第26話

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-バルーカ城の会議室にて-


 本日の出席者は、

 エルスト・グレドール伯爵(バルーカ領主)

 カール・ゲルテス男爵(第2騎士団長)

 エルカリーゼ・フォン・ビグラム子爵(白鳳騎士団長)

 カダット・ロイター子爵(領軍司令官)


 副官と役人が数名の他、特別に領軍の魔術士隊の隊長が参加している。



「…それで、冒険者による指導で成果はあったのか?」


「大いに。具体的には魔術士隊のほうから」


 ロイター子爵は説明は専門家のほうがいいだろうと麾下の魔術士隊の隊長をこの会議に参加させた。

 あくまで事の重要性を鑑みてのことであり、決して説明が面倒とかの理由ではないと自身の胸中で自己弁護が成立している。


「ハッ。例の魔法に関しましてはサンドアローを回転させて射出したものと判明致しました」


「回転か……」


「ツトム殿の指導のもと修練を開始し、習得には時間が掛かるものの既に通常のサンドアローを超える威力を出す者もおります。

 防衛任務や待機任務がありますので毎日修練という訳にはまいりませんが、近日中にも習得する者が出てくると思われます」


「ロイター子爵」


「はい」


「優秀な者を訓練に専念させることは可能か?」


「数名であれば可能でしょう」


「ならばそのように手配してくれ」


「わかりました。隊長続きを」


「ハッ。ツトム殿はその場にて新たな風魔法を開発し『ウインドランス』と名付け土魔法が使えない者に修練させております」


「ま、待て。新魔法の開発などそんな簡単にできるものなのか?」


 室内がザワつく。

 そんな中でビグラム子爵はニヤリと笑みを浮かべ、その『さすがやるわね』といった表情を事情を知ってるロイター子爵は複雑な顔をして見ていた。


「通常であれば不可能であります。ただこの『ウインドランス』は既存のウインドハンマーの殺傷力を高めた言わば発展形であり思い付きさえすれば習得は容易です。現に既に習得している者が多数おります。

 ツトム殿はこれに更に回転を付加することによって大幅に威力を高めており、現在その習得を目指しております。こちらに関しましては回転させるサンドアローと同様に時間を頂きたく存じます」


「ふむ。その回転させるウインドランスも盾の猿とオーガに有効と考えて良いのか?」


「ウインドランスには射程が短いという欠点がございます。ですので近距離ではウインドランス、中長距離はサンドアローと使い分けが肝要となりましょう」


「魔術士が近距離で猿やオーガと対峙する状況はあるまい。習得の優先度は低く設定するべきか……」


「そのことですが伯爵。ツトム君より1つ案を提示されております」


「ほう。ロイター子爵その案とは?」


「飛行魔法を使える者が体格の小さ目な魔術士を抱えて空から接近して攻撃するという手法です」


「!?」「そのようなことが可能なのか?」「空から攻撃するだと!」


 再び室内がザワつく。


「その場にて飛行魔法を使える者がツトム君を抱えて3回試しましたがサンドアローは的には当たりませんでした。

 場所が訓練場だった為にそれ以上のことはできませんでしたが、範囲魔法や回転するウインドランスならば効果範囲は広いので短期間の訓練で有効な攻撃を行えるようになるでしょう。

 よって魔物側に飛行種のいない戦場ならば切り札となり得ると判断します」


「今まで索敵と伝令、移動にしか使い道のなかった飛行魔法にそのような活用法があるとは……」


 先程から伯爵は腕組みをしながら目を閉じたままだ。

 やがて、


「ロイター子爵。城外で飛行魔法を使った魔法攻撃の検証を続けてくれ」


「わかりました。他にオーガによる投石をマジックシールドで防げないかとも提起されました。

 こればかりは試してみないことには何もわかりませんので、実験用の簡易的な投石機を製作する方向で話を進めようかと考えております。

 冒険者による指導並びに訓練の報告は以上となります」


「ロイター子爵はこの後で執務室に来てくれ。次の議題は南部の索敵並びに哨戒に関するものだったな……」




……


…………




-バルーカ城の伯爵の執務室にて-


「たった1日、しかも1度の訓練でこれだけのモノが出てくるとはな」


「はい」


「マジックシールドの件は別にいい。あんなのは誰でも思い付くことだ。

 しかし、魔法を回転させる・既存の魔法を変質させる・新たに魔法運用を提示する。100年単位でできなかった、考えられなかったことだ。

 まだ特別な力か何かの新魔法ならば納得もできよう。問題なのは属性さえ合えば魔術士なら誰もが使えるという点にある」


「正に。彼の案には新規の発案特有の不安定さと言いますか根拠の無さみたいなものが一切ありません。

 なんと言いましょうか、当然のことを我々に教えてる、そんな感じがします」


「うむ……、裏で何者かが糸を引いてると思うか?」


「あり得ましょうか? 彼がしていることは我が国を引いては南部3国を強化していることです。隠れてやるようなことでは……」


「隠れてやらねばならない国・勢力・立場……、帝国の過激派なんかはどうだ? 家の事情か何かで過激派に属しているものの本心では南部3国を支援したい集団でもいれば……」


「その集団が帝国内で新規の魔法技術や発想を独占しているというのも不自然かと」


「それもそうだな。背後関係を調査させるか……」


「それはお止めになるべきです。彼に露見すればバルーカはもちろん国からも出て行きかねませんよ」


「むむむ」


「彼は商業ギルドの一件での我らの迅速な対応に深く感謝しております。この度の指導に関する報酬も辞退を申し出るほどです。もちろん報酬はきちんと渡しますが。

 ですので彼との関係を悪化させ得る手は控えるべきと考えます」


「そうだな。彼の対応は卿に一任しよう」


「承りました」


「王都の手の者からの報告によると陛下の御体調が優れぬようだ。早晩後継者を定められ御退位される運びとなろう。

 新国王が御即位された暁には国の内外に向けてその威光を示す必要がある」


「では南の砦の奪還を?」


「うむ。大きな軍事行動を起こす日もそう遠いことではあるまい。心しておいてくれ」


「はっ」


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