第1章 初めての冒険者生活編 [見習い冒険者]

第1話

 城壁に沿って北門に向かって歩いていくとチラホラ右手の家並みの中に店が混ざりだしてきた。

 家の前に簡易な台を置いて食べ物を売ってたり、食堂らしき店や雑貨を扱ってる店もある。

 食関連は文無し空腹の身には匂いが辛い……


 北門から北に伸びる道は東門の道と同じく幅広く歩きやすく整備されてる。

 その道の両側にしっかりとした造りの2階建ての店舗が並んでいる。

 この中に異世界定番の超組織『冒険者ギルド』があるといいのだが……

 自力で探せるかわからないので人に聞くことにする。

 ちょうど近くにいる10歳ぐらいの女の子に、


「ちょっといい?」


「なにー?」


「冒険者ギルドの場所わかる?」


「あそこだよー」


 指を指しながら答えてくれた。

 すぐそこだった。


「ありがとうね」


「はーい」


 幼女に手を振って指示された建物に向かう。

 現代日本なら完全に事案だが異世界だから大丈夫!



 さぁ!

 異世界あるあるのギルドイベントである。

 日本から来た異世界人は必ずと言っていいほど絡まれ、

 チート持ちなら絡んで来た男達を軽く蹴散らす定番イベントである。

 自分にはチートがないので絡まれてもひたすら耐えねばならない。


 ドキドキしながら西部劇の酒場によくある両開きの上下に空きのあるドアを押して入っていく。

 中には3人しかいなく所在なさげに椅子に座っており、

 受付の向こうでは職員らしき数人が何やら事務仕事をしている。

 受付のお姉さんのとこに行くと、


「本日はどのような用件でしょうか?」


「冒険者に登録したいのですが」


「新規登録には500ルクの登録手数料がかかりますがよろしいですか?」


 ここでも金取るのかー


「金持ってないです」


 今度も正直に言ってみる。


「手数料が払えないと登録はできません」


 なんらかの救済措置も無さそうな感じだ。


「あの、魔物の死体は売れますか?」


「素材の買い取りは本来ギルドに登録しないとできないのですが、今回は事情が事情ですので特例として許可します」


 なんとかなりそうだ!


「この紙をあちらの買い取り受付に出してください」


「わかりました」


 買い取りコーナーにはイカツイ男が座っていたが、


「聞こえてたぞ、この時間は人が少ないからな。何の素材だ?」


 紙を受け取りながら聞いてくる。


「犬4匹と兎5匹です」


「収納魔法持ちか?」


「はい」


「ついてこい」


 男は受付の横の通路の奥にある扉を開ける。


「しかし収納魔法持っていてなんで無一文なんだ?」


「登録料が必要なの知らなくてお金全部なくして……」


 微妙に嘘ではないぞ、たぶんだけど……


「金は大事だから余裕持って使わなきゃな!」


 いい感じに誤解してくれたようだ。


 扉の外は2階まで吹き抜けになっていて上には簡単な屋根が付いている。

 台の上に死体を乗せて解体作業をしている人が5人。

 かなりのスピードで作業している。

 何かのスキルだろうか?


「ここに出してくれ」 


 解体場の魔物の死体が積み上げられてるそばに犬と兎を出す。


「兎は1匹700ルク、犬は1匹50ルクで3,700ルクだ」


 大きい銀貨3枚と小さい銀貨7枚渡された。


「犬は極端に安いですね」


「兎……、ホーンラビットは角が素材として肉が食用として需要がある。

 犬は森犬と言うのだが、家畜のエサか肥料ぐらいにしかならんので安いのだ」


「そうなんですか」


「今度からはここに直接卸しに来い、城壁側の道から直接ここまで来れる。 

 ギルド内の受付は解体済みの素材のみ買い取り可能だ」


「わかりました」


「ゴブリンやネズミは買い取りしないから注意しろよ」


「はい」


「ゴブリンの上位種なら買い取るがおまえが戦っても死ぬだけだから出会ったら即逃げろ」


「気を付けます!」


 ゴブリンとも対峙する時が近そうだ。




 解体場からギルド内に戻りさっきのお姉さんに話しかける。


「買い取り終わりました」


 小さい銀貨5枚出す。


「確かに、それではこちらの用紙に御記入お願いします」


 氏名・年齢・職か……

 氏名はフルネームは避けるべきか?

