第一章

第1話 WSCへの入口

「人類の文明は戦争と共に発達してきた。では、盤上の宇宙で行われている数多の戦争で、我々は何を生み出すことができるのだろうか」


唐突にどこかワームホールでも落ちていくような景色と共にそんなくだらない話が流れだした。


 俺は適当に話を聞き流す。


 少しでも将棋の楽しさを伝えようとする映像が360度で流れるも、俺にとってはストレス量産機でしかない。


 そうして長く無駄なチュートリアルを乗り越えて将棋のルール説明が流れ始めた。


 ……が、単調だったはずの世界に異変が起こる。


 最初は視界が何度か明滅する程度だった。


「では最後に将棋のルールを確認させていただきます。

 将棋は動きの決められた駒を使って相手の王を先に取った方が勝ち。

 ただし、禁止事項としては、同じ列に歩を二枚打つ二歩、それと相手の王を歩打ちで詰ますうち歩詰めの二点があります。また、同じ局面が繰り返して行われる千日手は先後交代で指し直しになりますが、連続王手の千日手は王手をかけている側の負けとなります。なお、千日手が二回続いた場合は引き分けとなりますのでごチュウ……イ…イ……」


 平穏な説明にノイズが走る。


 バグか? 新品のはずだが……。



『お待ちして…ました。絶対に…来て……』



 何かを必死に訴えているような、どこか懐かし声が脳内に響いた。


 ……ストレスを通り越してついに幻聴でも聞こえ始めたか?


 やがて一瞬の沈黙が訪れた。


「それでは、ルール、マナーを守って思う存分お楽しみください!」


 不手際を誤魔化すかのように淡々と響く不気味なほど明るい声。


 まるで何事も無かったかのような機械的な機械音声によって、俺は地獄へと送り出された。

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