第4戦記 影の住人

 第三次宇宙大戦が勃発。宇宙には激震が走り、人類は未曾有の危機を迎えた。


 だがそんな危機をものともせず、むしろ好機と捉えて暗躍する者たちも存在した。


 宇宙では、戦争に便乗し、戦争を私利私欲のために利用する者たちの声が、細々とこだまし合っているのであった。




【第三ターミナル・コア 深部】


 宇宙連邦政府軍の月面要塞サムターで演説が行われていた頃、南極を拠点とする機甲十字軍が不穏な動きを見せていた…。


 「第三だいさんターミナル・コア」の深部、そこには巨大なロボットの顔のようなモニュメントがあり、額に当たる部分には巨大な緑色に輝く液体で満たされた培養槽があった。


 培養槽の中には、一人のがチューブのたくさんつながった生命維持装置を取り付けられた状態で安らかな表情をして眠っている。


 目の前には、Dr.エビルとその助手を務める科学者が立っていた。


「ゴポゴポゴポゴポ………」


 不気味に静まり返る薄暗い空間の中、培養槽の中の緑色に輝く液体が音を立てる。


 次の瞬間、の右目に取り付けられた装置が作動し、同時にがカッと目を見開いた。すると、モニュメントの目が怪しく赤い光を放った。


科学者「おおっ…⁉︎」


Dr.エビル「フフフ…、ついにするか…」


 科学者は驚いて目を見開き、Dr.エビルは仮面の下で不適に笑った。


Dr.エビル「地上での所属不明機墜落事故から約1年…、事故の衝撃でに取り付けた超小型監視映像発信機の映像が途切れ、の居場所は見失ったが、に成功したようだな…」


科学者「いかがなさいますか、Dr.エビル?」


Dr.エビル「の足取りとの居場所は掴んだ…、手始めにを向かわせることにしよう…」


科学者「………、あのハーケンローゼスの中でもエリート中のエリートの兵士である、「ハーケンローゼス13人衆にんしゅう」の「くろ凶星きょうせい」…、ミア・沙羅さら・シュナイダーをですか…⁉︎」


「コツ、コツ、コツ、コツ…。」


 暗闇から靴の音が鳴り響いて近づき、Dr.エビルと科学者の後ろから長身で黒いパイロットスーツを身にまとった金髪のロングヘアーをした美しい女性が現れた。


 彼女の名前は、黒い凶星こと「ミア・沙羅さら・シュナイダー」。ハーケンローゼス13人衆の一人だ。


※ミア・沙羅・シュナイダー=以下、ミアと略。


ミア「……………」


Dr.エビル「じきにも動き出す頃であろう…。我らのを発動させる日も近いぞ…。フハハハハ…、フハハハハハハハ………」


ミア「……………」


 Dr.エビルの不気味な笑いがこだまする中、ミアは無言でじっとモノリスを見つめていた。




【ブラディアル大聖堂】


 ここは「ブラディアル大聖堂だいせいどう」。そこでは、異形の神々を信奉するカルト宗教団体、「ブラディスト教団きょうだん」が世間の目を離れて密かに活動していた。


 大聖堂の中は中世ヨーロッパの宗教施設を彷彿させる造りになっており、所々にある壁画やタペストリー、シャンデリアや天井近くにあるステンドグラスには異形の怪物や神々など、気味の悪いものがかたどられている。


 その大聖堂の儀式の間にある異形の神々をかたどった銅像の前で、赤い十字架のマークが入ったフード付きの黒いローブに身を包んだ教団員たちが集まり、両サイドに一列に並んで儀式を行っていた。