 苗字持ちは貴族とかなんとかあるだろうか?

 とりあえず名前だけで他も記入して……


「ツトム様・15歳・魔法職で間違いありませんか?」


「はい」


「ではこちらのカードをお持ちください」


 黒い鉄製の小さなカードを渡された。


「それは見習い冒険者専用のギルドカードです」


「見習いですか?」


「はい、登録したばかりの新人は見習い冒険者として1ヶ月間の試用期間があります。この試用期間中は7等級の依頼を受けることができます。

 1ヶ月後に正式に7等級冒険者に昇格しますのでその際に先ほどのギルドカードを返却してください。正規のギルドカードを発行します。

 なお、見習いのギルドカードは500ルク、正規のギルドカードは5,000ルクの再発行手数料がかかりますので紛失しないようにご注意ください」


「わかりました」


「冒険者には7等級から1等級までの階級があり、1等級の上に銀級・金級の特別枠があります。上を目指して頑張ってください」


「階級を上げるメリットはなんでしょう?」


「高額報酬の依頼を受けられるのと指名依頼が来やすくなります。あと一般的に上の等級のほうが信頼度が高いので様々な面で活動しやすくなります」


「なるほど」


「街中で鐘が鳴るのを聞いたら即ギルドに出頭してください。緊急事態が発生してますので出頭は義務となります。

 見習いでも免除されませんので注意してください。意図的なサボタージュには厳罰が課せられますので」


「厳しいですね」


「冒険者は国家が認めてる正式な武力集団ですので相応の規律が求められます。さきの緊急招集はもちろん、国やその地固有の法に背いても一般人より厳しく処分されます」


「冒険者は荒くれ者の稼業みたいな印象がありましたが違う感じなのでしょうか?」


「本質的にはそのイメージ通りかと思います、気性が激しい方も多いですし。

 ただ、ここ20年ほどでギルド内で改革が進み昔のようなならず者の集団ではなくなってます。悪しき体質を取り除いたと申しましょうか」


 その取り除いた悪い体質とやらは盗賊稼業にでも鞍替えしたのだろうか?

 あまり突っ込んで聞くと不審がられるか。

 別のことを聞こう。


「ギルドカードは別の場所でも有効でしょうか?」


「見習いのカードはどこでも使えます、どこに行こうが見習いは見習いですので。

 正規のギルドカードはここ『バルーカギルド壁外区域出張所』でしか使えません。他でも使用する際はそのギルド毎に登録してください」


「長いギルド名ですね」


「冒険者も職員も大体『壁外ギルド』と略してます。『バルーカギルド』なら大概壁内のギルドのことですので注意してくださいね」


「わかりました」


 ステータスやスキルのことを聞きたいのだけどどうなんだろう?

 まだ異世界生活1日目、何もかも知ろうとするのは自重すべきか。


「見習いが泊まれる安く安全な宿はありますか?」


「ギルドが特定の宿を斡旋することはできません。ただ一般論で良ければ多少の案内は可能ですが?」


「よろしくお願いします」


「わかりました。

 この壁外区域は北門から北へ伸びる大通りを起軸に西に歓楽街や倉庫区画、東に住宅街となっております。宿は区域全体に点在しておりますが東側は高級宿が多く西にいくほど安価な宿になる傾向があります。

 見習い冒険者の方は大通りを北にしばらく行ったところにある宿群に宿泊される人が多いようです」


「探してみます、最後に鍛冶屋はどこにありますか?」


「鍛冶屋はそこの大通りを北に行き2本目の脇道を右に曲がりしばらく歩くとありますよ」


「ありがとうございました!」

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