第9話
その後に2商会6台の荷馬車が合流し計10台となる。
新しく合流したほうに護衛はいなく、何事もなかったら3つの商会で護衛費を分割負担するそうだ。
その何事はほぼ魔物の襲撃で、物語でよくある盗賊団なんてものはなく、小国家群で活動している傭兵団がたまに盗賊行為をするぐらいだそうだ。
魔物はオークとゴブリン、夜に犬と狼が襲ってくるらしい。
朝からずっと歩き続けて疲れが濃くなる頃合いでようやく昼休憩だ。
回復魔法を使ってみるが、体力回復の効果はなさそうだ。
午後もずっと歩きなのは変わらず素直に乗り合い馬車で王都に行けば良かったと後悔する。
夕方に野営の準備を始める。
3つの商会はまとめて食事を準備してるみたいだ。
俺はシチューとパンである。
他の3人が物欲しそうな目を向けてくるが分けてはやらん!
夜間の見張りはくじ引きで決め、最初の見張りをゲットする。
翌日も歩き尽くし夕方にバルーカの北にある街ドルテスに到着する。
ドルテスはバルーカと違いぐるっと城壁の周囲を街に囲まれている。
ルドリー商会の人が宿屋で4人部屋(相部屋)を手配してくれた。
本来ならこの街の奴隷商を覗きたかったがそんな気力はなかった。
翌朝、朝食食べてすぐ出発する。
初日に距離を稼いでおけば早ければ明日の昼に王都に着けるのだそうだ。
昼過ぎ頃に地図(強化型)に反応があった。
左の森から20近く向かってきている。
獣人が敵襲の合図をしてきた。
まだ距離があるのに優秀だな。
森から出てきたのはゴブリンだった。
自己紹介時に魔法士と名乗っているので1体だけ魔法で倒す。
後は槍を持ち実戦での魔盾の練習である。
複数の攻撃を魔盾で防いだり、
魔盾で打撃を与えたり(シールドバッシュ的な)、
他に行こうとするゴブリンの邪魔をしたり、
魔盾の囲いに閉じ込めてみたり、
その間に一体ずつ確実に倒していく。
周囲を見ると、獣人は4体倒してこちらに来ようとしてるのでそれを手で制し、最後の一体を倒す。
男女2人のPTは苦戦してるようだ。2体は倒したが2vs3であり女のほうは負傷してるみたいだ。
見物しててもなんなんで商会の人に先に行くよう言い、倒したゴブリンを回収する。
獣人に獣人が倒したゴブリンを貰っていいか尋ねると、
「構わないがあれは助けないでいいのか?」
「自分は見習いなんでよくわかりません、戦ってるのただのゴブリンですよね?」
「そのはずなんだが……」
仕方ないから声を掛けよう。
「あのー、先行くんで荷物置いておきましょうか?」
「た、頼む助けてくれ!」
あ、ヤバそう。
慌てて魔盾を展開して男と女をガードする。
ゴブリンがこちらに襲ってくるまで待って倒していく。
お前たちはそこの男女には勝ってたぞ。
男女は全身切り傷と打撲でまともに動けそうもない。
「とりあえず荷物置いて、商隊の人に聞いてきますね」
荷物を出してルドリー商会の人に事情を話す。
「こちらとしては保護する責任はないけど」
「例えばあの2人に運賃を請求するとか?」
「そうだね、そうしよう!」
なんか儲けられるとなったら途端にやる気に。
その日の見張りは2人なのできつかったが、翌日の昼過ぎに三重城壁の巨大な都市に辿り着いた。
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-バルーカ城の会議室にて-
「では改めて報告を聞こうか」
バルーカの地を治めるエルスト・グレドール伯爵は向かいに座る第2騎士団長カール・ゲルテス男爵に昨日の南の砦陥落に関する詳細な報告を求めた。
ゲルテス男爵の両隣には同じく砦に派遣されていたバルーカ守備隊の指揮官とグラバラス帝国から援軍に赴いてる白鳳騎士団の中で直接砦に派遣されてた部隊の指揮官が座り、その隣に白鳳騎士団長エルカリーゼ・フォン・ビグラム子爵が座っている。
砦とその駐留軍の指揮権はゲルテス男爵にあったので男爵が報告しなければならない。
