第5戦記 かりそめの平和

【????】


 物音一つ聞こえない真っ暗な空間。


 その中央にある球体が緑色に光ると、床の下からスーッと、老人たちの立体映像が現れた。


老人A「ついにの時が来るか…」


老人B「触れてはならぬ…」


老人C「へ導いた…、忌まわしき…‼︎」


老人D「だが…、見方を変えれば全宇宙の生命の最後の希望…、「ノアの方舟はこぶね」…‼︎」


老人E「我らも急がねばならぬ…。「最後さいご審判しんぱん」が訪れる前に…‼︎」


 会話が終わると、老人たちの立体映像はスーッと床に戻って消えていき、中央の球体の光も消えた。




【小笠原シータウン】


 時刻は夕方18時頃。


 新東京都の小笠原諸島沖に建てられた海上都市、「小笠原おがさわらシータウン」では、観光客たちが春休み最後の休日を過ごしていた。


カップル女性「ねえねえ、あの店にしない?」


カップル男性「そうだな」



男性客A「明日からまた仕事かぁ…」


男性客B「新入社員も入ってきて当分の間は忙しくなるな…」


男性客C「でもその分、可愛い新入社員の女の子と仲良くなれるチャンスじゃないか‼︎ 最後の休みを思いっきり楽しもうぜ‼︎」


 そんな平和な街の中に突然、サイレンが鳴り響いた。



「ヴゥゥゥゥゥゥゥゥー‼︎」



アナウンス「緊急事態発生‼︎ 緊急事態発生‼︎ レーダーに所属不明機を確認‼︎ 住民は直ちに避難して下さい‼︎」



女性住民「キャアァァァァァ‼︎」


男性住民「何なんだ、あのロボットは⁉︎」


 住民や観光客たちが大騒ぎしながら逃げ惑う中、1年前の所属不明機墜落事故で発見されたものと同タイプの機甲十字軍のパンツァーカイルが複数、上空を通り過ぎた。



政府軍兵A「レーダーが所属不明機をキャッチ‼︎」


政府軍兵B「あのアーマード・ギアはどこのものだ⁉︎」


政府軍兵C「解析完了‼︎ 1年前、新東京都内に墜落した所属不明機と同タイプのものだ‼︎」


政府軍兵B「よし、スクランブル発進だ‼︎ 迎え撃て‼︎」


 パンツァーカイルに向かって、宇宙連邦政府軍の主力量産機「スチュアート」が複数飛んだ。



政府軍兵D「そこの所属不明機、止まれ‼︎ 立ち止まり所属と名前を言え‼︎

 この警告を無視した場合、交戦の意志があるものと見なし、攻撃を開始する‼︎」


 機甲十字軍は立ち止まることなく飛行を続けた。


政府軍兵D「警告を無視したな‼︎ 「宇宙治安維持法うちゅうちあんいじほう」違反により、これより攻撃を開始する‼︎ 前方の所属不明機に集中砲火を浴びせろ‼︎」


 宇宙連邦政府軍の兵士たちは、パンツァーカイルへプラズマライフルやミサイルランチャー、プラズマバルカンを一斉に放ち、集中砲火を浴びせた。


「ドガァァァァァン‼︎」


政府軍兵E「やったか…⁉︎」


政府軍兵D「バ、バカな…⁉︎ うわぁぁぁぁぁ‼︎」


政府軍兵E「くそぉ…、脱出だ‼︎」


 宇宙連邦政府軍の兵士たちが安堵したのも束の間、爆煙の中からパンツァーカイルが現れ、スチュアートに向けてプラズマライフルを放ち、動力部に被弾させ全て撃墜した。


十字軍兵「師団長コマンデュール、こちら第13機甲師団。第一警戒網を突破した。これより目標地点へ急行する」



ミア「分かった…、私もそちらへ向かう。作戦は明日決行…、それまでは待機だ。」


十字軍兵「了解フェアアインシュタンデン‼︎」


マネージャー「ミア、そろそろ時間だ」


ミア「すぐ行く…」


 ミアは表向きでは、大人気ファッションモデルとして活動している。


 ミアはスパイ用映像電話付き情報端末、「n Phone《エヌフォン》」で機甲十字軍の兵士との会話を済ませると、楽屋を出て撮影に向かった。


 ちょうど超大手ファッション誌、「WiWi《ウィウィ》」の夏物の撮影をしているところだった。



 同じ頃、世間ではこんなニュースが流れた。



女性アナウンサー「本日、地球エリア日本時間にして午後18時頃、新東京都の小笠原シータウン上空にて、1年前、新東京都新江東区お台場地区に墜落した所属不明機と同タイプと思われるアーマード・ギアを複数、宇宙連邦政府軍の防空レーダーがキャッチしました。


