第18話 称号:『真を知る者 ダアト』
シンジが立ち去るのを幕切れと解釈したのか、ギャラリーから謎の拍手が沸き上がった。
ルナが上目使いで頬を赤らめながら俺の瞳を覗き込んでくる。
「その、迷惑かけてゴメンね」
そんな言われ方をすれば許せない訳ないだろうに。やはり美人は得だな。
だがそのまま言えるはずもなく、俺は夕日で煌めく川面を眺めながら答えた。
「いいさ。仕返しはしたからな」
「……痛み分けでしょ? ボクのせいで80万Gも失っちゃったし」
「俺の損失は構わない。それに、そろそろアイツも気づいているんじゃないか? 自分のした最大の失敗に」
この一件で祭りの直営店は経営が厳しくなるだろう。俺がわざわざ探偵の真似ごとをしてまでシンジの思考を説明したのはギャラリーに『祭り』の直営店へ行くとカモられる危険がありますよ、と悪評を広める意味も大きい。
悪い噂ほど迅速に広まるというのは古今東西の真理だから、80万Gなんて話にならないほどの損害だろう。
俺の含みのある言い方が伝わらなかったのか、ルナはぽかんと口を開けていたが、そんな様子姿すら絵になると思ってしまった。
そう俺が完勝した余韻に浸っていると、突然目の前が真っ白く塗りつぶされた。
気付けば、俺は白い空間にいた。
一度深呼吸して思考をリセットする。
すると、どこからか懐かしい声が聞えてきた。
「ふふ。お久しぶりですね、将暉さん」
無限に続く白に数字が渦を巻いて現れ、人の形を形成していく。
腰まで流れる淡い桃色の髪に完全に左右対称の整った顔立ち。十代の顔立ちに浮かぶその薄い唇とドレスのような着物からは対峙した人物を自分に取り込むような空恐ろしさすら覚える。そんな現実世界では絶対に存在しない美を纏った少女がそこに存在していた。
俺が呆然と立ち尽くしているとその少女は頬を膨らまして拗ねたように言う。
「せっかくの再会なのに連れないですね。とはいえ時間も無いことですし、積るお話はまた今度にしましょう」
そう言って少女はどこからか扇子を広げるとその一つに指をあてて目を閉じる。その仕草は見る者を魅了する舞のようであった。
少女の動作を合図に段重ねになっている扇子の一枚が空中に舞い上がり、俺の下へ飛んでくる。
「それは私からの贈り物であり招待状です。聖稜館でお待ちしていますね」
その声と共に意識が薄れ、再び目の前が空白に染まった。
聖稜館という単語だけが強く耳に残っていた。
一瞬の出来事だった。視界が戻ると目の前には先ほどと変わらない川が流れており、横にはルナが嬉しそうに俺を見ている。すると、空中にウィンドウが表れた。
[限定称号:真を知る者 ダアト を獲得しました]
「どうしたの?」
そう言ってルナが俺の横から覗き込んでくる。そして、その内容を見た瞬間、あっと何故か嬉しそうな、驚いたような声を漏らした。
「これって……」
「称号とはなんだ?」
「えーと、あっちで話そっか」
そう言われるがまま、俺達はギャラリーから逃げるように適当に足を進めた。
今のは何だったのだろうか。それにあの少女は一体。
一つ言えるのは、俺をここへ招いた人物ではないということだ。
いつも通り、右手に握りこぶしを作り、息を吹き込むが情報が足りないのか、何も視えない。
俺は、今は諦めてルナとの会話に専念することにした。
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