第18話

 間違いなく魔物の中ではこれまでで一番の強敵だった。


 斬り合い時に腕と足を浅くではあるが斬られている。


 王都のギルドで鬼と模擬戦をしていなければどうなっていたか。

 もし鬼(獣人ランテス)と再会することがあったら一杯奢らねばなるまい。

 もっともこっち(異世界)に来てから酒を飲んだことはないが。


 強敵と書いて『○○』と呼ぶべき存在に敬意を表してこいつの剣を使わせてもらおう。

 決して、良い武器ゲットしたぜ! ラッキー、などとは思っていない。



 自分に回復魔法を掛け死体を収納しながら馬車に戻る。


 4頭の馬のうち2頭が重症で残りの2頭も傷を負っていた。

 それぞれに回復魔法を掛けるが重症だった2頭はまた馬車を曳くのは厳しそうだ。


「これ俺には報酬か何かないのか?」


 車体の陰に隠れていた御者に聞く。


「し、知らない。乗合馬車は商業ギルドが管轄してるのでギルドで聞いて欲しい」


 俺が乗ってなければ何人か犠牲者が出てたと思うし報酬ぐらい期待してもいいのではないだろうか?


 結局馬車は2頭で曳くようで、問題の2頭は車体の後ろに繋いでついてこさせるようだ。

 速度がかなり落ちるみたいだが、あとちょっとだしな。



「あの、ツトムさ、んは魔術士なのですよね?」


「そうだけど?」


「槍や剣で戦っていらしたようですが?」


「魔法でも倒してたの見てなかった?」


「見ておりましたが」


「そういやいつからかゴブリンは主に槍で倒すようにしているな。どうしてだろう?」


「私に聞かれましても……」


「ふむ。そろそろ次の段階であるオークにも近接戦を仕掛ける時期に来てるのかもしれないな。良い剣もゲットできたことだし」


「ツトムさ、んは魔術士なのですか?」


 最初の問いとは若干違う聞き方に幾分バカにされてる感じがしたがもちろん俺の気のせいだろう。



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-バルーカ城の会議室にて-


「冒険者の調査結果を聞こう」


 本日の出席者は、

 この地を治めるエルスト・グレドール伯爵

 王国軍から第2騎士団長カール・ゲルテス男爵

 帝国からの援軍白鳳騎士団長エルカリーゼ・フォン・ビグラム子爵

 そしてこの前は不在だった伯爵領軍のトップであるカダット・ロイター子爵


 それぞれ副官が後ろに控えており、壁際には役人達が座っている。



「ハッ。あの日支援の第1陣に参加した冒険者のうち1名を除いて他全ての調査が完了し該当者はなしという結論に至りました」


 グレドール伯爵の副官が応答する。


「漏れや見落としはないか?」


「魔術士以外の弓士も慎重に調査し、バルーカにいない者は念入りに周囲に聞き取りしましたので間違いありません」


「では残りの1人ということになるのか?」


「その者の名はツトム。10日ほど前にギルドに登録した見習い冒険者でございます」


「見習いだと!?」


 室内がざわつく。


「静まれ。他国者や魔術研究をしてた者が新規に登録すれば見習いということもあろう」


「それが……、その者の歳は15でギルド職員によりますと年齢を偽ってる様子はないとのこと」


「とりあえず続きを聞こう」


「ハッ。その者は毎日大量の魔物の死体を売却し、1週間で60万ルクほど稼いでおります」


「60万!?」


「15歳の見習いがあり得んだろう!」


「私の月の俸禄より多いのだが……」


 再び室内がざわつく。


「ギルドは不審に思うことはなかったのか?」


「依頼を受けるでなく解体場にだけ卸しに来てたそうで、解体場の者もどこか高い等級のPTに拾われたものと思い込んでたようです」


「そのように考えるのが妥当か。

 支援の際の様子はわかるか?」


「はい。見習いということで同行していたギルド職員に帯同するよう言われ、遺体を収容した後に崩れた土塁を抜けてきたゴブリンを槍で倒し、側面から襲撃してきたゴブリンを20体ほど魔法で一掃しております」


「なんと……」


「魔術士が槍?」


「その後乱戦の中でギルド職員とはぐれたようですが、目撃者によりますと土塁の上からファイアボールを放っていたとのこと」


「火属性なら違うのではないか?」


「いえ、ギルド解体場の者から土属性である証言は得ております。それとこれは未確認情報なのですが……」


「なんだ?」


「第一陣の冒険者を運んだ馬車で負傷者が後送されたのですが、多くの者が馬車に運ばれる前に回復魔法を受けたと言い、現地で看護していた者も半数は危険な状態だったはずなのに馬車に乗せる際には回復していたと。時間的にその者が遺体を収容してた頃合いのことでございます。

 そして戦闘後に負傷者と共に馬車で城内に戻り遺体を仮安置所に全て並べ、その足で壁外ギルドで王都行の護衛依頼を受け翌朝出立しております。調査結果は以上であります」


「あとはもうそのツトムとやらに直接聞くよりあるまい。そのように手配してくれ。念の為に城内のギルドにも通達しておけよ」


「ハッ。かしこまりました」




「バルーカに戻ってきますでしょうか?」


 ビグラム子爵の言にロイター子爵が応じる


「王都やドルテスあたりではゴブリンぐらいしかおりませんからな。腕に覚えがあるなら南(対魔族の前線)には来るでしょう。

 ただ……」


「如何なさいましたか?」


「いえ、魔族側が新種の魔物を戦場に投入したのと同じタイミングで未知の魔術士が現れたのが気になりまして……

 もちろん報告された冒険者が例の魔法を放ったと仮定した上でのことですが」


「私達の預かり知らぬとこで何かが起こってる…………、ということですか」


「杞憂ならばよいのですが……」


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 バルーカで馬車を降りた俺達は商業ギルドの受付で事情を話し応接室に通された。


 しばらくより少し長めに待たされて1人の男が入室してくる。


「私はゴトス。ここのギルド長をしている」


「冒険者のツトムです」


「ルルカと申します」


「なんでも乗合馬車がゴブリンの襲撃を受けたとか?」


「ええ」


「こちらで確認したところそのような事実はなかった」


「は?」


「なので君達が要求している報酬とやらを支払う義務はこちらにはない」


「傷ついた馬車や馬達がいるはずですが?」


「何年も使っていれば傷付くこともあろう」


「本気……いや、正気ですか?」


「もちろんだとも。君達は自分の身を心配したらどうだ?」


「どういうことです?」


「当たり前じゃないかね。君達は商業ギルドに対して詐欺行為を仕掛けようとしていたのだよ?」


 ギルドの息の掛かった御者を黙らせることはできても乗客までは無理だろうに。

 一体こいつは何を考えているのだろうか?


「ルルカ行こう」

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