 所属不明機は軍の警告を無視し、軍は宇宙治安維持法違反により所属不明機へ発砲し交戦状態となりましたが、所属不明機は軍のアーマード・ギアを全て撃墜し、第一警戒網を突破して日本本土へ向けて飛び去っていったとのことです。


 軍では引き続き、この所属不明機の行方を追っています。


 では、次のニュースですが………」




【天越学園】


 翌日、日本では春休みが終わり、進学や就職で新生活をスタートさせる若者たちで賑わっていた。


 刻一刻と大戦争の波が迫ろうとしている中、先日の事件がまるで他人事であるかのように若者たちはみな、平和な日常を謳歌している。


男子生徒A「いよいよ高校生活がスタートだぜ‼︎」


男子生徒B「かわい子ちゃんたちと付き合って、バラ色の青春時代にするぞー‼︎」



女子生徒A「ねぇねぇ、「明星みょうじょう中学」の「藤之宮優一郎ふじのみやゆういちろう」くんも天越学園に入学したらしいわよ」


女子生徒B「えーっ‼︎ 私彼の大ファンなの‼︎」



 ここは、新東京都新中野区にある私立高校「天越学園あまごえがくえん」。校庭では、6人の男女の生徒が会話をしていた。


 6人の男女の生徒たちの名前はそれぞれ、


 茶髪でイケメンの「北村拓哉きたむらたくや


 パーマがかかったショートヘアのイケメンの「浪川陸翔なみかわりくと


 寡黙なイケメンの「真田浩樹さなだひろき


 小柄でメガネをかけたオタクの「秋葉昇太あきばしょうた


 しっかり者で明るい美少女の「海堂亜里沙かいどうありさ


 長身でマイペースな美少女の「宮里玲みやざとれい


 以上の6人である。


 この6人は中学時代から仲が良く、新東京都立「稲田中学校いなだちゅうがっこう」からの付き合いである。


※以下6名、北村拓哉=拓哉、浪川陸翔=陸翔、真田浩樹=浩樹、秋葉昇太=昇太、海堂亜里沙=亜里沙、宮里玲=玲と略。


拓哉「いよいよ俺たちのバラ色の青春が始まるぜ」


浩樹「まあ、拓哉は内申点も入試もギリギリの合格だったがな」


拓哉「ギクッ…‼︎ それを言うなよ‼︎」


亜里沙「浩樹の言う通りよ、少しは勉強の方も頑張りなさい。じゃないと留年しちゃうわよ」


拓哉「分かってるよ。中学時代からの仲良しグループみんなで一緒に入学できたんだから、気楽にやろうぜ」


陸翔「しっかし、いくら青春が始まるからといって、みんな平和ボケしすぎだよなぁ…。1年前のアーマード・ギアが、先日現れたばかりだってのに」


昇太「ロボット好きの僕は、思わずオタクの血が騒いだなあ」


玲「あれだよねー、1年前にお台場に墜落したってヤツ。そのあとどっかに消えちゃったんだってね。宇宙連邦政府軍が倒してくれたんじゃないの?」


拓哉「かもな」


陸翔「それに宇宙連邦政府軍はギャラクシア・ヴァース帝国と第三次宇宙大戦の真っ最中で、三日前の戦闘ではラニアケア超銀河団の防衛網が破られたらしいぜ。


 魔光牙だって、いつ現れるか分からないってのによ」


浩樹「確かに、俺たちも油断はできんな」


拓哉「大丈夫だろ⁉︎ 地球までは攻めて来れないだろうし、何が来たって宇宙連邦政府軍が倒してくれるさ‼︎」


亜里沙「そうよ‼︎ 魔光牙は今まで全部、宇宙連邦政府軍が倒してきたし、第二次宇宙大戦だって勝ったんだから、きっとまた勝つわ‼︎」


玲「私たち一般人が考えてても仕方ないよね。それよりさ、また中学みたいにみんな一緒のクラスになれるといいね」


昇太「そうだね。ハッ………⁉︎ ガビ〜〜〜ン…‼︎」


拓哉「どうした? 昇太」


昇太「「Space Girls369《スペースガールズミロク》」、略してSGL369《エスジーエルミロク》の僕の推しメン「皇麻里奈すめらぎまりな」こと「まり〜な」‼︎


