で奴隷に関する賭け事に関わるのを禁じられております」
「なら何の為にこんな形で金稼ぎをする? 自分を買い戻す為とかか?」
「奴隷の持ち物は主の物なので奴隷は自分を買い戻すという行為はできません。彼女も勝った金で店の奴隷達に酒や食べ物を振舞い残金をどこかに送金してるみたいです」
「ふむ。彼女の経歴と価格は?」
「とある騎士爵の長女に生まれましたが、20歳前に父親が戦死し家名は断絶。妹と共に冒険者として活動してきたものの、最近妹が重傷を負いその治癒費を捻出する為に自らを売りました。価格は90万ルクでございます」
改めて彼女の前まで行く。
「大雑把に君のことを聞いた。そこで俺が勝ったらその口調を優しい感じに戻すことは可能か?」
貴族だった頃も今の感じだったなら素直に諦めよう。
「……可能だ…」
よし!
「なら勝負し…なあ勝負ってなんの勝負だ?」
「はあ? 剣での勝負に決まっているだろう!」
そりゃあおまえが勝手に決めたんだろうに。
「俺は魔術士なんだが?」
「ああ。あたしが剣というだけでそっちは魔法も武器も好きにしな。どうせ魔術士なんて後ろから魔法撃つだけの案山子ばっかだし」
ふん。俺が最新の近接型魔術士であることを知らないな?
奴隷が待機していた部屋から大きな部屋に移動する。
「この部屋は訓練場も兼ねていてね」
「ルールは?」
「顔より上への攻撃はなし。気絶するか降参するか3回膝を付くまたは倒れたら負け。でどうだい?」
「倒れた相手への追撃はありか? なしか?」
「なしだよ。3回と規定してる意味がなくなるからね」
「委細了解した」
お互いに木刀を取る。
店員に大金貨を預け開始の合図をお願いする。
「では……はじめ!」
まずは様子見で普通に打ち合う。
技量的にはホブゴブリンよりは上か?
あまり強者の雰囲気は感じないが……
1撃2撃と入れられるがなんとか耐える。
防具こそ着けてないものの伊達に模擬戦で負けまくってる訳じゃない。
ただロザリナからのプレッシャーで徐々に劣勢になっていく。
彼女も防具を着けてないので、奴隷が良く着てる所謂貫頭衣で動きまくってる。
そう。お色気と言う名のプレッシャーが凄いのである!
彼女のとある部分に目を奪われているとたちまち連打を喰らい沈んでしまう。
「口ほどにもないねぇ。もうおねんねかい?」
確かにルルカほどではないとか言いつつガン見してしまった。
「怪我しない内にとっとと降参しな!」
倒れた以上追撃は来ないのだからゆっくりと回復魔法を使い立ち上がる。
「よく立ってきたと褒めてあげたいとこだが……」
「何か勘違いをしてないか?」
言われるだけなのは癪なので言い返してみる。
「なに?」
「おまえはこの勝負に勝つことに一杯一杯なのだろうが俺は奴隷を買いに来たんだ」
「だからどうした!!」
「見定めてるのだよ。おまえの実力をな。そして失望しつつもある。魔術士相手にあれだけ手こずるおまえにな!」
「減らず口を(怒)」
「はじめ!」
激おこな彼女は先ほど以上に激しく攻撃してくる。
しかし怒りに任せての攻撃は隙も大きくなり俺の反撃がヒットする。
もっともそれまでにこちらも数発喰らっているが。
「安い挑発に乗るな、もっと感情をコントロールする術を身に付けろ!」
「なんでボコボコにされてるあんたが教える立場なんだよ!」
攻撃は更に激しくなり受けきれずに膝を付いてしまう。
「ふん! 結局口だけかい。情けないねぇ」
俺は回復魔法を使用後静かに立ち上がり木刀を捨てる。
「もう降参するのか?」
「いや、遊びは終わり。ということだ」
「付き合ってらんないね。すぐに終わらせてあげるよ」
「はじめ!」
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