本来このような重大案件の報告は王都に戻って国王に直に報告すべきなのだが、砦を失った以上このバルーカが最前線になり、依然として第2騎士団は防衛戦力の中核である。そんな大事な戦力の指揮官を王都に向かわす訳にはいかないので伯爵が書簡にて取りまとめて王都に送るのである。
…
……
…………
「……砦に投石攻撃を繰り返すオーガに対して数度の魔法攻撃を行うも、新種の猿の魔物のマジックシールドに阻まれたことで砦の放棄を決断か……」
「ハッ」
「例えばだが、オーガに対して突撃による直接攻撃を行うことはできなかったのか?」
「出来るか出来ないかで言うのなら出来たでしょう。しかし仮に首尾良くオーガを討ち取れたとしても突撃した部隊の何割が砦に戻って来られるか……、砦とオーガの間には無数の魔物が行く手を塞いでおりますれば」
「放棄の決断は已む無しか……
ゲルテス男爵誤解するなよ、あらゆる角度から検証し分析して次の戦いに備えなければならん」
「ハッ、心得ております」
「負け戦にも関わらず僅かな犠牲者のみで退却できたのはゲルテス男爵の早期の決断のおかげかと」
ここでビグラム子爵がゲルテス男爵を擁護する。
なにせ優先的に撤退させてもらった帝国軍は犠牲者が出ておらず、ゲルテス男爵が責められる流れは都合が悪い。
「わかっております。
次に本来であれば撤退戦の評価に移りたいのだが……」
グレドール伯爵はため息と共に窓の外にある訓練場を見る。
「あれの存在ですわね」
訓練場には2体のオーガと猿の死体が置かれている。
無論ツトムが倒した個体である。
「結局誰が例の魔法を放ったのかわからないのか?」
「様々な魔法が飛び交う中でほとんどの者がオーガを見ておりましたので、あの状況でオーガから目を離すことができるのはよほどの大物か単なるバカかと」
これはバルーカ守備隊指揮官の発言である。
「帝国のほうはいかがですかな? 撤退戦では数名の魔術士が参加して八面六臂の活躍をされたとか。ひょっとするとその中に高位の魔術士がおられたりは?」
「その全員に聞き取りをし念入りに調査もしたのですが該当する者はおりません」
「そうなると残りは支援に来た冒険者の中におるということになりますな」
と言いつつも伯爵は帝国軍が問題の魔術士を秘匿している可能性は捨ててない。
王国と帝国は同盟関係にあるもののその立場は大きく異なる。
帝国内部では年々向上する武器の性能や戦術、魔法技術を鑑みていずれは帝国のみで大陸南を制覇可能になるから、南部3国は時間稼ぎの為に利用するに留めて無理に守る必要はないという過激論が近年急速に拡大しているという。
幸いにも皇帝はじめ国のトップは慎重論で固まっており短期に国策の変更はない。
つまり伯爵は帝国軍が過激論に油を注がぬよう配慮したのではないかと疑ったのだ。
「冒険者ギルドのほうはどうなっておる?」
側に控えていた副官が書類を出し、
「緊急招集に応じたもののリストから魔術士に絞って調査していますが既にこの街を離れた者も多く難航しております」
「上位の等級の冒険者を最優先で調査せよ」
「かしこまりました」
「次にあそこにある死体に関する調査だが」
「それについては私から」
ゲルテス男爵が手を挙げる。
「麾下の魔術士長と帝国軍にも協力して頂き検分致したところ、使われた魔法は土系統のものだと判明致しました。
こちらはオーガの体内に残っていたものです」
テーブルに土槍を置いた。
「サンドアローでしょうか? それにしては少し小さいような……」
「恐らくマジックシールドを貫通する際に削れたのではないかと」
「それで高威力の理由は?」
「残念ながら不明です。いくら魔力を高めてサンドアローを放ってもオーガを傷付けるのが限界という結論に至りました」
「あとは冒険者の調査結果に一縷の望みを託すしかないのか」
マジックシールドの対処案ができるまでは枕を高くして眠れる日は来ないだろう。
伯爵は内心ため息をついた。
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