第25戦記 古の歌姫

 地球の人々がかりそめの平和な日々を過ごす裏側で動き出しているのは、機甲十字軍やブラディスト教団だけではなかった。


 宇宙連邦政府もまた、あらゆる脅威に対抗するため極秘裏にを進めていた。




【新太平洋 ポイント・ネモ】


 ここは新太平洋にあるポイント・ネモ。ニュージーランドとチリの間、南緯48度52分5秒、西経123度23分6秒に位置する地球上で最も陸地から遠い海である。


 そこで近年、海底遺跡が発見され、宇宙連邦政府主導の元、海底発掘調査が行われていた。


政府軍高官「調査隊A−2023、状況を報告せよ」


調査隊員A「こちら調査隊A−2023、ポイント・ネモ、水深3600 mに到達。もうじき目標地点へ到着します」


政府軍高官「そのまま調査及び、の回収に移れ」


調査隊員A「了解」


 調査隊員たちはダイバースーツを装着し、発掘調査の準備を始めた。



調査隊員B「本当に真っ暗だな」


調査隊員C「ポイント・ネモ…、かつては海の砂漠、到達不能極とうたつふのうきょくと呼ばれただけのことはあるな」


調査隊員A「赤外線ライトを照らしてみろ」


調査隊員D「な…、何だあれは…⁉︎」


 調査隊員たちが赤外線ライトで辺りを照らすと、そこには巨大な海底ピラミッドがあった。


調査隊員B「海底ピラミッド…、こんなものがあったとはな…」


調査隊員C「よし、行くぞ」


 調査隊員たちは潜水艇で海底ピラミッドに近づき、そこから入り口へ向かった。


調査隊員D「入り口にバリアが張られているぞ‼︎」


調査隊員A「解除できそうか?」


調査隊員D「ああ…、やってみる」


 調査隊員は入力装置でパスコードを解析・入力し、バリアを解除して海底ピラミッドの内部へ侵入した。



調査隊員B「強固なバリアのおかげで内部は浸水していないようだ。それに酸素もある」


調査隊員C「内部構造はエジプトのピラミッドに似ているが、何か関係があるのか?」


調査隊員A「さあな…、そこまではまだ…」


調査隊員D「生体反応をキャッチしたぞ‼︎ こっちだ‼︎」


 調査隊員たちは生体反応がする方へ向かい、長い階段を降りて棺がある部屋へたどり着いた。


 部屋の中の柱や壁画には見たこともない絵や文字がびっしりと描かれていた。



調査隊員B「この棺の中にが眠っているのか」


調査隊員C「そのってのは、一体何だ?」


調査隊員A「旧世界よりはるか昔に栄えた超古代文明の王国、「レムリア王国おうこく」の王妃と「ムー帝国ていこく」の王の間に生まれた王女らしい。

 その王女がこの棺の形をした冷凍睡眠装置の中で眠っているのさ」


調査隊員D「レムリア王国とムー帝国…、「アトランティス帝国ていこく」と並ぶ幻の三つの文明の王国だな」


調査隊員A「そうだな…、棺を開けるぞ…」


 調査隊員たちが棺を開けると、そこにはピンク色の髪をした美しい少女が眠っていた。お淑やかでもの静かそうな16歳くらいの少女が、静かに目を瞑って冷凍保存されている。


 きらびやかな宝飾を施された薄いピンク色の王族の服を身にまとい、前髪には宝石をはめられた髪飾りをつけている。前髪は綺麗に揃っており、今風で言うところのショートボブヘアーだ。


調査隊員B「この少女が…、なのか?」

 

調査隊員A「そうだ、名前は「レムル・ムー」と言うそうだ」


調査隊員C「レムル・ムー…⁉︎ 政府や軍の上層部が血眼になって探し求めている少女…⁉︎」


調査隊員D「しかし何故、政府や軍の上層部はレムル・ムーを…⁉︎」


調査隊員A「レムリア王国とムー帝国の超科学力を手に入れる鍵だからだろう。それと俺も詳しいことは知らんが、政府や軍が極秘裏に進めている「超越兵士計画ちょうえつへいしけいかく」に大きく関わるらしい」


