第19話 劇場型・愛の告白

しかしながら、結論から言うと、大方の予想を裏切ってまさかの作戦成功だった。




この上なく渋い、納得がいかない顔つきをしたナタリーだったが、三人のご令嬢方から、ルイス宛ての手紙を預かっていた。


「ロザンナ嬢と別れたって聞いたのよ。うちのお茶会に来てくれないかしら? 婚約も破棄したのよね?」


「でも……」


そこで、ようやくルイスから頼まれたこと(メリンダへの自分の愛を広めて欲しい)を思い出したナタリーは、言葉を継いだ。


「でも、婚約者のことが忘れられないらしくて……」


「そんなことない筈よ。ロザンナ嬢と付き合っていたじゃない」


「つきあっていたというか……なんか、メリンダに振られて呆然としていただけみたいだけど」


「それでも、婚約はもう戻らないと思うの。だから、誰かほかを探さないといけないと思うわ」


これは相手の言っていることの方が正しい。


「えーと、本人はメリンダ嬢一筋だって言ってたけど」


「公爵家よね。中身は、とにかく見た目は自慢になるわ。背も高いし。メリンダ嬢が絶望的なら、誰でもいいんじゃないかしら?」


結局、ナタリーは同じような問答を繰り返した挙句、三通とも預かることになった。


「あなたが決めることじゃない」と言われて。




「それはそうだけどねえ……」


モニカ嬢も、同じく二通預かっていた。


「驚くわよね」


しかし、それだけではなかった。


生徒会室に闖入してきたのはロザンナ嬢だった。



ロザンナ嬢は……ナタリー嬢もモニカ嬢も、苦手とするジャンルの人物で、それまで付き合いがなかったのだが、二人の顔を見るなり、聞いてきた。


「ルイスはどこかしら?」


「え? さあ?」


「知りませんわ?」


ロザンナ嬢はルイス宛ての手紙を見ると、それは何だと聞いてきた。


「多分、お茶会のお誘いだと思いますけど」


ナタリー嬢は不安げに返事した。他人あての手紙なんだけど。


「なんですって?」


彼女はあっと今に五通の手紙の差出人を確認すると、手紙を開封しようとして、ナタリー嬢とモニカ嬢に止められた。


「邪魔しないでよ。あなたがたにそんな権利はないでしょ?」


モニカ嬢とナタリー嬢は目を丸くした。勝手にルイス宛ての手紙を開封する権利なんて、誰にもないはずだ。


「私とルイスは婚約するのよ。だから、こんな失礼な礼儀外れの手紙は処分しなくちゃ。まったく、人の婚約者に手紙を出そうだなんて」


「婚約者じゃないでしょ?」


モニカ嬢は思わず突っ込んだ。


ロザンナ嬢はそれは気に入らなかったらしい。


ナタリー嬢に突っかかってこようとしたとき、当のルイスがフラリと入って来た。


「場所を変えよう」


なんで場所を変えなきゃいけないのか、イマイチ謎だったが、女性と二人きりで話したくないからという理屈に何となく納得して、会場は食堂に移された。




ルイスとロザンナ嬢は、食堂で堂々と口論を始めた。


ルイスは冷静に訥々とつとつと。ロザンナ嬢はいささか興奮して。



「でも、俺はメリンダ嬢が好きなんだ」


「婚約を破棄されているわよね?」


「でも、好きなんだ。忘れられない。ずっと婚約者だった。ずっと好きだった」


「そんなことを言っても、笑いものになるだけよ」


「構わない」




「どうして、これ、食堂でやんなきゃいけないのかしら?」


モニカ嬢がナタリー嬢に聞いた。


二人は、会話に参加するではなく、言い争いを聞いているだけだった。



みんなが見ている。めちゃくちゃに恥ずかしい。


モニカ嬢がそっとあたりを見回した。



「食堂にメリンダがいるからでしょ」


「聞かせたいのね、メリンダに」


「絶対、聞いてもらえないから。学園内で近付こうとしても逃げられるし、家は訪問出来ないらしいし」




絶対にメリンダにも聴こえている。


その証拠に彼女、誰にも顔を見られないようにうつむいている。



「ルイス、意外に策士だったのね」


「そうよね。だって、生徒会室で話ししたっていいはずよ。私たちもいるから、二人きりってわけじゃないもの。食堂でこの話、やりたかったのよね」


「そうよ。今なんて、ホラ、ごらんなさいよ」



言い合っている二人を遠巻きにして、大勢の生徒が聞き耳を立てている。





「メリンダが好きなんだ!」




「この作戦は成功なの?」


「さあ? 婚約破棄を卒業パーティでやらかすみたいなもんかしらね」


「ねえ、それ、やった人、必ず失敗になるヤツよ?」



どうなるのかしら? メリンダが真っ赤になっているのが見えた。

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