第3章 激闘編
第19話
商業ギルドを出て壁外区へ向かう。
「あんな男が商業ギルド長だなんて!」
そういやあいつはルルカの体をジロジロ見てたな。
「しかし参ったなぁ」
「ツトムさ、ん?」
「いや、バルーカを拠点にするつもりだったのが住みにくいとなると話は変わってくるから」
「あのギルド長がこちらの生活にまで手を出してきましょうか?」
「ここの領主の庇護を受けてやりたい放題ならどんなことをしてくるやら……
ところでルルカ」
「はい?」
「このことは冒険者ギルドに知らせるべきだろうか? 護衛の依頼を受けた訳ではないしな」
「報告すべきだと思います」
「理由は?」
「こういった類のことは後出しで言うと信用されなかったり、場合によってはなかったことにされてしまいます。例え無駄になるとしても即報告するのが間違いございません」
映像やネットのない社会だからな。言ったもん勝ちな面はあるか。
「さすがは元商人だな。ルルカの言に従おう。これからも思ったことを遠慮なく言って欲しい」
「あ、ありがとうございます。ご期待に添えるよう頑張ります」
「いや頑張るまではしなくていいぞ。テキトーで」
「は、はぁ……」
「ここらで適当に待っててくれ、ギルドに行ってくる」
北門を出たとこでルルカと別れて壁外ギルドに入っていく。
「あの、商業ギルドの担当者か商業ギルドに詳しい職員さんはいらっしゃいますか?」
「別段そのような職員はおりませんがどうされましたか?」
「実は……」
受付のお姉さん(30代の美人。秘書タイプ)に事情を話す。
「商業ギルドに関してはこちら側でできることはありません。念の為に報告書を作成し情報の共有化をする程度となります」
そこはまあ仕方ないのだろうな。
「ゴブリンの襲撃はギルドとしても気になります。一昨日もドルテス行きの荷馬車が襲われ護衛が亡くなっておりますので。
倒されたという魔法を使う個体と強い個体を見せて頂けませんか?」
「構いませんよ」
解体場に行き魔法ゴブと強敵(とも)ゴブを出す
「ゴブリンシャーマンにホブゴブリンじゃねぇか。よく倒せたな」
「ゴブリンですが売れます?」
「どっちも研究とか死霊術に利用するから高く買い取るぞ」
「珍しいのでとっときます」
「死体集めに嵌るなよ~」
今のところスキルツリーに死霊術はないが、もし生えた時の為にとっとくだけだから!
受付に戻り最後にギルドカードを提示する。
「ツトム様。城から出頭命令が出ております」
「え?」
ルルカと合流し宿に向かう。
「ツトムさ、んギルドで何かありましたか?」
「とりあえず部屋を取ろう」
ギルドから程近い宿屋に入る。
「ギルドで俺に対して城から出頭命令が出てることを告げられた」
「まさか商業ギルドが?」
「タイミングとしては早すぎる気がしないではないが、ゴトス(商業ギルド長)が俺達のとこに来た時既に城に伝令を走らせていたなら不可能ではないな」
しかしここまでの手を打つのだろうか?
こちらは具体的な金額すら提示してないのに……いや、金銭の問題ではないな。ゴブリンの襲撃そのものをなかったことにしたいのだ。
意図的に襲わせている? 魔物を操ることはできないのにそんなことは……誘導することなら可能か? あの辺りにゴブリンを集めておけば勝手に道を通る馬車や人を襲うだろう。
だとしても何の目的でそんなことをする?
「いかが致しましょう?」
「どの道出頭命令には従う他ない」
確か主が死ぬと奴隷紋が消えて自由になれるのだったか。
もちろんむざむざとやられるつもりはないし、いざ戦闘になっても魔盾を集中的に練習したおかげで簡単には攻撃は喰らわない。そこそこの抵抗は可能だろう。
だが、敵の懐に飛び込む以上やれることはやっておくべきだろう。
「ルルカにはこの金を渡しておく」
「!! こんな大金!?」
200万ルクあれば大抵のことが可能だろう。
「いいか。足の奴隷紋と城の方を注意して見てるように。奴隷紋が消えたり城の方で騒ぎや爆発音がしたら迷わず冒険者ギルドに行き護衛を雇って東のメルクに行くんだ。そこから御両親を頼ってコートダールに行くといい」
「そ、そんなことできない!」
「王都のティリアさんのとこには行くなよ? 却って迷惑を掛けるかもしれん。コートダールで落ち着いたら手紙で事情を説明するといい」
「私の話も聞いて!!」
ルルカを抱きしめる。
「短い間だったけどルルカと過ごせて本当に良かったと思っている。金は気にしないでいい。どの道相続させる家族も知り合いもいないから」
「ダメです! 私まだなにも……」
「命令だ」
「そんな……」
宿を出て城に向かう。何か忘れてるような気がしながら……
…
……
…………
俺の名はツトム。15歳。日本では30歳だった異世界転移者だ。
現在非常にピンチに陥っている。
なぜなら……
城からの出頭命令はなんてことなかったからだ!
緊急招集の時の猿とオーガを倒した土槍(回転)を教えて欲しいってだけだったよ。
あんな悲壮な別れ方をしてどんな顔して戻れというのか。
『大した用事じゃなかったよ~てへぺろw』
うん、無理だ。
しかも! 万が一に備えてって言い忘れた気がするよ!
あれじゃあまるで俺が城で軍相手に一戦交えに行くと誤解されないか? とんだ無謀野郎だ。
ちょっぴり興が乗ってしまった一面も無きにしも非ずだし。
落ち着け。ルルカは俺よりも大人な女性だ。内心、
『このクソガキは何大げさに言っちゃってんの? バカなの? 死ぬの? むしろ死ね!』
とか思ってるかもしれん。いやそれはそれで嫌なんだけど……
案外ボロボロの恰好をして軍と一戦交えた振りでもして帰ればお芝居として付き合ってくれるか?
う~ん。ルルカは性格的には真面目だしこの手は悪手な気がする。
やはりここは正直に何でもなかったと言うべきだろう。というか他に選択肢など最初からないのだ。
恐る恐る宿の部屋のドアを開ける。
すぐさまルルカが飛びついてきた。
「実は城で」
「なんであんなこと言ったのですか!」
「あれは万が一の為の用心で……」
「そんなこと関係ありません!」
ルルカを優しく抱きしめる。
「城での要件は大したことじゃなかったよ」
「あんな言い方しなくても……」
「ほ、ほら。バルーカに戻っていきなり商業ギルドで一悶着あって続けざまの出頭命令だったから混乱しちゃったのかも?」
「全部話してください」
「全部?」
「お城であったこと全部です」
涙目で見つめてくるルルカは可愛いなぁ。
「ツトムさん?」
「わ、わかった。とりあえずベッドで寝ながら話そう」
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