調査隊員B「超越兵士計画…⁉︎ 人間のした、人間をはるかに超える力を持つ兵士を人工的に作り出すという計画か…⁉︎」


調査隊員C「「超越兵士ちょうえつへいし」が作り出されれば、劣勢を強いられている軍もギャラクシア・ヴァース帝国との戦いを一気に優勢に覆せる…‼︎」


調査隊員D「だが、そんな計画が実行されれば…‼︎」


調査隊員A「おっと…、それ以上は口出し厳禁だ…‼︎ 政府や軍の上層部に会話を聞かれていらマズいことになる。生体を回収して戻るぞ‼︎


 こちら調査隊A−2023、生体を無事回収しました。これより基地に戻ります」


政府軍高官「ご苦労。冷凍保存状態を維持したまま厳重に運べ」


調査隊員A「了解。」


 調査隊員たちは通信を終えると、生体の冷凍保存状態を維持したまま厳重に潜水艇へ運び、基地へ帰還した。




【スタン・ハーバード研究所】


 ここはアメリカ合衆国にある「スタン・ハーバード研究所けんきゅうじょ」。


 旧世界で超難関大学として知られ、世界中から天才が集まり最先端の研究を行なっていた、「スタンフォード大学だいがく」・「ハーバード大学だいがく」を建て直した「ニュースタンフォード大学だいがく」・「ニューハーバード大学だいがく」の二つの大学が資金を捻出し合って建てたのが、この研究所である。


 この研究所は宇宙連邦政府の管理下にあり、最先端の科学や医療、アーマード・ギアや科学兵器などを研究・開発している。


 だが裏では生物兵器や大量殺戮兵器の開発、未知の生命体やテクノロジーの研究や超越兵士の生体実験などが行われており、それらは決して表沙汰になることはない。


 政府と軍の関係者は今、海底ピラミッドから運び出したレムルをコールドスリープから、解凍する作業をしているところだった。


政府軍兵A「冷凍睡眠装置を解除するスイッチが、見当たりませんね」


政府軍兵B「身体の表面を強力なバリアのようなものが覆っていて、触れることさえできません」


 兵士たちがレムルを解凍しようと冷凍睡眠装置を念入りに調べている。


科学者「特殊なパスコードでも必要なのか…?」


 科学者の老人が手を顎に当てながらうつむいている。


 この科学者の名前は「エドモンド・アイザック」。「アルクトゥルス星人せいじん」で宇宙連邦政府の優秀な科学者であり、スタン・ハーバード研究所の責任者も務めている。


※エドモンド・アイザック=アイザックと略。


アイザック「いかがなされますか…、ハリーマン特将…?」


 アイザックの側には長身でダンディ、紳士的な雰囲気の宇宙連邦政府軍の将校がいた。


 この男の名前は「ハリーマン・トルーパー」。階級は特務准将、アメリカ人である。


※ハリーマン・トルーパー=以下、ハリーマンと略。


ハリーマン「もしや…⁉︎ 「ジャーンのしょ」を出してくれ‼︎」


政府軍兵C「はっ‼︎」


 ハリーマンが指示をすると兵士は、「レムリア大陸たいりく」・「ムー大陸たいりく」・「アトランティス大陸たいりく」の伝説が記された古文書の写本を取り出した。


ハリーマン「終末の章、第33節を読んでみてくれ」


政府軍兵C「読み上げます…。


 海の砂漠の底へと沈んだ金字塔に眠る、レムリア王妃とムー王より生まれし古の歌姫…。悠久なる時を経て、アトランティスより蒼星の瞳を持つ星の帝が現れた時…、古の歌姫は白き光とともに蘇らん…。以上です」


ハリーマン「そうか…」


アイザック「何か分りましたか?」


ハリーマン「博士、封印を解く鍵を握るのは「星帝陛下せいていへいか」だ‼︎」


アイザック「左様な言い伝え…、にわかに信じ難いですが…」


ハリーマン「博士、この冷凍睡眠装置には失われた言語「センザール」でコールドスリープを解くパスコードが設定されている。そのパスコードを解除できるのは、星帝陛下だけだ」


アイザック「はぁ…」


ハリーマン「陛下をお連れして正解だった。お前たち、陛下をここへお連れするのだ‼︎」


政府軍兵たち「はっ‼︎」


 兵士二人が研究室の入り口の奥からライトイエローの短髪の美男子を連れて来た。


 この男の名前は「シャルル・ド・アトランディア」。かつて旧世界で栄えたアトランティス帝国を治めていたアトランディア王家の末裔にして、宇宙連邦政府の代表である現星帝陛下だ。