 今日はその、まり〜なの新ユニット「アンドロメダまでかけぬけたい」の1stシングル、「わたしをアンドロメダまでつれてって♡」の発売日だった〜‼︎


 予約するの忘れてた〜‼︎」


 昇太は落ち込んでその場にひざまづいた。


拓哉「まあまあ昇太…、そう落ち込むなよ。通常盤買えばいいじゃねえか」


昇太「初回限定盤じゃなきゃダメなんだ〜‼︎ 初回限定盤には握手券だけじゃなくて、まり〜なの限定チェキに加えて、直筆ポストカードが付いて来るんだ〜‼︎

 ああ…、僕のまり〜な…」


亜里沙「ほんと昇太は、アイドル好きね」


拓哉「俺はセクシーでグラマラスな人気急上昇中の大人気グラビアアイドル、「華園明日美はなぞのあすみ」が好きだな。あれは世の男の夢だよな〜」


陸翔「俺はクール&ビューティーな大人気ファッションモデルのミア・沙羅・シュナイダー。あのスラリとした長身、くびれたウエストにヒップラインが最高なんだよな」


亜里沙「ミアと華園明日美は世の女性の憧れよね。それにミアって最近、「スペースハリウッド」からオファーがかかってるらしいわね」


玲「らしいね。私もこの身長でミアや華園明日美ぐらいバストがあったら、スタイル抜群なのに」


浩樹「俺は、水泳地球代表の健康的美少女…、ツンデレで可愛すぎる水泳選手こと「杏花きょうか・E《イー》・ティアー」が好きだ…。

 強気で素っ気ない感じとは裏腹に、ふと見せる可愛い笑顔が…、それに………」


 浩樹は恥ずかしそうに顔を赤らめている。


玲「ん…⁉︎ 浩樹、顔が赤くなってるよ」


浩樹「つい、彼女の水着姿と引き締まったボディーラインを想像してしまった…」


玲「アハハッ‼︎ 浩樹かわいー‼︎ 浩樹ってツンデレ系がタイプなんだね」


昇太「ちなみに、僕はまり〜な一推しだけど、最近は二推しで大人気若手小説家の「雪月萌ゆきつきもえ」ちゃんもいいと思うんだよなー」


玲「私たちと同い年で、「もえりんッ」っていうペンネームで活動してるよね。確かに、お人形さんみたいで可愛いよねー」


昇太「そうそう‼︎ 昨日、「UV TUBE《ユーブイチューブ》」で配信されてた萌ちゃんの新著、「まれわったらちょうイケメンだったけんについて…。」のインタビュー動画を見たんだけど、その時の萌ちゃんは小さくて、お人形さんみたいに可愛くて、思わず萌えちゃったよ‼︎


 雪のような髪をなびかせる萌ちゃんはまるで、月明かりに照らされた天使のようだ‼︎ でさ、僕今度萌ちゃんの直筆サイン入りの新著を………」


 さっきまで落ち込んでいた昇太が、目をキラキラと輝かせながら雪月萌を熱く語っている。


拓哉「お…、おい、昇太…⁉︎」


陸翔「やれやれ、また始まったか…」


浩樹「昇太は好きなものを熱く語り出すと止まらんからな…」


亜里沙「もう、みんな女性のタイプが理想的すぎて一般人の私たちが自信なくしちゃうわ」


玲「本当」


拓哉「だけどよ、もし彼女たちがこの学校に来るなんてことになったら、毎日が楽しくて最高なんだろうな」


陸翔「いやぁ、いくら天越学園が有名人御用達の高校でも、あそこまでのレベルになったら、わざわざこんなところまで勉強しに来ねぇだろう」


 6人は、そんな何気ない、ありふれた日常の会話をしながら校舎の中へ入っていった。



 大戦争の波が押し寄せる中、かりそめの平和を満喫する人々。


 このあと起こる、に巻き込まれることなど、今の6人は知る由もなかった。




【次回予告】


ナレーション:雪月萌ゆきつきもえ


 あたし萌。名前だけでも覚えといて。


 平和っていいよね。のんびりと好きなことができてさ。


 だけどそんな平和な日常を脅かす汚い大人たちって、いつでもどこでも現れて本当に面倒くさいよね。


 は〜あぁ〜、嫌になっちゃう。


 次回、宇宙創戦記XTENTION‼︎


 【第6戦記 渦巻く陰謀】


 って言うお話らしいよ。楽しみにしとけば?

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