第4話 答え合わせ

 何やら騒がしい集団を見送った後、人垣の隙間から詰将棋を解きにかかる。あのボクっ子が言った「二十三手」というのが本当かどうか気になったというのもあるが、情報を集めるためにも手っ取り早く資金を獲得したいという実に現金な理由も大きかった。


 ……そして更に数分。俺の棋力では早くも限界が来ていた。偶然にも少女の指摘したブランクという言い訳と、もう少しマシなネーミングはなかったのかという二重の現実逃避へ思考もシフトしている。


 先程試してみたところ、WSCにおける詰将棋の回答方法は比較的直観的なものだった。


 まず問題を見ていると虚空に[問題を解く]というポップが表示される。そしてそれを押すと手元に小さな詰将棋の表示されたウィンドウが現れるので、あとは操作するだけだ。


 ちなみに相手玉は自動で操作され、十秒以内に次の手を動かさなければ強制的に失敗になる仕様だった。


 そうこうしている間に、最初から挑んでいた人も飽き始めたのか徐々に人も減ってきた。


 諦めて次の行き先を考えながら固いコンクリートの地面を無意味に蹴り始めた頃、ピロンという正解を告げる音が響いた。滴を落としたように騒めきが広がる。


 やや距離はあるが正解者であろう白いフードで顔を完全に隠したプレイヤーとその周囲の人の会話が耳に届いてきた。


「それで何手だったんだ?」


「十七手ですよ」


 爽やかな少年の声が響く。


 ……違うのだが、あのボクっ子。やはり適当に言っていたか。


 俺は何故か安堵しながらもゆっくりと足を進め始める。無意識にそのまま耳を立てていた。


「あーやっぱり。それで当たってたのかよ。俺も押せばよかったぜ」


 空々しい野次馬の発言。一部の将棋指しはこうやって見えを張りたがる傾向にあるが、おそらくその類だろう。このような行為は実際に解けた側からすると努力を否定されたようで不快だ。慣れてくれば負け犬の遠吠えくらいにしか思わないのだが。


 勝手に懐古じみた共感に浸っていると唐突に白フードが笑い出した。


「ふふっ」


「何が可笑しい?」


「十七では無いですよ」


 見えを張った男の顔が引きつり、白フードを睨みつけた。


 おお。いい性格をしているな、あいつ。


 俺も昔使った手口だが、道場で何度かやっていると一定の割合で泣きだす子供がいて、大人げないことをするなと怒られたものだった。


 当時は俺も小学生だったはずなのに……。


 再度くだらない懐古に浸って苦笑いを浮かべてしまったが、偶然聞えてきた予想外の言葉がそれを消し飛ばした。


「実は二十三手です」


 これを聞いて振り返らなかった自分を褒めたたえたい。


「……偶然だろ」


 それ以上その会話を聞くことに価値を見出せなくなった俺は再度、聖稜館の手がかりを探して歩き始めた。

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