第7話
「お客様の品であれば間違いなく多数のお貴族様が興味を示されるかと」
「バルーカにも貴族はいるのでは?」
「おりますが、王都と比べるとどうしても……
それにこの地を治められてるグレドール伯も軍事畑のお方で服飾に興味を示されませんし」
「どのぐらい落札価格が違ってくる?」
「ギルド員として曖昧な予測で価格を申し上げることはできません。
ただ私個人の見解を申し上げれば、最低でも2倍、落札者次第で3倍もあり得ましょう」
そんなに違ってくるなら王都に行くか。
「よろしければ王都のギルド宛に紹介状をお書きしましょうか?」
「頼む」
「かしこまりました。しばらくお待ちください」
王都の奴隷商にも行くべきだろう。
「お待たせしました、こちらが紹介状でございます」
「すまないな。ここで出品しないのに紹介状までもらって」
「お気になさらずに。お客様の品が高額で落札されれば橋渡しした私の評価にもなりますので」
商業ギルドだけにそこら辺はきっちりしてるな。
「王都まではどのぐらいで行ける?」
「北門から乗り合い馬車が出てますよ。王都までは2日です」
「早速行ってみよう」
「お気を付けて」
北門の広場の一角に馬車の集まるスペースがあり王都行とその手前の街ドルテス行があるようだ。王都行はドルテス経由である。
運賃を聞くと王都まで2万ルクとのことでどうしようかと悩んでいると
カン!カン!カン!カン!カン!カン!カン!カン!
と鐘の音が鳴り響き辺りが騒然としてきた。
「緊急招集だ!!」
誰だかわからない声(おそらく冒険者なのだろう)にハッとしギルドに向かう。
近くに冒険者ギルドがあるのかもしれないがわからないので、北門を抜けて壁外ギルドに向かう。
ギルド入り口では職員が、
「魔術士と弓士の方はこちらの馬車にお乗りください!
その他の方は南門に集合してください! 北門でギルドカードを提示すれば通行料は免除されますので」
指示通り馬車に乗る。
すぐ満員になり(両サイドだけではなく中央のスペースにも床に座らせる形で人を詰め込む文字通りの満員)馬車が動き出す。
周囲から漏れ聞こえる話では南の砦に魔物が襲来してきたので援軍に向かうらしい。
緊急招集を告げる鐘の音が鳴り響く城内を抜け、鐘の音が聞こえなくなるとギルド職員らしき30代の男性が立ち上がった。
「みんな聞け。
私の名前はギリアス。ギルド職員で弓士だ。この馬車のまとめ役ではあるがきちんと部隊編成してる訳ではないので、現場では騎士団や他のギルド職員の指示に臨機応変に従うように」
皆無言で頷いている。場慣れしてる感じだ。
自分以外にも見習いはいないだろうか?
「既に聞いてる奴もいるかと思うが魔物の攻勢によって南の砦が陥落した」
え!?
砦はもう落ちたのか……
自分以外にも動揺している様子が伝わってくる。
「現在砦から退却した駐留軍により撤退戦が行われている。
砦にいた非戦闘員は駐留軍より前に撤退を開始したので、既に魔物の追撃が届かない地点に到達してバルーカに向かっている。もう少ししたらすれ違うはずだ」
ギリアスは一旦話を止めて俺達を見回してから、
「今回の支援の目的は撤退戦を展開している駐留軍の被害を抑え無事にバルーカに退却させることである。
現場では土魔術士が簡易な土塁を構築して防衛戦を行っていると思われるので、到着したら高所に移動して即攻撃を行ってもらいたい。
状況説明は以上だが何か質問はあるか?」
「敵の構成は?」
「オーク主体でオーガも混ざってるようだ」
「駐留軍の戦力、特に魔力の残量は大丈夫なのか?」
「砦から退却する判断が早かったのでそれなりに撤退戦を行えるとのことだった。
………………他に質問はないか?