※ブラディスト教団員=以下、B・D教団員と略。


B・D教団員たち「エル、ブラ、ディカ、ステス‼︎ エル、ブラ、ディカ、ステス‼︎ エル、ブラ、ディカ、ステス‼︎ エル、ブラ、ディカ、ステス‼︎……………」


 儀式の間は薄暗く不気味な雰囲気を醸し出しており、銅像の前の床には大きな方陣が彫られ、方陣の周りを髑髏の燭台が円陣を描くように並んでいる。


 儀式の間の入り口から誰かがやって来た。


男「放せテメェら、何する気だコラァ‼︎ 俺を誰だと思ってやがんだぁ‼︎」


 チンピラ風の柄の悪い男が、二人の教団員に両腕を掴まれて連れて来られた。その男は、強盗殺人で指名手配中の「小倉克彦おぐらかつひこ」という男であった。


 小倉が方陣の中央まで連れて来られると、儀式の間の入り口から大柄で、宝石のたくさん付いた黒と白のローブを身にまとった、不気味な仮面を付けた老人が現れた。


 その老人は、先端に異様な形の角の生えた髑髏の付いた杖を右手に持ち、左手には赤い奇妙な模様が描かれた十字架を持っていた。


 老人の名は「暗黒大司教あんこくだいしきょうブラドス」。ブラディスト教団の教祖である。


※暗黒大司教ブラドス=以下、ブラドスと略。


ブラドス「儀式を始めよう…。エル、ブラ、ディカ、ステス‼︎


 「聖血せいけつなる神々かみがみ」よ…‼︎ この罪深き者…、「死血しけつなるもの」に「聖血せいけつ断罪だんざい」を…‼︎」


B・D教団員たち「エル、ブラ、ディカ、ステス‼︎ エル、ブラ、ディカ、ステス‼︎ エル、ブラ、ディカ、ステス‼︎ エル、ブラ、ディカ、ステス‼︎……………。」


小倉「お、おい…⁉︎ 何をする気だ…⁉︎」


 教団員が小倉に迫り、大鎌を振り上げた。


小倉「ひぃぃぃぃ…‼︎ やめろ、やめろぉぉぉ…‼︎ 俺はまだ死にたくねぇ…‼︎ ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…‼︎」


 小倉は教団員に大鎌で首を跳ねられ、殺されてしまった。方陣には小倉の血液が滲み、綺麗に方陣の溝に沿って赤い不気味な陣を描いた。


B・D教団員たち「エル、ブラ、ディカ、ステス‼︎」


 教団員の祈りが一斉に止み、儀式の間はしんと静まり返った。


ブラドス「喜べ…、死血なる者よ。貴様の血肉は聖血なる神々の贄となり、魂は「血浄けつじょう」され、美しき新たな世界へと生まれ変わることができるのだ…。」


 ブラドスは仮面の下でニヤリと、不気味な薄ら笑いを浮かべた。


ブラドス「フフフ…、の時は近い…。皆の者よ、我らも行くぞ‼︎ 我らの悲願、「血浄けつじょうなる世界せかい」の実現のために‼︎」


B・D教団員たち「エル、ブラドス‼︎」


 教団員たちの声が儀式の間に響き渡る中、一人だけ俯いて不安そうな口元を見せるの教団員の姿があった。




【反宇宙連邦政府レジスタンス組織 REVARSE本部】


 宇宙連邦政府は、旧星間連邦政府の時代から今も変わらず地球至上主義を掲げ、異星人や地球圏外に住む者たちを軽視し、宇宙連邦政府に反抗する者や不都合な者への激しい弾圧を行ってきた。


 そんな宇宙連邦政府に対して、地球圏外の人類や異星人たちは怒りを爆発させ、「反宇宙連邦政府はんうちゅうれんぽうせいふレジスタンス組織そしき REVARSE《リヴァース》」を結成した。