 凛とした美しいたたずまいで、瞳は蒼く星のように輝いている。


※シャルル・ド・アトランディア=以下、シャルルと略。


シャルル「……………」


ハリーマン「陛下、こちらへどうぞ」


 シャルルが研究室に入ると、兵士たちは頭を下げて道を開けた。


ハリーマン「陛下、古の歌姫の封印を解く時です。宇宙の平和と調和のためにも」


シャルル「古の歌姫…。王家の言い伝えにある、レムリア王国の王妃「レム・フローリア」とムー帝国の王「ラ・ムー」の娘…」


 シャルルはレムルが眠る冷凍睡眠装置に近づき、右手をかざした。すると青白く光る古代文字が現れた。


 シャルルは古代文字を読み始めた。



シャルル「オン…、レム…、ラ…、ムー…、トピア…、ユー…、ソワカ…、アクセプティア…。


 古の歌姫…、レムル・ムー‼︎ アトランディアの名の元に…、愛と平和と調和のため…、今…、久遠の眠りから解き放つ‼︎」



 シャルルが呪文を唱え終わると冷凍睡眠装置が解除され、辺りは白い光に包まれた。


政府軍兵たち「うおぉ…‼︎」


アイザック「何が起こるのだ⁉︎」


ハリーマン「フッ…」


 白い光が消えると、レムルが目を開けゆっくりと起き上がった。



レムル「……………」


ハリーマン「成功したか…」


アイザック「言い伝えは本当だったのか…⁉︎」


 レムルはしばらくの間ボーッとしたまま辺りを見渡していたが、シャルルと目が合うとゆっくりと落ち着いた口調で話し始めた。


レムル「あなたが…、わたくしを眠りから解き放って下さったのですね…?」


シャルル「そうだが…」


レムル「お初にお目にかかります。わたくしは、レムル・ムー。

 レムリア王国の王妃レム・フローリアと、ムー帝国の王ラ・ムーの娘でございます」


シャルル「某はシャルル・ド・アトランディア。かつてアトランティス帝国を統治していたアトランディア王家の末裔だ」


レムル「シャルル・ド・アトランディア様…、素敵なお名前ですわね」


シャルル「レムル…、某が恐くないのか…?」


 シャルルがそう言うと、レムルはニッコリと微笑んだ。


レムル「フフッ…、そんなことはありませんわ。シャルル様はとても優しいお方。わたくしには分かりますわ」


シャルル「レムル…。

 (レムル・ムー…、何という健気で邪気のない、可憐で美しい少女なのだ…)」


 シャルルは少し顔を赤らめていた。


ハリーマン「陛下、レムル王女、お二方のための場所をご用意させていただいております。私たちがただいまからご案内いたします。

 お前たち、陛下とレムル王女を「シップ・ギア」、「アーセナル・スワン」で王宮まで護衛するのだ」


政府軍兵たち「はっ‼︎ 陛下、レムル王女、我らが護衛いたします‼︎」


ハリーマン「調の方は頼んだぞ…」


アイザック「お任せを…」


 ハリーマンはレムルたちを連れて研究室から出る前、アイザックに耳打ちをした。



 星帝シャルルの呪文によって、恒久の眠りから目覚めた王女レムル。シャルルはその純白で可憐な姿に一目惚れをしてしまった。


 レムルの存在が大きなを握る超越兵士計画とは、一体どのようなものなのだろうか?




【次回予告】


ナレーション:シャルル・ド・アトランディア


 某は星帝シャルル・ド・アトランディア。星帝とは言っても、政治の象徴のようなものにしかすぎんがな。


 ミア・沙羅・シュナイダーも、大和悠理たちも戦いのない平和な時を過ごしているようだ。


 このまま平和な時が続けばいいのだが、長くは持たんであろう。


 レムルよ…、宇宙の民よ‼︎ 某は愛と平和と調和ため、この身と心をそなたらに捧げるぞ‼︎


 次回、宇宙創戦記XTENTION‼︎


 【第26戦記 ひとときの平穏】


 と言う話らしい。某も楽しみにしている。

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