なければこれからリストを作成するので各自ギルドカードを提示するように」
それぞれ銀色の正規のギルドカードを提示していく。
注意深く見ていたが見習いはいないようだ。
自分の番が来たので黒カードを提示する。
案の定リストを作成していたギリアスの腕が止まる。
「見習いか……
見習いは無理に参加する必要はないのだが……」
え?
「登録する際に緊急招集への参加は見習いでも義務で怠ると厳罰が下るって」
「規則ではそうなんだが現場では見習いと7等級の若者は無理をさせない方針なんだよ。
緊急招集の鐘が鳴ったら遅れて来るよう年少者には指導してるのだが…………そう言えば見かけない顔だな、登録はいつだ? 訓練場に来た事はあるか?」
訓練場で指導を受けられるのか。武器関連はきちんとした指導を受けたほうが良いのかもしれん。
「登録は1週間ほど前で訓練場には行ったことありません」
ヤバイ、周囲から白い目で見られてる雰囲気だ。
「魔法と弓どっちが使えるんだ? 見たところ丸腰だしまさか武器も持たずに……」
収納から槍を出し、
「武器持ってます! 魔法使えます!」
段々と悪くなる周囲の空気に耐えられずギリアスの語尾に被せるように答えた。
「魔術士で槍持ち? デタラメだがきちんとした指導を受けてないとこうなるものなのか??」
なんか自分が変人扱いされてるような……
「しかも見習いが使うにしては良い槍だし、大体魔術士がこんな良い槍を持つ必要があるのか??」
槍にまで文句を言われているし。
素人が扱うには剣よりもリーチのある槍で間違いないと思うが。
周囲の空気も微妙な感じに変化している。
「まあいい、おまえは俺の後をピッタリ付いてこい、いいな」
「ハイ!」
くそう、完全に子供扱いお荷物扱いをするつもりだな。
まるでホーヴ〇ス軍曹に張り付くよう命令されたア〇ム伍長のようではないか。
周りの視線も「こんな子供が背伸びをして」みたいな生暖かいモノになってるし!
この国は15歳で成人なのだがどうも子供扱いされることが多い。
見てろよ、経験の違いが戦力の決定的差ではないということを教えてやる!
某赤い人風に意気込んでみたが、他の魔術士や弓士の実力がわからないのでこちらが教えてもらいたいぐらいだったりする。
そもそも正規冒険者が戦ってるのを見たことがない。
せいぜい壁外区の北で見習いが兎相手に戦ってるのを見かけるぐらいだ。
なんとなく一人前の魔術士クラスの実力はあるだろうと考えていたが、中堅クラスがLv6~Lv7級の魔法を自在に使いこなすようなら自分なんてまだまだ初心者である。
自分自身のレベルは15で、MMORPGなら一次転職もまだで初期村でウロウロしてる頃である。
つかこれ初めてのPTイベントじゃないか? しかも大規模PT。
なんかワクワクしてきたな!!
しばらくして馬車が止まった。
魔物の咆哮や断末魔、炸裂音と怒号が飛び交い、馬車が止まった両サイドには負傷者が横たわりうめき声を上げている。
馬車に乗ってた冒険者達は土塁に向かっていったがギリアスに付いてくるよう言われている自分は所在がない。
そのギリアスは中年の騎士みたいな人と話してるので、この隙に負傷者に回復魔法を試してみよう。
他人に回復魔法を掛けるのは初めてで面と向かってはハードルが高いので、範囲魔法を試みてみる。
2回ほど失敗して3回目に成功した感触があったのだが、どの程度の効果があったのかわからない。
気持ちうめき声が少なくなったような気がする。
ステータスを見ると回復魔法がLv3に上がっており魔力を300以上消費していた。
範囲回復の魔力消費は1回100ちょいみたいだ。
「オイ、ツトムと言ったか」
「はい」
「あそこにある遺体を収納して欲しい。できるだけ家族の元に還したいのだ」
「わかりました」
布を被せてる遺体が100以上ある。
顔の部分だけ布をずらして目が閉じてるのを確認してから収納していく。
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