 火星には、REVARSEの本部があり、このあたりの宙域では特にレジスタンス活動が激しく繰り広げられている。


レジスタンス「みんな、聞いてくれ‼︎ ついにこの時がやって来た‼︎


 俺たちは今まで、宇宙連邦政府によって長年苦しめられてきた。戦いに次ぐ戦いの日々の中で多くの同志を失った。だが、そんな辛く悲しい日々ももうおわりだ‼︎


 未曾有の大混乱で宇宙連邦政府の守りが手薄になった今が、奴らを倒すチャンスだ‼︎ 俺たちの手で、この宇宙に愛と自由と平和を取り戻そうじゃないか‼︎


 そのために、まずは「革命かくめいともしび」を見つけるんだ‼︎


 ギャラクシア・ヴァース帝国が…、魔光牙が…、謎のアーマード・ギアが何だ‼︎ 俺たちにあるのは勝利だけだ‼︎ リメンバー・アース‼︎」


レジスタンスたち「リメンバー・アース‼︎ リメンバー・アース‼︎ リメンバー・アース‼︎ リメンバー・アース‼︎ リメンバー・アース‼︎……………。」


 レジスタンスたちの熱い叫びが、暗い宇宙にこだまするように響いてゆく。




【星龍會アジト】


 未曾有の大混乱に乗じたのは、レジスタンスだけではなかった。


 機甲暴力団、スペースマフィア、宇宙海賊といったスペースアウトロー集団も、宇宙連邦政府の影響力が弱まったのを好機と見て、虎視眈々と漁夫の利を得ようと暗躍していた。


 その代表格は、


 「宙域指定機甲暴力団ちゅういきしていきこうぼうりょくだん 星龍會せいりゅうかい」。


宇宙犯罪結社うちゅうはんざいけっしゃワルディ・シンジケート」。


宇宙海賊うちゅうかいぞくカルバリアだん」。


 といった組織であり、宇宙で違法なアーマード・ギアやエネルギー物質の取り引きや輸送艦を襲撃してアーマード・ギアや金品を奪うなどの犯罪行為を繰り返している。


 上記三つの犯罪組織は、裏社会ではとして知られ宇宙に巨大なシンジケートを築き、数々の犯罪組織を傘下として従え勢力争いを繰り広げている。


 その内の一つ星龍會は、地球と火星の間にあるアステロイドベルト付近にアジトを構えていた。



星龍會幹部A「会長、ワシらも動きますか…⁉︎」


 星侠せいきょうと書かれた掛け軸をバックに、黒い和服に丸坊主の髪型、顔に切り傷のある威圧感のあるが机に座っている。

 その男の名前は、星龍會七代目会長「星川辰夫ほしかわたつお」だ。


※星川辰夫=以下、辰夫と略。


辰夫「いや…、今はもう少し様子を見よう…」


星龍會幹部B「しかし、会長‼︎ 宇宙連邦政府の力が弱まった今が、一気に勢力を広げるチャンスですぜ‼︎」


辰夫「アホンダラ‼︎ イキリやがって…、宇宙連邦政府を舐めるな‼︎」


星龍會幹部B「すんません、会長…」


辰夫「威勢ばかりよけりゃいいってもんじゃねぇ…。下手に動けば宇宙連邦政府に目をつけられる。そうなれば、に一瞬で消されるぞ…‼︎


 それに、ワルディや宇宙海賊との星争いもある。ここは、あのに恩でも売って力を蓄えておくか」


星龍會幹部A「分かりました。段取りはワシらに任せて下さい」


辰夫「頼んだぞ」




【衛星エウロパ】


 木星のエウロパを拠点とする、宇宙犯罪結社ワルディ・シンジケートのボス、「ワルディ・バッドマン」もスペースマフィアたちを率いて動きを見せていた。


スペースマフィア「ボス‼︎ 星龍會の奴らが地球へ向かうようですぜ‼︎」


 深緑のスーツを着て、葉巻きを咥えた強面の男が足を組んで深く椅子に座っていた。この男は、ワルディ・シンジケートのボス「ワルディ・バッドマン」だ。


※ワルディ・バッドマン=以下、ワルディと略。


ワルディ「例のの件もある…。俺たちも宇宙連邦政府や星龍會、宇宙海賊どもの様子を少し見ながら地球へ向かうとしよう…」




【宇宙海賊船スターダスト・サーベル号】


 宇宙海賊カルバリア団が所有する「宇宙海賊船うちゅうかいぞくせんスターダスト・サーベルごう」のブリッジにて、機械仕掛けの眼帯を右目に装着し、様々な武器に変化する万能フックを左腕に取り付けた船長の「カルディ・バリアス」と船員が会話していた。


※宇宙海賊カルバリア団船員=以下、C・V船員と略。


C・V船員「キャプテン‼︎ 宇宙連邦政府の監視が弱まった今が、1年前地球で見つかったすげえアーマード・ギアを手に入れるチャンスだぜ‼︎」


※カルディ・バリアス=以下、カルディと略。


カルディ「フフフ…、夢とロマンに溢れてるじゃないか…。野郎ども、地球へ向けて出航だ‼︎」


C・V船員たち「おおおおおおおお‼︎」



 大戦争の影でそれぞれの目的のために動き出す影の住人たち。彼らは虎視淡々とこの好機を伺っていた。


 だが、これが混沌カオス破滅カタストロフへの導きであることは、誰も気づかなかった。




【次回予告】


ナレーション:皇麻里奈すめらぎまりな


 お待たせいたした皆の衆‼︎ 拙者がまり〜なこと、皇麻里奈であるぞ‼︎ 以後お見知り置きを‼︎


 第三次宇宙大戦が勃発し、それに便乗する悪党たちが現れる中、地球に住む人類たちはいつも通りの平和な日常を過ごしているそうな。


 とは言え平和であることが一番でござるからね。拙者も早く1日でも早く平和にあることを祈っておるぞ‼︎


 次回、宇宙創戦記XTENTION‼︎


 【第5戦記 かりそめの平和】


 と言う、お話でござる‼︎乞うご期待くだされ〜‼︎

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